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「──ほんじゃあ、原因って全然分からへんねんな」

「………」


齧りかけの小倉クリームパンに目を落として、笠原は頷いた。

昼休みになって、そういえば今日は弁当を持ってきていなかったことを思い出した明崎は、須藤と慌てて購買に走ったのである。

笠原は食欲も無いみたいで机に突っ伏していたが、とりあえず買って来た小倉クリームパンを「食べなさい」と押しつけ、自分も笠原の机で焼きそばパンを食べ始めた──そして今に至る。


「経過を見る、ねぇ……」

「………」


伊里塚と研究所に行った時の話をぽつりぽつりとしたものの、それもほんの少しで、重く口を閉ざしている。


「まぁ、今朝いきなりやったし……しゃあないかもしれへんけど」

「……アンタ、」

「え?」

「……いや、いい。何でもない」


何か言いかけた笠原は、思いとどまった様子でそっと被りを振ると、パンを袋に戻してスクールバックに仕舞ってしまった。

まだ、半分も食べていないのに。


「もういいん?倒れんで」

「……伊里塚先生に呼ばれている」

「あぁ……そうなん?」


席を立った笠原は、明崎を置いて教室から立ち去った。

それを見送った明崎は、なんとも言えない気持ちを燻らせながら焼きそばパンの残りを頬張った。


どうにかならないものだろうか。

急に浮き出たんだから、次の日になったら綺麗に無くなってましたとか、そういうことは無いのだろうか。

それとも、やはり──


思考を巡らせてみるものの、結局その辺りは想像でしかなく。

痛みと悲しみで一杯なのに、押し沈めようとする笠原の顔。

それと一緒に考えていたら、悪い方向に持って行っていまいそうだった。

最後の一口をCCレモヌと一緒に飲み下すと、明崎は席を立って教室を出て行った。

別に特別な用事があったわけじゃない。

ただトイレに行こうと思った。


──けれど、用を済ませた後で明崎は階段を降りていく伊里塚を見つけた。


「あれ……伊里塚君!」


明崎は思わずその背中を呼び止めてしまった。

笠原と一緒じゃ無かったのか。

伊里塚は振り返ると、明崎を見て「お前か」と応じた。


「笠原は?」

「笠原?」


伊里塚は微かに訝しげな表情を浮かべた。


「さっき伊里塚君に呼ばれてるって、出て行ったから。あ、今から行くん?」


その瞬間驚いた様子で、伊里塚は瞠目した。


「……あー。もう昼、食ったのか」

「あんま食べへんかったけどな」

「そうか。いつ出て行った?」

「結構前に出て行ったで」

「マジか。悪いことしたな。行ってくるわ」


伊里塚は先ほどよりも早い足取りで階段を降りて行った。

明崎はその姿を見送ってからも──しばらくその場に、立ち尽くしていた。


顔の強張りが解けなかった。



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