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蓮華に餡を掬って食べると、上品で優しい甘みが笠原の舌を包む。
とても美味しい。
浅井も「美味い美味い」と言って食べている。
「善哉ってさぁ、温めるだけじゃこうはいかないよね。どうやって作るんだろ」
「小豆だから、圧力鍋で煮てるんだと」
「あ、普通に煮るのじゃ駄目なんだ」
「その方がふっくらして美味しいと思います」
「なるほど。綾さんも作ってそうだなぁ」
しばらく2人は、善哉を味わう事に集中した。
滑らかな舌触りと粒あんの食感を楽しんで、半分まで食べ進める。
「……笠原君は、」
再び浅井から声が掛かる。
「綾さんの事、凄く気にしてくれるよね」
それは問いかけであった。
どうして?という声なき声を感じ取った笠原は、手の動きを止める。
「……それは、」
蓮華を持った手を、ゆっくり下ろした。
「俺を育ててくれた人が、錦野さんと歳も近くて。重なったというか」
「そっか……あの、まだ亡くなってる訳じゃないよね?」
「はい」
「なら、良かった」
笠原の答えを聞いて、浅井は少しホッとした表情を浮かべた。
歳を聞いて安否が気になったのだろう。
それから「そうか、育ての親ね……」と呟いて、何か思いを馳せた様に宙へ視線を浮かべる。
「……俺にとってもね、綾さんって育ての親みたいなもんなんだ」
思い出を辿る様に。
ぽつぽつと、静かな声で浅井は話し始めた。
「中学生入る前に親どっちも亡くしちゃって、一度親戚に引き取られたんだ。で、まぁその親戚が酷いもんで……俺コテンパンにやられてね。絵を描くにしてもこき下ろされるし破られるし、話し出したらきっと一晩掛かるぐらいに凄かった。それを光──綾さんのお孫さんね、気にしてくれてて、光のお母さんに話してくれてたんだ。それで、ある日とうとう家出した俺を光と光のお母さんが保護してくれて、綾さんとはその成り行きで会ったって訳。ほら、綾さんって樹脂粘土で花とか作るでしょ。同じ世界の人だからウマも合ってさ。全然血も繋がってないけど、ホント「おばあちゃん」って感じで。……沢山あったかい言葉をくれて、とにかく良くして貰ったんだ」
浅井の目に微かな哀しみが広がる。
「たまたま関西で仕事があるから立ち寄れて良かったけど。……もう会えないかもなぁ」
言ってから浅井はハッとした表情を浮かべた。
うっかり零れてしまった言葉に被りを振って、困ったように笑う。
「ごめん、暗い話する為に連れてきた訳じゃないのに。……いかんな、良い大人が」
「……俺も、浅井さんと同じです」
気づくと笠原も、言葉を零していた。
浅井はちょっと驚いた様子で顔を上げた。




