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「……あ」
「……どうした」
ふと思いついたことがあって、明崎は声を上げてしまった。
「う〜ん……何でもない」
しかし内容が内容だったので、明崎は首を横に振った。
「気になる」
「別に大したことちゃうねん」
「聞きたい」
「……そこで我儘使う〜?」
何てこった。
まさかの”我儘”発動。
「あんま聞けることちゃうなって思ってんけど……さっきのって、どんな夢やったん?」
正直に話すと、今度は笠原が黙り込んでしまった。
……ほら見てみぃ、もう〜。
俺かて色々考えて言ってんもん。
……やがて笠原は肩から顔を離し、身体を起こした。
「……アンタ、怒ると思う」
笠原は、躊躇った様子でそう言った。
「え、俺が怒るん?」
笠原はコクリと頷いた。
……怒るって何よ。
俺が死ぬとか?
「怒らへんやん、そんなん。夢やで?ええよ、言って」
軽く請け合い、こうして明崎は笠原から夢のあらましを聞くことになった。
──5分後。
「そんなん言う訳無いやんかーっ!」
「だからアンタが怒ると……」
「何や「化けモンになってもうた」って!誰やねんそいつ!絶っ対俺ちゃうし!宇宙人や宇宙人!!」
明崎はギャンギャン喚くことになった。
「ってか、俺がそんなんホンマに言い始めたらヤってくれてええから!」
「こ、殺す訳ないだろ!」
「いやホンマ!ガチで!にしてもさぁー……くわぁーっ!腹立つー!何やその関西人!むっちゃ腹立つわー!」
やっぱ聞かへん方が良かった。
いや、聞いて良かったんかもしれへんけど、ここまでムカつくとは思わへんかった。
そしてついに矛先は──
「やっぱな、こんな殺風景な部屋で1人寂しく寝てるのがアカンねん!君今日から俺の部屋来ィ!」
「はっ……?」
笠原は目を丸くして明崎を凝視する。
「ほい、立つ!」
「え、ちょっ……アンタ、」
「由々しき事態や!汚名返上や!」
ぐいっと立たされて、訳が分からないという顔をする笠原。
当たり前である。
しかしその時にはもう明崎が暴走気味になっていて、笠原はまず明崎の部屋に押し込まれた。
続いて、彼の部屋に運び込まれる布団。
それで漸く事態を理解した笠原は、慌てて明崎を止めに走った。
──押し問答の末。
「悶々と1人で考え込むのがよくない」「他人が近くに居た方が安心するはず」という明崎の見解により、結局笠原は、しばらく明崎の部屋で寝ることになった。
やっぱり強引だ、コイツ。
と思ったりした笠原だが、2人共布団に入る頃になって明崎の話が始まると、それに耳を傾けていた。
いつもの──だけど、久し振りに聞く他愛も無い話。
普段よりも静かに話すそれに、笠原も一言二言返したり。
そうすると、不思議と心が落ち着いてくる。
きっと明崎と話している間は安心している自分が居るのだ。
やっと、日常に戻った気がする。
明崎が居てくれたら、大丈夫。
もう、それだけで……
やがて、笠原はうとうととし始める。
返事をしなくなった笠原に気づいて、明崎がベッドから顔を覗かせた。
「……ちょっとでも気ィ紛れたらええんやけどね」
笠原がまだ起きているのを知ってか知らずか、そんな呟きを零す。
それから手を伸ばして、笠原の髪を梳くようにして優しく撫でた。
「おやすみ」
おやすみ、と笠原も微睡む中で返した。
ちゃんと言えたのかも、定かではない。
明崎の穏やかな声に誘われるようにして、笠原はゆっくりと心地良い闇に身を委ねた。
恐ろしい夢は、もう見なかった。




