プチ水族館
「うわぁー、すっげぇ。泳いでるー!」
「宙は、魚好きか?」
「好きー!」
明崎が戻ると、部屋の中は水族館と化していた。
「ぅわぉ……」
宙を滑るように、透明な身体の魚が何匹も泳いでいる。
魚は部屋に射し込んだ日の光を受け、チラチラとその身体を輝かせながら、室内をゆったりと巡っていた。
思いがけない光景に明崎は、つい惚けたように突っ立ってそれらを眺める。
そんな明崎に気づいて振り向いた笠原が、魚を1匹送り出した。
すると魚は、遊ぶように明崎の周りをくるくる周回しだす。
細長くて、ひらひらしたヒレを持った綺麗な魚だ。
明崎は感心して、背中に回り込んだのを振り返ったりと、魚の姿を目で追った。
「にいちゃんお帰り!」
宙も気付いて、明崎の所へ来た。
「ただいまぁ。紫己にいちゃんに遊んでもろてた?」
「うん!」
「水族館みたいやな」
迷わず腰に抱きついてきた宙の肩に手を置きながら、辺りを遊泳する魚達を見遣る。
「片付け、すまんな」
「いいえ〜」
床に座ったまま明崎を見上げる笠原。
よくよく見れば、彼の傍に水の入ったバケツが置かれていた。
「何を出来るのか聞かれたのだ」
「ああ。なるほど」
以前、イトトンボを形造って明崎に見せてくれたことを思い出す。
これなら確かに、楽しませながら見せることが出来る。
「宙のはもう聞いた?」
「火を起こせるそうだな」
宙の能力はパイロキネシスであり、火を何処でも自在に起こせる能力だ。
ただし、現時点ではよっぽど頑張らない限り発現することはない。
酷く驚いたり強い恐怖を覚えた時、稀に起こしてしまうことはあるようだが、研究所側でもそこまで危険視はしていなかったはず。
「水良いなぁ……」
「人それぞれやで」
悠々と泳ぐ魚達を眺めながら、羨ましそうに呟いた宙に明崎は言った。
「宙だってええやん。料理できるし、冬あったかいやん?」
「でも全然出来ないよ」
「練習してたら使えるって」
……正直、余り使えるようにならない方がいいと思っている。
笑顔の裏の、明崎の本音だ。
幸い笠原のように制御出来ないことは無く、寧ろ訓練さえすればコントロール出来るようになるだろうと、研究所では考えられている。
けれど宙が扱うのは火だ。
使い方を間違えれば、人の命も容易く奪ってしまう。
もし笠原の時みたいに攫われるようなことがあったら、宙が利用される目的はきっと──
"歯止めが効かないよりかは、良いに決まってる"
笠原の、心の声が聞こえた。
聞こえるということは、明崎にもそれが当てはまるのだろう。
笠原はそんなことを丸で思ってない風に、不規則に旋回する魚達をぼんやり見上げて操っている。
その感覚までもが明崎に伝わってきた。
丸で視線を動かすような容易さで、笠原は魚達を遊ばせている。
"火か……"
考え込むような笠原の声。
"おかしな連中に目を付けられなければいいが"
ああ……君もそう思う?
明崎は思わず言葉を返していた。
心の中だけで呟いたつもりだった。
しかし明崎が思った瞬間、泳いでいた魚達がピタリと動きを止め、笠原が少し驚いた表情でこちらを見た。
「今……」
「へ……?」
……あ。
明崎はハッとして、次の瞬間には「ん?」と何事も無かったように首を傾げ、へらりと笑って見せた。
「どしたん?」
「……いや、」
笠原は否定の言葉を使いながらも、目は戸惑いを露わにしている。
"団之介の声が、聞こえた気がしたが……"
「何でも、無い」
"気のせい、だな"
何処か納得いかないながらも、本人はそれで結論を落ち着かせた。
「さいですかぁ」と、軽く応じる明崎。
その胸中では──
うわー、もぉ……うわー……
そんなつもりは無かったのに。
明崎はどうも笠原に、テレパシーしてしまっていたようで。
至って普通を装った向こう側で、明崎は久々の罪悪感に悶えることとなった。
バレるのも困るけど、こんなところで嘘は吐きたくなかった……!




