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「夏休みはずっと家帰るん?」


明崎は何気無い風を装って聞いてみた。

ショッピングモール内のフードコートで、タピオカ入りドリンクを頼みながら、2人は化学のノートを広げている。

ココナッツミルク風味の冷たいジュースで喉を潤し、少し生気を取り戻していた笠原の目がふと翳った。


「寮の点検整備さえ終わったら、戻るつもりだ」


夏休みの最初の2週間は、寮の設備点検に充てられる。

その間、生徒達は例外無く退去して家に戻らなくてはならない。

あの真っ黒屋敷も対象だが、期間さえ明ければ戻って来れるようになっている。


「突っ込んだこと聞くようやけど……あんま行くのいらんの?」


笠原は肯定も否定もしなかった。

ただ、「両方」と言った。


「タエさんには会いたいと思うが……迷惑になると思うと、な」

「でもタエさん、いっつも文通してるやん。紫己のことめっちゃ気にしてはるのに。何が迷惑になんの?」

「タエさんというか……一緒に住んでる家族がな」

「……なるほど」


これだけで何となく、どういうことなのか明崎は察してしまった。


「タエさんと紫己は、親戚やったんやっけ?」

「遠い親戚らしい」


元々笠原とタエさんは、養子縁組をする直前まで全くお互いに存在を知らなかったぐらいに、疎遠な関係だったと聞く。

どんな経緯で笠原を引き取ったのかまで聞いたことはないが、少なくともタエさん自身の意志で立派に彼を育てたということは、笠原の話から窺えた。

タエさんに問題は無い。

けれど、タエさんと暮らす”家族”に問題があるという。


「家族って、タエさんの子供さん?」

「息子家族だ。4年前、タエさんが一度倒れた時から一緒に暮らしてる」

「ははぁ……そっか。タエさんのことを心配してか」

「……俺を引き取ることは、反対していたと聞く。それについてタエさんと言い争っていたことも何度か」

「え……聞いてたん?」


明崎が恐る恐る聞けば、コクリと頷き返された。

うわー……


「そんなん知ってたら……なぁ。行きにくいわな」


帰りたく無い訳である。

というか、自分の存在が丸っきり必要無いような話を多感な中学時代に聞かされる笠原が一番の被害者だ。

居場所が無いように思ってしまうのは当たり前で、余計孤立したがるに決まっていた。


「この顔で帰れば、タエさんにも心配掛けるだろうしな……」

「無理してまで、行かんくてええんちゃうの?」

「そこしか無い」


笠原は小さく溜息を吐いた。

目下の心配事はそれらしい。

……いつも不安に晒されて、何だか可哀想だ。


同じ時間生きて、同じ学校に来て、隣に居るのに。


明崎の人生とは丸で似ても似つかない、仄暗さを帯びた笠原の人生。

他人とは、こうも違うものなのか。


「あのさ、」


気づくと明崎は、思いついたことをそのまま口に出していた。


「こっち来たら?」

「は?」


こっち?と、きょとんとした笠原が目をパチクリさせた。


「こっちって……」

「こっち」


明崎は自分を指差した。


「槇さん家」


笠原が楽しく無いというのなら、こっちが楽しませるまでである。


「ちなみに槇さんは了承済み。夏休み、遊びに来ていいってさ」


昨日聞いといて良かった。

我ながら感心する用意の良さである。


思い掛け無い言葉にびっくりして明崎を見つめる笠原。

明崎はニッコリと笑ってみせた。


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