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3

何処か静かな所に行きたい。

外の空気を吸いたい。


という伊里塚の要望に応えて、槇はタクシーを呼ぶと付近の公園に連れて行って貰った。

住宅地ではあるが、広い敷地なので話し声もそこまで気にする必要はない。

伊里塚は公園に入ると、近くのベンチにドサリと力無く座り込んだ。

槇は傍に自販機を見つけたので、2人分の飲み物を買ってからベンチに行った。


「コーヒーじゃ目が冴えると思ったから」


伊里塚に緑茶の缶を差し出す。

一応受け取ってくれたものの、口を付ける様子は無さそうだ。

……そりゃあ、そうか。

槇の心には今、伊里塚の感情が伝わってきている。

深い喪失感、哀しみ、ほんの少しの怒り、虚無感──

槇は伊里塚の隣に腰掛けた。


「……伊里塚君」

「………」

「お疲れ様」


伊里塚は何も答えない。

別に良い。

耳に入っていたら、それで。


「彼……木原君ね。最期まで、本当に穏やかな気持ちで居たんだよ。伊里塚君が最後まで寄り添って、看取ってくれたからだね」

「………」

「君の兄弟は誰一人、悲惨な人生にはならなかった。君が向き合って、最後の最後まで皆のことを見ていたから。……皆、ちゃんと人間として生きてたよ」


槇の心に、新たな感情のさざめきが届く。

伊里塚を見ると……彼の頬には一筋の涙が伝っていた。


「……くそっ」


伊里塚は顔を歪めると、片手で顔を覆った。


「こんなトコで泣くつもりなんか、無かったのにな」


……背中が大きく打ち震えて、溜息にも似た吐息が吐き出される。

伊里塚が泣いた所を見たのは、もう何年も前だ。

ずっと背負い続けてきた物は、余りにも重た過ぎた。

けれど兄弟達が皆この世を去っても、こうして胸に押し込めてきた辛苦を吐露しても、それが消えることは無いだろう。

きっと伊里塚がそれを良しとしない。

伊里塚はこれからもずっと、背負い続けるのだろう。

一生、自身の”責”として。


声を押し殺して、静かに泣く伊里塚の背中を槇は慰めるように撫でさすった。

せめて彼の心を侵す痛みが、少しでも和らぐように。

自分に出来ることは、それしかなかった。


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