夢の末
夜11時。
周りが寝静まっているか、あるいは好きな事をやっている頃。
笠原もまた、布団に入って横になっていた。
ただ、目だけはしっかりと開いていて、微かな月明かりを頼りにぼんやりと壁を見つめている。
うとうとと、まどろみを憶える。
身体が休息を求めている。
──それでも、眠りたくなかった。
この数日、眠りに落ちれば必ず悪夢を見るようになっていた。
決まってそれは、自分の全身が鱗に覆い尽くされていくという恐ろしい夢だ。
いつも恐怖の余り飛び起きてしまい、その後は目が冴えてしまって眠ることが出来なくなってしまう。
それが、不眠の原因であった。
周囲からも心配する声を掛けられるようになった。
確かに自分の顔は鏡で見ても相当やつれていたし、特に隈が酷い。
日を追うごとに全身の倦怠感は酷くなっていくし、ぼぅっとすることが多くなってきた。
頭も痛い。
時々気持ち悪くなることがある。
食欲も、殆ど湧かなかった。
……それでいいかもしれない、と自暴的にさえ思う。
そのお陰で、ほんの一瞬でも現実から逃れることが出来るのだから。
もちろん、このままではいけないと思う。
けれど助けを求めることは、出来ない。
自分で何処かに逃げ道を作らなければ。
自分でもう、なんとかしなくては。
どうしても明崎には、迷惑を掛けたくなかった。
それは昨夜リビングに居た彼を見て、思いを更に強めた。
もし明崎まで、全身が鱗に覆い尽くされてしまったら。
それが、衆目の中で起きてしまったら──
想像してしまった笠原は、思わず身を竦ませて、逃れる様に枕に顔を埋めた。
やっぱり自分は、他人と親交を深めるべきではなかったのかもしれない。
こうして、遠ざける事になってしまったのだから。
明崎は昨日、何を言おうとしたのだろう。
明らかにいつもの他愛無い会話を交わす雰囲気ではなかった。
怒っていたのだと思う。
怒って当たり前だ。
こんな風に避けられていたら、明崎だって良い思いはしないに決まっている。
……迫られる様に思った。
自分などこの世から消えた方がいいのかもしれないと──
そうして暗闇の中で。
いつしか思考は閉ざされ、笠原の意識は静かに奥底へ沈んでいった。
穏やかでない目覚めを予感する緊張も、眠りに落ちる瞬間だけは忘れていられた。