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「何が、違うん?」
明崎は静かに聞き返した。
「こんなこと……」
「うん……」
「………」
「……こんなことって何?」
重ねて、聞いてきた。
本当に全部話すまで、帰るつもりはないのだろう。
「迷惑が、掛かる」
「それはもうええからって、さっき言った」
「アンタも、俺の言葉を聞こうとしない」
「………」
「……いつもそうだ。強引に自分の考えばかり押し進めて」
ああ。
どうしてこんなことを言い始めたのだろう。
分からなくなっていた。
けれど笠原の唇は、これまで思っていたことを、思いつくままに話し始めていた。
「自分のせいで他人が不幸になるのを見るのが、どれだけ辛いと思う?」
「…………」
「他人には分からないだろうし……特にアンタには理解する側にはならないで欲しかった」
「……それは、」
「さっきだって、水が暴走しかけただろう?」
「………」
「どうして、放っといてくれなかった」
初めて鱗を見られた時。
あれから全て始まっている。
笠原も悪かった。
明崎が鱗や水を操る力までコピー出来ることを知った時点で、やはり彼には近づくべきではなかったのである。
でなければ、こんなことにはならなかった──
「放っといてくれたら。俺は誰にも迷惑を掛けないように生きるのに」
涙はいつの間にか止まっていた。
笠原の声は、少しずつ低くなっていく。
それに比例して声量は強くなり、怒気すらも滲ませるようになった。
「……皆そうだ。どいつもこいつも”俺”だから……化け物だからと好き勝手に言って、散々罵って。……誰も俺の言葉なんて聞こうとしない。聞く前に”死ね”という」
生まれて来なければ良かったのに、と誰もがその意味を込めた言葉を吐き掛ける。
他人という存在は全て敵に等しかった。
……だから、今まで独りを望んできたのだ。
「ならば生まれなければ良かったか?言われた時に、その場で死ねば良かったか?……ふざけるな。俺だって化け物や人殺しになりたくて生まれた訳じゃない」
じりじりと灼けついた怒りを纏うそれは、最早明崎に向けて言っているものでは無かった。
長年に渡って、それも幼い頃から笠原は、いつ割れるとも知れない薄氷の上に1人で立っているのだ。
冷たい水の中に叩き落されるかもしれない恐怖や、誰にも助けを求められない孤独感、自分が傷つこうが死のうが皆には関係ないのだろうという寂しさ。
積もりに積もった悲しい思いの数々が、複雑に入り混じった激情となって、今笠原の口から飛び出していた。
明崎は黙って、激しく渦巻く憤りを笠原の瞳に見ていた。
「皆、皆お前らの言い分ばかりだ……何故”俺”なのだ?何故”俺”ばかりこうなった?」
「紫己、」
「……何で」
布団を掴んだ笠原の拳がぎゅうっと、更に握り込まれた。
「望んでいないのにっ……俺がこんなことを望んだ訳ではないのに!!」
有りっ丈の理不尽を叩きつけるような叫びが、部屋に響き渡った。




