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本当に大切にされているのだな、という言葉が浮かんだのは、別に羨ましいと思ったからじゃない。

特に他意はなかった。

けれどその言葉を言わなかったのは、


「そういえばあんま考えてへんかったけど」

「何だ?」

「生姜の旬って夏やっけ?」


きっとその優しさは、等しく笠原にも向けられたものだと思い至ったからだ。


「生姜は……冬だな」

「ハウス栽培?」

「そうではないか?」


まだ温かいスープを飲みながら、笠原は思考を巡らせる。

スーパーで買おうと思うと、旬ではない野菜は高い傾向にある。

真逆のシーズンであれば尚のこと。

それに生姜を安売りするのは余り見たことが無いから、槇はわざわざコーナーの隅に置かれているようなそれを取りに行ったのだろう。

他でも無い、明崎たちのことを考えて。

……本当にいい人だ。

性格も良くて、何でも卒なくこなす槇は、笠原にとって尊敬に値する人だった。


「……生姜ってホンマに身体あったかくなんねんなぁ」


果たして明崎が槇の優しさにちゃんと気づいているのかは分からないが、身体はしっかり愛情を受け取っている。

だから、こんな風に明るい人間になれたんじゃないだろうか。


「おかわりっ」

「宙よう食べるなぁ〜。あんま盛りすぎなや」

「うん!」


器を持って、宙がパタパタと台所へ走っていった。

鶏ガラスープは大好評らしい。


「あ、宙の宿題」

「宙の?」

「見る約束しててん。分からんトコあんねんて」


夕食を終えて。

食器を片付けた20分後には、居間のテーブルに小学生用の宿題テキストが広げられていた。

明崎が教える傍で笠原がテキストを覗くと、何やら懐かしい内容が載っている。

小学3年生は算数で足し算の筆算を習っているようだ。


「……はい、バツー」

「えー」

「宙、忘れてるトコあるで」

「……あ!」


宙は456+480という式の5と8の部分に斜線を引いて、上に小さく3と書き込んだ。

更に百の位の4の内、片っぽにも斜線を引いて5にする。


「……936?」

「正解〜、何や出来るオトコや〜ん」


明崎が褒めると宙は照れ臭そうに、ふひひと笑う。

宙も頭が良いらしく、テストも80点以上がほとんどらしい。


「で、次はどこが分からへんのん?」

「あのね──」


次の問題に取り掛かろうとした時だった。


パンッ……どぉん……!


遠くで何か、重い破裂音が聞こえた。

3人揃って、カーテンで覆われた窓を見た。


「今……何か聞こえたか?」


静かにしていると、もう一度聞こえた。


「……あ〜」


合点の入った様子の声が聞こえて笠原が振り返ると、明崎が時計を見上げていた。

19時過ぎだ。


「花火、上がってるんちゃう?」

「ホント!?」


それを聞いた宙の顔がパッと輝いた。

頷いた明崎の顔が、笠原の方へ向く。

明崎は笑みを浮かべた。


「ベランダから見えたりして」

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