タダより
「あぁ、良かった!治ったんだね!」
次の月曜日になって。
この日受ける3教科のテストが終わり、生徒達が各々帰り支度を始めた2-Aに霧ケ原がやって来た。
霧ケ原は笠原が言わずとも、追体験で事情は大体把握している。
心配していたのだ。
それで笠原の様子を見に来れば、何と笠原の左頬は元通り綺麗な肌を取り戻しているではないか。
嬉々として彼の傍に行くと、当の本人も隣に居た明崎も困ったような笑みを浮かべた。
「……治った訳ではないのだ」
「あのな、これ人工皮膚やねん」
「人工皮膚……?」
小声で告げられた言葉に、霧ケ原は目を瞠る。
特殊メイクなどで使われるような代物である。
次いで笠原の左頬に着目するも、どの辺りまでがその人工皮膚とやらなのか見分けがつかなかった。
「……全然気づかなかった」
「そうか?なら、良かった」
霧ケ原が思わず言葉を零せば、笠原はホッとしたように微笑を浮かべた。
それでもよくよく見れば、何かファンデーションみたいな物を塗っていることに気づく。
つまりこの下には、まだ鱗があるのだ。
「奏女王に色々融通して貰てん」
「奏に?……なるほど。あの人ならこういうの扱ってそうだもんね」
「お陰様で紫己君は……なぁ?」
「言うな……」
明崎が含んだ笑みを浮かべつつ、からかうように笠原を見遣ると、彼は途端にげんなりした表情を見せて顔を背けてしまった。
「……何があったの?」
「ん〜、まぁ後でのお楽しみやな〜」
「おーい。帰んぞ〜」
支度を終えた須藤が、3人に声を掛けて通り過ぎようとする。
「はーい」と霧ケ原が、続いて笠原もスクールバックを肩に掛けて後に続いた。
最後尾になった明崎は、3人と一緒に教室を出ながら昨日のことを振り返った。
──────
無理を言って奏と会う約束を取り付けた2人は、昼頃に彼が居る撮影所へ赴いた。
当初面倒臭そうに2人を応接室に通した奏だったが、笠原が頬のガーゼを剥がせば、流石に態度を改めて真剣に話に応じてくれた。
「なるほどねぇ。出て来ちゃった訳か……可哀想に」
可哀想に……!?
笠原の頬に浮き出た鱗を、臆することなく指で撫でつつ言った奏に、明崎はぎょっと目を見開く。
……まさかその口から「可哀想」が出てくるとは思わなかった。




