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4


「笠原君にも会わせたい人でさ」

「どのような方なのですか?」


そんな苦悩をする明崎を傍らに置いて、槇と笠原が話を進めていく。


「今は普通に内科のお医者さんされてるんだけど、元はセカンド・チャイルド付きのお医者さんだった人なんだ」

「セカンド・チャイルド付きの……」

「僕や伊里塚君は子供の頃にとてもお世話になってね。良い人だよ」

「お会いしてみたいです」


槇が朗らかに話していく内に、笠原の表情は和らいでいく。

笠原が初対面相手にここまで気を許す所は初めて見た気がする。

明崎の保護者だからというのもあると思うが、きっと槇の人柄あってのことだろう。

槇の話し口調や態度は、不思議と人を優しい気持ちにさせるのだ。

子供相手だと、特に。


”……ここで、団之介は過ごしていたのだな”


温かい気持ちの滲む声が、明崎の心に届いた。

それは言うまでもなく笠原の言葉で。


”良いところ、だ”


だがその気持ちが、ふっと翳った。

明崎はハッとして笠原を見る。

彼の表情に変わった様子は見受けられず、続く彼の言葉ももう聞こえなかった。

……間も無く視線に気づいた笠原が、明崎を見てきょとんとした表情を浮かべた。


「何だ?」


”……顔に出てしまっていたか?”


「あ、いや……何でもないっす」


やっぱり。

何か思う所があったのだ。


「………」


あ、下手こいた。

そう思ったのは、笠原がじぃっと明崎の瞳を覗き込んできたからだ。

明崎が見つめていたせいである。

その癖、笠原から声や気持ちは全く感じ取れない。

ただ無心に、明崎の目を見つめてくる。

若干動揺を見せてしまった明崎は、おっかなびっくり、ついつい見返してしまった。


「………」

「………」


そこからゆっくりと数えて5秒程。

明崎は自分を見つめてくる笠原の目力に段々と気圧され、気づけば身体が後ろに引いていた。


何や、何やこの時間。

怖い。


そう思った瞬間、急に笠原が吹き出すように笑ったので、明崎は目を丸くした。


「え」

「……変なヤツ」

「いや……いやいやいや!」


笠原は可笑しそうにクツクツと笑っている。


「変ちゃうし!」

「ふざけただけだ」


……全く、調子が狂う。

笠原から聞こえる気持ちにばかり気を取られてしまって、会話が上手く出来ない。


「……やはりアンタ、変だぞ」

「なんでもないですぅ〜」


笠原が訝しがっている。

明崎は再び素麺に手を付けることで、その視線から逃れた。

どうしよう。

素麺を啜りながら思う。


笠原の心を読めてしまうと、正直に話すべきだろうか。

でも……


”話さない方が良いと思うよ”


突然思考へ入り込んできた言葉に、明崎はピタリと動きを止めた。

……槇さん?

そろりと視線を上向ければ、槇は笠原に話し掛けられていた。


「槇さんはいつもお仕事、何時から行かれるんですか?」

「僕は保護観察員だから、普段在宅で仕事の遣り取りしてるんだ」

「そうなんですか」

「そう。だから大体家には居るよ。たまに呼び出しが掛かると研究所に行くけど」

「それなら、宙君も寂しくないですね」

「僕も楽させて貰って助かるよ」


小さく笑い合う2人。

笠原は、この瞬間に何を思っているのだろう。

槇さんはそれを”聞いている”んだろうか。


「研究所は、奈良にあるのですか?」

「大阪。通勤しようって思ったら片道1時間は掛かる」

「そうか……大阪、近いんですね」

「まぁ笠原君の感覚で言ったらそうだよね。僕にとっては結構遠く感じるんだけど」


──食事を終えて。

「ご馳走様」と2人でしてから、明崎は皿をまとめて台所に行った。

一足先に行った槇が「片付けるの手伝って」と言っていたからだ。

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