竹川医院にて
竹川医院は、昨日バスで走った国道を逆戻りして、途中の道を曲がったその先にある。
敷地自体は一軒屋が2件分程だが3階建てである。
個人の診療所としては、大きい所だ。
車を降りて、明崎たちは槇の後についていく。
今日は午前の診察だけで、時間が空いていると言われたそうだ。
中に入ると、待合室には誰も居なかった。
受付のカウンターには事務員さんらしき女性が2、3人で何やら書物をしてる。
「こんにちは」
槇が声を掛けると、顔を上げた1人の女性が見知った様子でにこやかに挨拶を返した。
「奥へどうぞ」と言われると、槇たちは勝手知ったる様子で、診察室があるらしい奥の通路へ進んでいく。
一番最後に笠原がついていくと、槇が既に診察室の扉をノックしていた。
「先生、こんにちわ」
引き戸を開けて、槇が挨拶しながら入っていく。
其処に居たのは、半袖の衣服を着た大柄なお爺さんだった。
「おう、来たんか」
どっしりした身体で椅子から立ち上がるお爺さんこそが、恐らく竹川先生なのだろう。
頭は禿げ上がり、薄く白髪を纏っている。
「先生久し振り!」
「おー、介坊!また大きなったか!」
「先生よりまだ小さいで」
明崎が前に出て来ると、竹川先生らしきその人は明崎の頭をわしゃっと撫でた。
明崎は嬉しそうに笑った。
そこへ「せんせー!」と宙も飛び込んでいったものだから、お爺さんは小学生と高校生に挟み込まれる形になる。
「宙坊も元気にしとったんけ?」
「うん!」
「そらぁ何よりや」
ガハハハッと笑った先生は、今度は槇を見て──その後ろの笠原に目を留めた。
「お前、まだ子供隠しとったんか」
「あー、実は次男が居まして」
「お前にそんなデカい子供居って堪るか!」
「ははは」
「ほんで名前は?」
最後の部分は、笠原に向かって問われたものだった。
「笠原 紫己です。初めまして」
「……聞いた覚えがあるな」
「ああ、ほら。前にお話したじゃないですか」
「そうけ?」
槇ともそんな遣り取りをした後、お爺さんはやはり竹川と名乗った。
「……あー、思い出した!前言っとったなぁ。水の子か」
笠原が思わず槇を仰げば、「ずっと前だけどね」と槇は答えてくれた。
「先生には君の能力のこと、ちらっと話してたんだ」
「能力……」
一瞬不安を覚えたのが顔に出てしまったらしく、槇は慌てたように「うん、ホントにちらっとだよ?」と言う。
笠原もハッとして、「いえ!」と首を振った。
……よくない癖を持ってしまった、と思う。
ここに来てから気が緩んでいるのか、明崎や槇に気を遣われてしまっている。
何だか、心まで読まれているみたいだ。
槇と笠原の遣り取りを眺める竹川は、特に口は挟もうとしない。
隣で一緒に見ていた明崎は、ちらっと竹川を見て、また前に視線を戻した。
きっと竹川は観察しているのだろう。
「よし」
槇と笠原の会話が途切れたところで、竹川が声を出した。
「向こう行くで」
向こう、とは応接室のことである。
竹川が診察室を出ると、その後をぞろぞろと皆でついて行く。
槇は竹川の隣に移動して、何か話し始めた。
「竹川先生、全然硬くなる必要とか無いからさ」
後ろで明崎は笠原にそっと耳打ちする。
「大丈夫やで」
「……大丈夫」
笠原はコクリと頷いた。




