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ざわざわ ざわ……



水が、頭の中でざわついている。

そろそろ寝なくてはと、赤いジャージに着替え始めた午前1時半頃である。

最初は本当に小さくしかさざめいていなかったのが、今では大きくなって耳の底に響いていた。

それで明崎も気づいて、隣室を隔てる壁を見た。

ここ最近なら、明崎も寝ている時間である。

以前は確かに水のざわつきだけで目を覚ました事があったが、普段は中々それだけで目を覚ますことはない。


──もしかしたら。


明崎は襖を開けて部屋を出た。



──────



ミシミシと、肌が軋み悲鳴を上げる。

自分の身体が次第に翠銀色の鱗で埋め尽くされていく。

笠原はなす術もなく立ち尽くして、自分の両腕がもう間もなく指先まで鱗に覆われてしまう様を見つめていた。


「あ……あぁ……」


よろよろと後ずさっていく。

そうすると、いつも決まって鏡があり、振り返れば笠原の姿が鮮やかに映し出される。

何度も、何度も見た、鱗に覆われた人間とも称せないような容貌。

人の形をしただけの化け物。

その姿に恐怖と絶望が綯い交ぜになり、耐えきれず悲鳴を上げた後、いつも笠原は目を覚ました。

けれど今日は、背中にぶつかった物が違った。

ガッと痛い程の強い力で肩を掴まれ、強引に振り向かされる。

するとそこには、険しい形相をした明崎が立っていた。

左頬には、あの鱗が。


「君のせいやで……」

「あ……」


ぞっとする程に冷たい声で言われた時、笠原は意識が遠のくような衝撃を覚えて呼吸を忘れた。

左頬の鱗の周辺がミシ、ミシと微かに軋んだ音を立て始める。


「……違、」


違う。


笠原はか細い声で否定の言葉を漏らした。


こんなことは望んでいない。

こんなの……違う。


「何が違うんよ」


途端、水の波紋が広がるようにして、左頬を中心に明崎の顔が鱗に覆われていった。

笠原は凍りついたまま、目を逸らす事が出来なかった。

明崎は不意に沈痛な面持ちになり、自分の片手を持ち上げて見た。

鱗は瞬く間に身体を埋め尽くす。

その侵蝕が腕まで呑み込んで、もう少しで手首まで覆いそうであった。



「あぁ……」



鱗に覆われた明崎の唇から深く、失意に満ちた吐息が零れる。



「俺まで、化けモンになってもうた……──」



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