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しかし。
その瞬間、笠原がそこに力を入れるよりも1秒早く、扉が勝手に開いた。
引き戸にそのまま手を持って行かれてしまった笠原は、びっくりして声を上げた。
「わっ……!」
「お?」
笠原の耳に、男性の声が届いた。
さして驚いた訳でもなさそうだが、思わずといった感じの反応である。
笠原が慌てて正面に目を戻すと、そこには頭半分ほど高い青年が1人立っていた。
「………」
「………」
髪の毛をさっぱり切り整えたその人は、Tシャツとジーンズ姿というラフな格好で、片側の肩にリュックを背負っている。
お互い、目を合わせたまましばらくその場を動かなかった。
というよりは、青年がじっと見つめてきたので、笠原は目を離せなかったのだ。
「……おー」
やがて青年が感心したように声を上げる。
よく分からないまま、ただ青年を見返していると「どないしたんや?」という、あのお婆さんの声が聞こえた。
「錦野さんにご用?」
青年が興味深そうに質問してきた。
「は……はい」
おずおず質問に答えれば、青年はニッと笑って突然笠原の両肩を掴んだ。
「えっ!?」
「ちょっとちょっと綾さん!いつの間にこんな若い彼氏捕まえちゃったの!」
背後を振り返った青年は嬉しそうに声を掛けながら、笠原を部屋へ引き込む。
突然のことに反応出来ず、されるがままに動かされた笠原は、気づくとベッドで上半身を起こしたお婆さんの前に立たされていた。
お婆さんは笠原を見るや、驚いたように目を丸くした。
「アンタ……この前の、」
「隅に置けないなぁ。まだまだイケるじゃないですか、ねぇ?彼氏君」
「かっ……彼氏……!?」
何だ、何がどうなっている。
余りに急な展開についていけず、笠原は言葉が継げなかった。
それにこの人、よくよく聞けば標準語だ。
「で、ご用は?彼女さんに素敵なプレゼント持って来ちゃったりしたの?」
彼女っ……!?
しかも自分の用にまで話が及んでしまっている。
全く心の準備が出来ていなかった笠原にすれば、これだけでもう大パニックであった。
明崎や槇であれば、上手い切り返しをしただろう。
しかし笠原は話し下手で、人付き合いも不器用な質だ。
そんな彼が矢継ぎ早に質問や話を振られてしまったら、もう青年の言葉通りに動くしかなく……
「こ、これを……」
笠原は恐る恐る紙バックから、色とりどりの花を盛ったミニバスケットを取り出して、お婆さんに見せた。
「は……?」
「おや〜……?」
当然のことながら、お婆さんは更に目を丸くしたし、背後の青年に至ってはまさかの展開にぽかんとした表情を浮かべたのである。




