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「お帰りー」
「ただいま」
笠原が帰宅すると、明崎が笑顔で迎えてくれた。
明崎を見たら、何となく安心感を覚える。
確かに池上と出掛けたのは楽しかったが……ちょっと疲れた部分もあった。
「何か楽しそうやったな」
明崎の言葉を聞いて、笠原はちょっと驚く。
「文面から分かるものなのか」
笠原は、明崎がまさか同じショッピングモール内に居たことなど知る由もない。
「うん。嫌そうじゃなかったし。実際楽しかったんやろ?」
「ああ。楽しかった」
「良かったやん」
言いながら明崎の視線は、抜け目なく笠原が手に提げた──フォトスタジオの袋に向けられていた。
「でやっ」
「わっ、あ!」
素早くフォトスタジオの袋を掻っ攫った明崎。
いきなり奪い取られて目を白黒させた笠原は、逃げる明崎にハッとして慌てて追い縋った。
「須藤ー!紫己のしゃしーん!!」
「お〜。でかした〜」
「ばっ、馬鹿、待て!」
「待たへーんっ」
バタバタと走って明崎が向かったのは、2階の須藤の部屋。
ドアは開いていて、明崎を迎え入れると笠原の目の前でバタンと閉められた。
「………」
うわ……
顔から血の気が引く思いの笠原は、呆然とドアを見つめる。
ガサガサと袋の中を漁る音。
……やがてドア越しに爆笑する声が聞こえて、笠原は堪らず両手で顔を覆った。
「あはっ……はははっ……紫己、これっ……」
ドアが開いて、笑い過ぎて涙目の明崎が出てきた。
その手にはしっかり両開かれた、あのA4台紙。
白無垢ツーショットと赤いドレスのソロショット。
明崎の後ろでは、須藤が床に横倒れてまだ笑い転げている。
「やめてくれ……」
笠原は見ていられず、とうとう廊下でしゃがみ込み、蹲った。
──────
「まぁでも、めっちゃ可愛ぇやん」
「……あれだけ笑った癖に」
「いやだって……あれ笑わんのが無理やん」
夕食後の遣り取りである。
笠原は明崎の足を思い切り踏んずけてやった。
「いった!!」と明崎がぴょんぴょん跳ねて騒いでいる内に、笠原は須藤の部屋に向かう。
「須藤」
コンコン、とドアをノックすると、須藤が顔を出した。
「どした」
「ちょっと……」
笠原が言葉を濁すと、部屋の中に入れてくれた。
「そういや、明崎の悲鳴が聞こえたけど」
「……気のせいだ」
「お〜。お前言うようになったな」
「あれだけ笑われたら腹も立つだろ」
「いやぁ、あれは笑うだろ」
笠原がムスッと睨むと、須藤は可笑しそうに笑った。
「で、どうしたんだ?」
「その……明後日のことで」
「明後日?」
「団之介」
「……あぁ〜」
須藤は思い出したように頷く。
「そうか、そういう日だったな」
「ショッピングモールに連れて行ってもらった時も見ていたのだが、何をしてやればいいのか思い浮かばなくてな……」
「そうだな……」
笠原の言葉に思考を巡らせた須藤。
程なく、ある記憶を手繰り寄せることになった。
「笠原、明日空いてるか?」
「まぁ、明後日の下準備をするつもりだが……」
「ショッピングモールに、もっかい行くぞ」
「えっ」
「スゴい心当たりがある。ってか、食材も買うだろ」
「そうだな、明日買いに行くつもりだったから……いいか?」
「すぐ行けるぜ」
「良かった。ありがとう」
「俺も何か考えねぇとなぁ〜」
こうして明崎も池上も知らないところで、実はとある目的の元に動いていた笠原。
須藤とこっそりショッピングモールに行く約束を取り付けた笠原は、更に明後日の計画を練っていく。
一体何が目的なのか。
明崎が知るのは、もちろん明後日のことである。




