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8

「……あ」

「……どうした」


ふと思いついたことがあって、明崎は声を上げてしまった。


「う〜ん……何でもない」


しかし内容が内容だったので、明崎は首を横に振った。


「気になる」

「別に大したことちゃうねん」

「聞きたい」

「……そこで我儘使う〜?」


何てこった。

まさかの”我儘”発動。


「あんま聞けることちゃうなって思ってんけど……さっきのって、どんな夢やったん?」


正直に話すと、今度は笠原が黙り込んでしまった。

……ほら見てみぃ、もう〜。

俺かて色々考えて言ってんもん。

……やがて笠原は肩から顔を離し、身体を起こした。


「……アンタ、怒ると思う」


笠原は、躊躇った様子でそう言った。


「え、俺が怒るん?」


笠原はコクリと頷いた。


……怒るって何よ。

俺が死ぬとか?


「怒らへんやん、そんなん。夢やで?ええよ、言って」


軽く請け合い、こうして明崎は笠原から夢のあらましを聞くことになった。


──5分後。


「そんなん言う訳無いやんかーっ!」

「だからアンタが怒ると……」

「何や「化けモンになってもうた」って!誰やねんそいつ!絶っ対俺ちゃうし!宇宙人や宇宙人!!」


明崎はギャンギャン喚くことになった。


「ってか、俺がそんなんホンマに言い始めたらヤってくれてええから!」

「こ、殺す訳ないだろ!」

「いやホンマ!ガチで!にしてもさぁー……くわぁーっ!腹立つー!何やその関西人!むっちゃ腹立つわー!」


やっぱ聞かへん方が良かった。

いや、聞いて良かったんかもしれへんけど、ここまでムカつくとは思わへんかった。


そしてついに矛先は──


「やっぱな、こんな殺風景な部屋で1人寂しく寝てるのがアカンねん!君今日から俺の部屋来ィ!」

「はっ……?」


笠原は目を丸くして明崎を凝視する。


「ほい、立つ!」

「え、ちょっ……アンタ、」

「由々しき事態や!汚名返上や!」


ぐいっと立たされて、訳が分からないという顔をする笠原。

当たり前である。

しかしその時にはもう明崎が暴走気味になっていて、笠原はまず明崎の部屋に押し込まれた。

続いて、彼の部屋に運び込まれる布団。

それで漸く事態を理解した笠原は、慌てて明崎を止めに走った。


──押し問答の末。

「悶々と1人で考え込むのがよくない」「他人が近くに居た方が安心するはず」という明崎の見解により、結局笠原は、しばらく明崎の部屋で寝ることになった。

やっぱり強引だ、コイツ。

と思ったりした笠原だが、2人共布団に入る頃になって明崎の話が始まると、それに耳を傾けていた。

いつもの──だけど、久し振りに聞く他愛も無い話。

普段よりも静かに話すそれに、笠原も一言二言返したり。

そうすると、不思議と心が落ち着いてくる。

きっと明崎と話している間は安心している自分が居るのだ。

やっと、日常に戻った気がする。


明崎が居てくれたら、大丈夫。

もう、それだけで……


やがて、笠原はうとうととし始める。

返事をしなくなった笠原に気づいて、明崎がベッドから顔を覗かせた。


「……ちょっとでも気ィ紛れたらええんやけどね」


笠原がまだ起きているのを知ってか知らずか、そんな呟きを零す。

それから手を伸ばして、笠原の髪を梳くようにして優しく撫でた。


「おやすみ」


おやすみ、と笠原も微睡む中で返した。

ちゃんと言えたのかも、定かではない。

明崎の穏やかな声に誘われるようにして、笠原はゆっくりと心地良い闇に身を委ねた。


恐ろしい夢は、もう見なかった。



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