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「………」
須藤は何か言いたげに、自分の席へ向かった笠原の姿を目で追ったが、結局何も言わず黙り込んでしまった。
明崎も、無理に追おうとはしない。
……正直、まだ不安のような戸惑いのような感情が胸底で燻っている。
この鱗は、もちろん笠原から離れれば消えるものだ。
しかし顔に出来てしまったとなれば、これはまた厄介なことである。
今でこそガーゼで誤魔化せているが、この手も1ヶ月は保つまいと見ている。
何かしら別の手は打たねばならないだろうし、もしこの鱗が他人の目に触れてしまえば──
その時は、笠原が恐れている事態になってしまうだろう。
多分この学校にはもう居られない。
分かっている。
幾ら明崎にとっては「綺麗な物」だとしても。
多くの他人にとっては「奇っ怪で気味の悪い物」にしか見えないということ。
現に笠原は、それで沢山傷つけられてきた。
勿論明崎だからといって、ここの生徒たちですらそれでも容赦することは無いだろう。
この鱗が顔に出来てしまったというのは、そういうことだ。
誰もが、油断ならない存在になってしまうのだ。
こういう事態になって、明崎は笠原の置かれた状況を身をもって痛感することになった。
……そして、笠原の心の内をより深く知ることにも繋がった。
「須藤」
「………」
「授業始まんでー。自分の席にお帰り〜」
「………」
「……めっちゃ気にしてんのは分かるけどさ、ちょっと置いといたってよ。あの人が一番整理ついてないねんから」
「……ああ。……そう、だよな」
「もっちょい落ち着いてからにしぃ。紫己だって分かるって。そんだけ落ち込んどるもん」
「……そう思うか?」
「思う」
「……分かった」
ちょっと励ましてから須藤を席に戻すと、明崎も自分の席に戻りがてらチラリと笠原を見遣る。
笠原は次の授業の用意をしているが、顔色は全くもって浮かない。
無意識であろう手が、左頬のバンドエイド部分をさする様にして親指を滑らせる。
そらぁ、ずっとこんな怖いモン抱えて生きてきたんやもんな……
明崎も頬のガーゼ越しに鱗の感触を、指でそっと確かめた。
不安だからといって、笠原を見捨てるつもりなど微塵も無い。
けれど顔に鱗が出来てしまうのは、先ほど言ったように2人にとって困ることだ。
まずは、解決への糸口を見つけ出すことである。
歩かねば、何も始まらないのだ。