医院へお迎え
「おっちゃーん」
丁度今なら昼休みの頃である。
明崎がコツコツと病院の窓を叩くと、そこがガラリと開いて、中から竹川が顔を出した。
「おう、介坊。中入るか?」
「紫己来てへん?」
「紫己?」
竹川は「はて?」と首を傾げた。
あ、そっか。
おっちゃんには「笠原」の方が伝わる。
「笠原って、一昨日の」
「あー、あの子け。来てるとは聞いてへんだがなぁ」
「え、ホンマ?こっち来るっぽい感じやったからさ」
「確認したろか」
「うん」
「ほれ、上がって冷たいの飲みぃ」
「はーい」
明崎は言われた通り、病院の裏口に回ってそこから入った。
槇が居ない時は。
明崎は竹川を「おっちゃん」呼ばわりしている。
もちろん内緒である。
槇に知られたら、めちゃくちゃ怒られるだろうことは承知の上だ。
竹川が休憩に使っている事務室へ入って、早速冷蔵庫の麦茶を取り出す。
中学時代からちょくちょく通っていて、竹川はいつも「冷蔵庫勝手に開けや」と言って、お菓子や飲み物をくれるのだ。
それにしても病院内は涼しい。
コップ一杯に入れた麦茶をぐぃっと一息に飲み干してしまう程に、外は本当に暑かった。
「居てたわ」
程なく竹川が部屋に帰ってきて、そう言った。
「やっぱり」
「錦野のばあさんトコに居る言うとったで。何でまた……」
「気にしてたみたいやねん」
「なんでや」
「それが分からへん」
よくよく考えてみればたった5分ぐらいしか話を交わさなかったはずで、普通それだけで気になって見舞いに行くものだろうか。
「そらあの婆さん、余り人と喋らんけどなぁ……心配したんか」
「きっと」
「何ちゅーか、偉い奇特な子やな。今時珍しいやっちゃで」
「俺もそう思う、武士っぽいし」
「武士ィ?」
そんな会話をしながら、竹川と一緒に2階へ上がり、件の病室へ向かった。
扉が少し開いている。
そこから明崎はこっそり中の様子を窺った。
「いえ、俺の方こそ色々教えて頂いて……ありがとうございました」
「なぁに……こんなお婆の話をよう聞いてくれたもんや」
ベッドの傍らに座る笠原の姿が見えた。
それからベッドに横たわって、クツクツと笑うお婆さんも。
「料理もええけどな、食中毒は気ぃつけるねんで」
「はい。食中毒、怖いですからね」
「そやで、あんなんなったら大変や」
……高校生とは思えない会話をしている。
「……花持ってきたんか」
明崎の頭上で一緒になって覗き込んでいた竹川が、気づいた様子で言った。
それで明崎も気づいた。
ベッドを跨ぐように設置されたボードの上に、花籠が置かれている。
そっか……花ホンマに買って行ったんや。




