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「俺も手伝う」
「ええよ。ゆっくりしといて〜」
笠原はそう言ってくれたが、明崎はやんわり断って1人で行く。
台所では、槇が余った素麺の深皿を冷蔵庫に仕舞う所だった。
槇は振り向くと「ありがとう」と言って、流し台に移動する。
「置いといて」
「うん」
「お皿拭くの、紫の布巾」
シンクに皿を置いて、明崎は頭上近くに掛かっていた紫の布巾を取った。
水道を捻って、槇が洗い物を始める。
”……やっぱ言わん方がええ?”
”うん”
明崎が聞くと、槇ははっきりとそう返事した。
”人に心を見透かされることほど、不安なことってないと思うよ”
一度水で濯いだ皿を、泡立てたスポンジで次々と洗っていく。
”笠原君が知ったら、お互いギクシャクしちゃうと思うなぁ”
”……うん。そんな気ィはする”
槇の泡だらけの手を、何とはなしに見つめながら明崎は頷く。
”フェアじゃないなって思う気持ちはまぁ、分かるんだけどね”
”んー……フェアじゃないってより……”
ちょっと怖いってゆーか……
紫己がふとした瞬間、もし明崎に対して”嫌だ”と気持ちを持ったとしたら。
明崎はそれを知ってしまうことになる。
その瞬間が凄く、怖い。
再び蛇口を捻って水を出した槇は、皿を丁寧に濯いで、1枚1枚乾燥カゴに入れていく。
”分かるよ。他人の心を聞くって、結構怖い”
”うん……”
その1枚1枚の皿を、今度は明崎が拭いて片付けた。
”あの子、”
全部洗い終えて、水を止めた槇がぽつりと言う。
”ここの家と自分の家、少し比べてたみたいだ”
”………”
”子供の頃から、理不尽な環境で過ごしてる人にはある話でさ。つい、何で自分はこの人より幸せじゃないんだろうって、考えちゃう瞬間があるんだよね。無い物ねだりって訳じゃないんだろうけど”
”そっか……”
羨ましかった、のか。
脳裏に不安の影が過ぎって、布巾を持つ明崎の手が止まった。
”……ちゃんと、楽しめるかな”
”団之介と話してる時は楽しそうだったよ”
”ホンマ?”
”うん”
心配になって、心許なく見上げる明崎に対して槇はニコリと笑ってみせる。
……そういえば、僕と伊里塚君にもあったなぁ。
似た感じのこと。
ぼんやり槇が考えていると、「えっ、そうやったん!?」と明崎から声が上がった。
「そうそう。僕がこんなだからさ、伊里塚君にちょっと避けられた時期あったんだよね」
「へぇ〜っ……伊里塚君でもそんなんあったんや」
「お互い多感な時期で、その時は流石に悩んだなぁ。何せ一番の友達だったし、嫌われるの嫌だったから。結局仲が戻った後も、いかに伊里塚君にネガティブな気持ちを持たせないようにするかって、必死だったんだ」
「それ、逆に伊里塚君……怒らん?」
「勿論怒られた」
「怒られたんや!?」
「ははは」
槇は軽やかに笑う。
”要は自然にしてるのが一番なんだよ。向こうが君のことをどう思っていても、それを侵害しちゃいけない。あの子の心はあの子の物だ。だから、君が友人として好きな以上はある程度受け入れなくちゃいけない。好きも嫌いもね。君だって、たまにムッとすることあるでしょ?”
聞かれて「まぁ、確かに……」と明崎はおずおずと頷く。
その通りだ。
接してる上で、どんなに好きでもムッとすることはある訳で。
”でも本当に友達なら、何を思っても最後には必ず君を好きだって思うはずだよ”
「ね?」
「あ……」
そう……そう、やんな。
「そういうこと。心配しすぎ」
槇は、拭き終わって重ねられていた皿を持った。
ついでに紫の布巾も明崎の手から引き抜く。
「後やっておくから」
笠原君とこ、行っておいで




