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「それ言うたら、アンタかて魔法使いみたいなモンやないか」
そこへ錦野さんから、笑みの含んだ声が掛かる。
「え〜?いやぁ、俺はほら。あれしか出来ることないから」
「この子はな、アンタぐらいの歳に絵画の全国コンクール出とったんや」
「えっ……そうなんですか!」
「いやいや、綾さん。そこは是非とも日展の話を……」
「ニッテンって、何ですか?」
「おや、アンタ知らんのか?日本で一番大きな美術展覧会やで」
浅井の作品はそこで何度も入選を果たし、更に賞も貰ったらしい。
錦野さん曰く、とても凄いことなのだという。
それを聞いた笠原が素直に感銘して浅井を見上げると、彼は「ホントそれ以外何も出来ないからね」と困ったように笑った。
「料理とか片付けとか全然ダメ。人間として根本的なものが出来上がってないからさ」
「でも、それだけ凄い才能をお持ちなら」
「それがね。光には『おいコラ』って、やっぱり怒られるんだ。その内死ぬぞ、って。マジシャンやってるのに一通り家事もこなすんだよ、偉いよね。ついでに俺のことも見てくれて。まぁ、それに甘えて未だにのんびんだらりとやっていられるんだけどね〜ハハハ」
それでも、凄いものは凄いと思う。
それに笠原は、浅井を羨ましく感じる所があった。
浅井は自身の人生について、余り難しく考えている様子は無かった。
何も考えていないとか、そういうことではない。
自分のやりたいように、気楽に。
少なくとも笠原のように、何か負い目を感じながら生きてはいないだろう。
……そんな風に、生きてみたい。
「で、そうそう!その話より粘土!綾さん、色どうしよう?もうここで作っちゃいましょうか?」
「ここでって、病院やで?やめぇや」
「そっか、流石に絵の具はアウトだ……。うーん、じゃあ何色系統がいいですか?淡いとか、濃いとか」
「……ほんじゃあ水色を作ってくれるか?濃い淡いは、アンタに任せる」
「オッケー。光に似合いそうな色作ってみます。ちなみに何作るの?」
「手品しとるから、花を考えとったんやけどな」
「なるほど。じゃあ茎とか葉っぱも作るよね。緑色も作っときます」
「せやな。……ああ、それと」
「はい?」
「紫も作ってくれるか?」
「あ、もう一個作る?了解です」
結局、今日は錦野さんと話をするだけで終わり、粘土を渡すのはまた次回となった。
でも錦野さんは何だか嬉しそうで、笠原は内心ホッと胸を撫で下ろしていた。
自分ではこれぐらいしか出来ることがないから。
余計なお世話にならなくて、良かった。
もちろん浅井の協力あっての賜物である。
──関西にやって来て、まさかこういうことになるとは思わなかったけれど。
笠原の心は不思議と温かかった。




