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伊里塚の涙

No.1224。

弦胡島クローン研究所にて、No.12 伊里塚 剛志の24人目のクローンとして誕生した男の名称である。

現在は木原きはら 正行まさゆきと名を改め、おおよそ15年間を関東で過ごしていた。


「マサ、薬は?……もう打ったのか?」

「剛志が来てから、して貰うように言った」


伊里塚と槇は、大阪のとある大学病院を訪れていた。

個室の病室に通して貰い、室内に居るのは3人だけ。

ベッドに横たわっている男は、髪型は違えど、傍らの椅子に座った伊里塚と瓜二つの顔立ちをしている。

彼がその木原 正行であった。


「……お前が、一番長かったな」

「どっこいどっこいだろ。……お前の手、あったけぇな」


木原の頬はこけ、随分やつれた容貌をしている。

伊里塚が握った彼の手すら痩せ細って、冷たい。

この身体には、成長促進剤を使用し続けた”ガタ”がきているのだ。

促進剤で成長させられたクローンは、皆寿命が短い。

あの研究所から解放された後も、生き残った伊里塚の”兄弟達”は次々と亡くなっていった。

──伊里塚は、その全員を看取り続けている。

そして今日、最後の生き残りである木原 正行を看取りに来たのだ。


コンコンと扉がノックされ、担当医が見えた。

医者は伊里塚達と挨拶を交わして、木原と言葉を交わす。

そうして腕の点滴を別の物と取り替えた。

これが、木原を眠るように死へ至らしめる薬だった。

医者は丁寧に一礼して、部屋を去っていった。


「10分で、効くんだと」

「10分か。そうか……」

「……んな顔するな剛志。……悲しくなるだろうが」


木原は苦笑して、伊里塚を見上げた。


木原が体調不良を訴えたのは、凡そ2ヶ月前のことである。

そこから急速に身体機能が低下していって、体力も酷く落ちた。

臓器もこのままでは使い物にならなくなるという宣告を受けており、治療はほぼ不可能と言われている。

延命措置もあるにはあるが、恐らく苦しい日々を送ることになる。

病院からはもう出られないはずだ。


それらを考えて、木原が選んだのは”安楽死”であった。


「しょうがねぇよ。こういう身体で生まれちまったんだから」

「マサ……」

「お前は何も悪くねぇ」


伊里塚は繋いだ手に、微かな力を込めた。

どれだけ兄弟達を看取っていても、辛いものは辛い。

今更何を思っても仕方ないが……自分があの時、そのまま車に轢かれて死んでいたら。

あるいは実験の時に、何かの拍子で死んでいたら。

彼らがこんな苦しい人生を送ることは無かったのだと、暗い考えが心に忍び込む。

そんな伊里塚の心中を読んだのか、傍に立っていた槇が伊里塚の肩にそっと手を置いた。


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