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明崎が遊びに出掛けて、伊里塚が槇の家に上がっている頃。

笠原は一人、美術道具専門の店を訪れていた。

彼が手にしているのは絵の具12色セットと、樹脂粘土。

もちろん、錦野さんへ渡す物だ。

病室では何をするでもなく毎日を過ごしている様だったから、渡したら喜んでくれるかもしれない。

とはいえ迷惑だったら嫌なので、店に行く前、浅井にもメールで相談はしてみた。

すると今笠原が持っている物を買って欲しいという返事が来たのだ。


『それ用の筆とかバケツは俺の持ってくよ。今日は病院に行くのかな?』

『分かりました。病院は3日後に行く予定です』

『オッケー。行けそうだから、一緒の時間に良かったらどう?』


絵の具と樹脂粘土の代金も渡したいから、という浅井に笠原は遠慮する返事をしたが、結局押し切られた。

そんな訳で笠原は、浅井と共に医院へ訪れることを約束して、家に戻った。


……そうしたら何故か伊里塚が居るので、びっくりして提げていたビニール袋を落とし掛けてしまった。


「……先生?」

「おう。久しいな侍君」

「侍君?」

「あだ名」


床にどかりと座り、扇風機の前を陣取った伊里塚は、不思議そうに首を傾げた槇に対してもごく普通に答える。

丸で最初から住んでいたかのような、くつろぎっぷりだ。


「ああ〜、うん。しっくりくるねぇ」

「そ……そうですか?」

「カッコいい」


傍に座っていた槇はからかう風でもなく、微笑んで同意している。


「侍が似合うってスゴくない?」

「今時なぁ。貴重な人種だよな」

「僕だったら憧れちゃうよ。強そう」

「あ、ありがとう……ございます?」


なんの脈絡も無く褒められた笠原は戸惑うばかりで、つい語尾にも「?」がついた。

「侍君」と初めて呼ばれた時は、思い切りからかわれた感があったのだが。


「……そろそろご飯作らなきゃ」

「で、何買ってきたんだ?」

「これですか?」


聞かれて笠原がビニール袋を軽く掲げると、伊里塚は頷く。


「絵の具と、樹脂粘土です」

「樹脂粘土ぉ?」

「ああ、お婆さんにね」


伊里塚は突拍子の無いことを聞いたと言いたげに、何だか驚いた様子で聞き返した。

対する槇は、すぐに把握したようだ。


「お婆さんって何だ?」

「ご飯作ってくるー」

「なぁ、お婆さん……」


伊里塚の質問をスルーして立ち上がった槇は、笠原の傍にやって来る。


「笠原君、夕飯作るの手伝って貰っていいかな?」

「はい」


どうして伊里塚がここに居るのか気になるものの、一先ず返事をした笠原は槇の後についていった。


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