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何処か静かな所に行きたい。
外の空気を吸いたい。
という伊里塚の要望に応えて、槇はタクシーを呼ぶと付近の公園に連れて行って貰った。
住宅地ではあるが、広い敷地なので話し声もそこまで気にする必要はない。
伊里塚は公園に入ると、近くのベンチにドサリと力無く座り込んだ。
槇は傍に自販機を見つけたので、2人分の飲み物を買ってからベンチに行った。
「コーヒーじゃ目が冴えると思ったから」
伊里塚に緑茶の缶を差し出す。
一応受け取ってくれたものの、口を付ける様子は無さそうだ。
……そりゃあ、そうか。
槇の心には今、伊里塚の感情が伝わってきている。
深い喪失感、哀しみ、ほんの少しの怒り、虚無感──
槇は伊里塚の隣に腰掛けた。
「……伊里塚君」
「………」
「お疲れ様」
伊里塚は何も答えない。
別に良い。
耳に入っていたら、それで。
「彼……木原君ね。最期まで、本当に穏やかな気持ちで居たんだよ。伊里塚君が最後まで寄り添って、看取ってくれたからだね」
「………」
「君の兄弟は誰一人、悲惨な人生にはならなかった。君が向き合って、最後の最後まで皆のことを見ていたから。……皆、ちゃんと人間として生きてたよ」
槇の心に、新たな感情のさざめきが届く。
伊里塚を見ると……彼の頬には一筋の涙が伝っていた。
「……くそっ」
伊里塚は顔を歪めると、片手で顔を覆った。
「こんなトコで泣くつもりなんか、無かったのにな」
……背中が大きく打ち震えて、溜息にも似た吐息が吐き出される。
伊里塚が泣いた所を見たのは、もう何年も前だ。
ずっと背負い続けてきた物は、余りにも重た過ぎた。
けれど兄弟達が皆この世を去っても、こうして胸に押し込めてきた辛苦を吐露しても、それが消えることは無いだろう。
きっと伊里塚がそれを良しとしない。
伊里塚はこれからもずっと、背負い続けるのだろう。
一生、自身の”責”として。
声を押し殺して、静かに泣く伊里塚の背中を槇は慰めるように撫でさすった。
せめて彼の心を侵す痛みが、少しでも和らぐように。
自分に出来ることは、それしかなかった。




