3
あ〜、楽しかったわ〜。
両手にプレゼントの入った紙バックを提げて明崎が透季島に帰ってきたのは、午後6時を過ぎた頃である。
カラオケ大会の後にも更に何人かから声が掛かって、会うとやっぱりプレゼントを貰ったり、遊びに誘われたりした。
もちろん誘いはありがたく乗った明崎だが、夕方近くになって、あることを思い出した。
紫己に夕飯のこと、何も声掛けてない。
いつも夕食を外で済ませる時は、予め笠原に連絡している。
夕方近くともなれば、笠原がそろそろ支度を始める頃合いで、すっぽかすなんて真似をすれば、笠原が悲しそうにがっかりするだろうと容易に想像ができた。
……紫己のご飯が食べたいというのもあるが。
そんな訳で明崎は、友人達と遊ぶのを早々に切り上げて、まっすぐ家に帰ったのだ。
……いや、それだけじゃない。
胸の底に隠れた本心には薄々気づいていた。
暗くなってきた駐車場で知らず知らずため息を吐いた明崎の心は、次第に曇っていく。
あの時──燈花会の夜、笠原に言ったことは。
きっと、取り返しのつかない言葉だ。
明崎も分かってて口にした。
それでも、間違ったことをしたとは思っていない。
嘘は、ついていないから──
あれはまさしく、明崎の本心だった。
笠原が自覚もなく抱いている明崎への気持ちは、知っている。
純粋な好意が、さざ波のように柔らかく明崎に伝わっていて、明崎も恐らく同じような想いを笠原に抱いていた。
笠原のことが……好きだった。
けれど明崎は、笠原の中で慟哭と共に溢れかえった思いの丈を、受け止めることができなかった。
思い知らされた、ちっぽけで弱くて、頼りない自分の姿。
耐えられず、あっという間に押し潰されたあの時のことは、情けないことに今でも怖いと思っている。
……けれど笠原は何も知らないまま、全幅の信頼を明崎に寄せているのである。
こんな自分に、だ。
笠原の好意に応えるなんて、今の自分には到底無理だ。
応えたとしても、笠原を欺いているようで明崎の方が耐えられなくなるのは目に見えていたし、これ以上自分の弱いところを彼に晒したくなかった。
だから、彼が自覚してしまう前に……
──きっと君が望んでるような関係には、俺ら……なれへんと思う。
明崎は、その手を離した。
"友達"という言葉を使って、彼を遠ざけた。
分かってる、卑怯な手を使ったのだ。
それこそ今更、「やめた」なんて簡単に言えることじゃない。
なのに……
エンジンを起動させて、空気の抵抗を受けながらスクーターは道路を走り出す。
どうしても笠原が気になって、仕方がなくて。
笠原の顔が脳裏にチラチラと映り込む。
近くに居れば、その気配を酷く意識してしまう。
一昨日に至っては、心配だからと池上の誘拐デートについて行った……その心配の中にあった気持ちは誤魔化しようがなかった。
あんな線引きをしたのは自分なのに。
もう気にする資格も無い。
まして、もう一度近づくことでさえしてはいけないのだ。
……ってか、「紫己のご飯食べたい」って何や。
信号を待ちながら、明崎は少し前の自分の考えにヘルメットの中で顔をしかめる。
それでも首を横に振って、無理に気を紛らわせた。




