とある花屋の男子の話
まぁ、この街にあって何処もそうだと思うが、平日の花屋は暇だ。
と、沢崎は思った。
特に夏だ。
暑いし、女なら焼けることを気にする。
そりゃあ進んで外に出てくる訳も無くて、まして余程の用事が無い限り花屋に来る訳が無いのだ。
「店の中は涼しいけどなぁ……」
セミは賑やかに、傍迷惑に鳴き喚いている。
店のガラス戸を隔てても、それはよく聞こえた。
これが冷房の効かない中で聞かされたら、沢崎は恐らく発狂していただろう。
「ひ〜ま〜だ〜よ〜。ひまやで〜」
誰も居ない店内で、歌とも言えない何かを口ずさみながら、沢崎は取り出したスマホを起動させた。
最近他県から帰ってきたという友人に一報入れてみようか。
多分アイツなら暇しているというか、遊び相手を探しているに違いない。
チリン、チリン……
不意にドアに取り付けた鈴が鳴って、沢崎は慌ててスマホを隠した。
まさか客が来るとは思わず、油断していた。
「い、らっしゃいませ〜」
何とか取り繕って挨拶をした時である。
そのお客の顔を見て、唖然としてしまった。
「……こんにちは」
控えめに微笑んだその人は、とても綺麗な顔立ちをしていた。
髪は緩く、柔らかく癖付いた黒髪。
声や身体つきでやっと男だと分かったが、黙っていたらどちらか分からなかったと思う。
……もしかして同い年だろうか?
高校生?
ぼぉっとその美人な男子を眺める。
美人な男子は店内に並ぶ色とりどりの花を見下ろして、1つ1つ見始めた。
時折、指先でそっと触れたり、屈んだりして形を見たりする。
こんだけ顔綺麗やったら、彼女居てんねんやろなぁ。
彼女に花渡すってことやろなぁ。
……高校生で、花?
ちょっと恥ずかしくない?
「あの」
ふと件の彼が顔を上げて、こちらを見た。
「は、はい!はい」
「見舞いに花を持っていきたいんですが」
「え……見舞いっ!?」
素っ頓狂な声で対応したら、続く言葉にまた素っ頓狂な声を上げてしまった。
しかも関東弁やこの人。
「見舞いですと……女性の方ですか?」
「はい」
ああ〜、でもせやんな?
彼女や絶対。
「お見舞いやったら、そうですねぇ……」
お見舞い用なぁ。
オカン、何て説明してたっけ。
「えっと、菊や薔薇は選ばない方がいいですね。後、シクラメンも」
「薔薇も?」
彼はちょっと意外そうに花の名前を繰り返した。
そやねん、薔薇って紅いから血ィ連想すんねんて。
「それと鉢植えとか花瓶必要な花もアカンって聞くんで、籠みたいなのに入れましょうか」
「お願いします」
少し話しただけだが、随分礼儀正しい人だ。
大人っぽいし、しっかりしている。
この頃には、沢崎も幾らか好感を覚えていた。
どの花を組み合わせようかと思った時、沢崎はとあることを思い出して、「あ」と声を上げた。
「最近生花アカンって病院多いですけど、そちらはいけますか?」
「えっ」
美人な男子は驚いた表情を浮かべた。
ああ、やっぱり。
知らんかったんや。
……思い出して良かった。




