タエさんの助言
「先生がいらっしゃるとは……思ってもみませんでした」
「言ってなかったからな」
醤油と砂糖とお酢でサッパリ煮た鳥の手羽元の大皿に、焼きなすの冷や汁、きゅうりとオクラの和え物、それに炊き立ての白いご飯が並ぶ食卓。
元々4人程度で囲む広さのテーブルを男5人で囲むとなると、当然ながら、こみっと手狭な感じになった。
「ホンマやで。ってか伊里塚君バイク乗るって、紫己知っとった?」
「えっ!」
「やんなぁ。俺も今日知ったし」
「そういえば伊里塚君、移動って神奈川からバイク1つで来たの?」
「馬鹿。フェリーで大阪から来たに決まってんだろ」
「バイクカッコいい。俺も乗りたーい」
「チュー太郎乗ったら風で吹っ飛ぶんじゃないか」
「そんなに軽くないもん!」
「ほれ、取ってやるから皿の鶏全部食え」
そして話題に上ることといえば、やはり伊里塚のことだ。
当の本人は、宙の皿に手羽元をもう2本取り分けて「デッカくなれよ」と言いながら手渡している。
宙は早速3本目になる手羽元にかぶりついた。
「お仕事ですか?」
「まぁそんな所だな」
「確認作業やったっけ?」
「おう」
伊里塚は、どうしてこちらに来たのかについて、余り話すことは無かった。
仕事ならば、と明崎も笠原も深く聞いていない。
それに夕食を終えると、槇と伊里塚は早々に何処かへ出掛けた。
滞在期間は5日間である。
2人は親友で、仕事も同期同士だから積もる話があるのだろう。
そう思いながら明崎と笠原は2人を見送った。
──その後ベランダに出た笠原は、持っていたスマホを起動させた。
連絡先の項目を数度タップして、耳元に当てる。
「──もしもし?」
『もしもし?』
スピーカーから、深みのある女性の声が聞こえた。
「遅くにすみません、タエさん。……寝てましたか?」
『いいえ。どうしたんだい?奈良は楽しめているのかい?』
電話の向こうの人物──タエさんは穏やかに尋ねた。
それでも声の端々に、毅然としたものが滲み出ている。
笠原の目の裏にも、背筋が伸びて凛とした顔立ちの、初老の女性が思い浮かんだ。
「その……実は」
関西に来てから連絡を取るのは、これが初めてである。
まず笠原は、これまでの竹川医院での出来事を正直に話した。
錦野さんについて、少し相談したかったのだ。




