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お祭り男の出番


そして学園祭当日。

パイプ椅子がずらりと並んだ体育館に全校生徒が集まると、それはもうガヤガヤとうるさい。

誰もが楽しみで、隣近所と話せば話すだけ盛り上がるのだ。

そんな中、場内の照明がゆっくりとフェードアウトしていく。

束の間、闇に包まれた体育館。


「おっ!?」

「来た来た来た!」


他愛もないお喋りは息を潜め、その代わり期待のざわめきや掛け声が広がる。

──そして全校生徒の期待に応えるように、ステージにパッとスポットライトが当たった。


『あー、あかん。暗くて全っ然見えへん』


ゆるふわカールな茶髪ロングに、セーラー服と黒のハイソックス。

そこにはかなりガチの女装を施した男子が、マイク片手に立っていた。

一目である人物だと分かった連中から、既に大笑いする声が上がっている。


『えーと、皆さんこんにちはー!!』


とりあえずといった感じに放たれた関西弁の挨拶。

こんにちはーっ、とノリの良い生徒たちは歓声まじりに返した。


そう、今回司会役に抜擢されたのは明崎なのだ。

明崎は返ってきた返事に『やっば』大仰に驚いたリアクションを見せる。


『皆元気やなぁ!あ、紹介遅くなりました。司会進行役の明崎です、どうぞよろしくー』

「おい明崎!脱げ!」

「セーラー脱げー!」


冒頭から笑いが止まらない連中──すなわち2-Aからの容赦ない野次が、明崎に向かって飛んでいく。

……すると、それまで笑顔だった明崎の顔から笑みが消えていった。

マイクを口元に近づける。


『……オーダー入りまーす。はい、すね毛入りまーす。明崎ソックス下げまーす』


低い声で告げた明崎は、何故か徐にソックスを下げ始めた。

空気を読んだナイスなカメラ担当が、明崎の脚に近づいていく。

すかさずステージのスクリーンに電源が入り、明崎の素足が全面に映し出された。

その瞬間、体育館が阿鼻叫喚じみた爆笑に包まれた。

明崎がニヤァっと笑ってマイクを通さず叫ぶ。


「どうやぁ?!見苦しいやろ〜!!」

「ぎゃー!!」

「うわぁああ!」

「やめろ目が腐る!!」

「カメラ消せ!写すなー!」

「しばらくこれで居ったるからな、脱げ言うたヤツ後悔しとけよ」


出だしから全校生徒の注目をぐいっと勝ち取ったことで、開会式は生徒達を退屈させることなく進んだ。

明崎は本来の司会進行に戻っても、大体こんな感じで進行しながらの一人漫才している。


『えー、今回の準備に当たってむっちゃ頑張ってくれた人が居りますので、プログラムにはありませんがココで表彰を行いたいと思いまーす』


式も半ばになって、おおお!と歓声が上がる場内。

するとスポットライトの眩い光が2年生群のとある一画に当てられる。


『ポスターやらステージの飾り付けから門の装飾まで!毎日夜遅うまで頑張ってくれました、美術部部長さーん!!』


呼ばれた本人は、びっくりした様子で目をパチクリさせていた。

何も聞かされていなかったので、まさかと思っていたのだろう。

美術部部長は、明崎を見る。

当初笑顔で紹介していた明崎だったが、しかしその美術部部長と目が合うや……


祝うと言った癖に、丸でガンつけたチンピラよろしく、凶悪な表情で目を見開いて美術部部長を凝視し出した。


ちなみに美術部部長と明崎は仲がいい。

束の間しん、と沈黙したように思えたが、見つめられる内に堪えられなかった美術部部長は、噴き出すように笑ってしまった。

これまたナイスなカメラ担当が、今度は明崎の顔をどアップで映すと、 何が起きているのか気づいた他の生徒も笑い出した。

明崎はその怖い表情のまま、無造作な手振りで来るように促す。

美術部部長は笑いつつも、遠慮して首を横に振った。

明崎は声には出さず「あ゛?」と口を開けた。

喧嘩売ってんのか、と言わんばかりのしかめ面

美術部長は更に噴き、辺りで再び笑いの渦が巻き起こった。


ちょ、はよう。

はよ来いって。


全校生徒がニヤニヤ見守る中、明崎は口パクしながら乱暴な手つきで手招く。

そして急に思い出したように笑顔になった明崎は、周りの生徒に向かって手を合わせてぺこぺこと頭を下げた。


ごめんね〜もう、お待たせしちゃって☆


という意味が込められたジェスチャーで、それはもう可愛らしく愛嬌を振り撒いた──次の瞬間、今にも舌打ちをしかねないような顔つきで「はよせぇや」と美術部部長にはやっぱり目を剥いて見せた。

目だけで完全に脅している体である。

美術部部長はもう、笑いが止まらない。

何とか立ち上がって、ふらふらステージに上がってくる。

明崎は美術部部長がちゃんと隣にやって来るまで、目をかっ開いたまま首ごと動かして彼をガン見し続けた。

頑張って彼が隣までやって来ると、明崎はあっさりといつもの調子に戻った。


『……なぁ、ちょっと?何でそんな怖がってるん?』


心外とばかりにとぼけた表情を見せる明崎。

ぴくぴく肩を震わせるばかりで美術部部長は最早まともに答えられない。


『俺なんかした?』


当然外野からは、口々に「お前のせいだよ」というもっともな野次が飛んだ。

こうして美術部部長を表彰が終わるまで茶化した後は、残りのプログラムも好調に進め、開会式は大盛況の内に終了した。

すね毛は最後まで、そのままであった。


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