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「笠原君にも会わせたい人でさ」
「どのような方なのですか?」
そんな苦悩をする明崎を傍らに置いて、槇と笠原が話を進めていく。
「今は普通に内科のお医者さんされてるんだけど、元はセカンド・チャイルド付きのお医者さんだった人なんだ」
「セカンド・チャイルド付きの……」
「僕や伊里塚君は子供の頃にとてもお世話になってね。良い人だよ」
「お会いしてみたいです」
槇が朗らかに話していく内に、笠原の表情は和らいでいく。
笠原が初対面相手にここまで気を許す所は初めて見た気がする。
明崎の保護者だからというのもあると思うが、きっと槇の人柄あってのことだろう。
槇の話し口調や態度は、不思議と人を優しい気持ちにさせるのだ。
子供相手だと、特に。
”……ここで、団之介は過ごしていたのだな”
温かい気持ちの滲む声が、明崎の心に届いた。
それは言うまでもなく笠原の言葉で。
”良いところ、だ”
だがその気持ちが、ふっと翳った。
明崎はハッとして笠原を見る。
彼の表情に変わった様子は見受けられず、続く彼の言葉ももう聞こえなかった。
……間も無く視線に気づいた笠原が、明崎を見てきょとんとした表情を浮かべた。
「何だ?」
”……顔に出てしまっていたか?”
「あ、いや……何でもないっす」
やっぱり。
何か思う所があったのだ。
「………」
あ、下手こいた。
そう思ったのは、笠原がじぃっと明崎の瞳を覗き込んできたからだ。
明崎が見つめていたせいである。
その癖、笠原から声や気持ちは全く感じ取れない。
ただ無心に、明崎の目を見つめてくる。
若干動揺を見せてしまった明崎は、おっかなびっくり、ついつい見返してしまった。
「………」
「………」
そこからゆっくりと数えて5秒程。
明崎は自分を見つめてくる笠原の目力に段々と気圧され、気づけば身体が後ろに引いていた。
何や、何やこの時間。
怖い。
そう思った瞬間、急に笠原が吹き出すように笑ったので、明崎は目を丸くした。
「え」
「……変なヤツ」
「いや……いやいやいや!」
笠原は可笑しそうにクツクツと笑っている。
「変ちゃうし!」
「ふざけただけだ」
……全く、調子が狂う。
笠原から聞こえる気持ちにばかり気を取られてしまって、会話が上手く出来ない。
「……やはりアンタ、変だぞ」
「なんでもないですぅ〜」
笠原が訝しがっている。
明崎は再び素麺に手を付けることで、その視線から逃れた。
どうしよう。
素麺を啜りながら思う。
笠原の心を読めてしまうと、正直に話すべきだろうか。
でも……
”話さない方が良いと思うよ”
突然思考へ入り込んできた言葉に、明崎はピタリと動きを止めた。
……槇さん?
そろりと視線を上向ければ、槇は笠原に話し掛けられていた。
「槇さんはいつもお仕事、何時から行かれるんですか?」
「僕は保護観察員だから、普段在宅で仕事の遣り取りしてるんだ」
「そうなんですか」
「そう。だから大体家には居るよ。たまに呼び出しが掛かると研究所に行くけど」
「それなら、宙君も寂しくないですね」
「僕も楽させて貰って助かるよ」
小さく笑い合う2人。
笠原は、この瞬間に何を思っているのだろう。
槇さんはそれを”聞いている”んだろうか。
「研究所は、奈良にあるのですか?」
「大阪。通勤しようって思ったら片道1時間は掛かる」
「そうか……大阪、近いんですね」
「まぁ笠原君の感覚で言ったらそうだよね。僕にとっては結構遠く感じるんだけど」
──食事を終えて。
「ご馳走様」と2人でしてから、明崎は皿をまとめて台所に行った。
一足先に行った槇が「片付けるの手伝って」と言っていたからだ。




