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”……花”


アパートの2階通路を進んでいたら、笠原の小さな呟きが聞こえた。


花?


思わず聞き返しそうになった。

この辺りに花でもあったかと、周囲に目を走らせるも見当たらない。

今日出掛けた先でも、花に関連する要素は無かったように思うが……

玄関を開けると、「おかえり」と槇に迎えられた。


「ただいま〜」

「ただいま戻りました」

「大仏見てこれた?」


早速槇が笠原に聞く。


「大仏も御殿もあんなに大きいものだとは思わなくて……驚きました」

「奈良のお寺は皆規模が大きいからね。興福寺にも行ってきたかな」

「はい!阿修羅像、見てきました」

「昔は奈良公園が全部興福寺の旧境内だったんだよ」

「えっ!?……奈良公園って、かなり広いですよね」

「確か県庁や近鉄奈良駅の辺りまでお寺の領地だったんだ。凄いよね」

「……確かに規模が大きいですね」


それは横で聞いていた明崎も初耳であった。

そうなんや、知らんかった。


「最近竹川先生に教えてもらってさ。先生喜ぶと思うから、今度話でも聞きに行っておいで」


竹川先生、というワードを聞いた瞬間に、また笠原の心が反応したのを明崎は感じる。


「あの、」

「ん?」

「………」


笠原が何か槇に言おうとした。

けれど、その先の言葉が続かない。

何か、躊躇っているようだった。

少しの間、もごもごとしていた笠原は結局「すみません、何でもないです」と言って話をやめてしまった。

槇は気にした風でもなく「そっか」と言葉を返す。


「また話したくなったらおいで」


笠原は少し恥ずかしげに頷くと、玄関を抜けて1人で明崎の部屋に行ってしまった。

それを見送る槇と明崎の2人。


”……団之介”


やがて槇から話し掛けられる。


”花屋って、何のことだろ?”


花屋ぁ?


”花屋言うてたん?”

”うん”

”……分からへん。でも、ここ入る前も「花」言うてた”

”う〜ん……花屋……”


2人して首を傾げつつも、暑いところに居てもしょうがないと、とりあえず玄関から移動しようとする。


「あ、お風呂入る?」

「うん」

「着替え出しとくから行っといで」


そんな訳で明崎がシャワーを使うと、笠原にも声が掛かったようで、出てくるとバトンタッチで笠原も浴室に入った。


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