六
水上が古泉も誘って、三人で中古カメラ屋に行くことになった。夏川が乗ってきたのとは違う路線の地下鉄で二駅、ホームも電車内も着いた先も人であふれかえっていた。夏川から見た限りでは、二人は満員電車になれていないようだった。
「近くでよかった」
電車から降りて、人の邪魔にならないようにホームの柱に寄っていって、水上が言った。
「朝のラッシュだと、どこもこのくらいだと思いますよ」
「電車通学はムリ」
古泉も窮屈だったらしく、そんな感想をもらした。到着した電車から大勢の人が出てきて、階段に吸い込まれていく。ホームに人が少なくなったかと思うと、徐々に人が増えていって電車に乗るために列を作る。そしてまた、ホームは人でいっぱいになった。
「五分に一本の電車が来るって多すぎると思ってたけど、それぐらいは必要なんだな」
「水上さんの所は少ないんですか?」
「一時間に一本」
夏川は数キロにわたって続く田園地帯とその間を走る二両編成の電車を思い浮かべて、和んだ。雪原とかもいいなあ。
「いいですねえ」
「なんか馬鹿にしてないか」
「そんなことないですよ」
「田舎をばかにしてやがる。古泉からもこの不届き者に何か言ってやれ」
「ウチの方は一時間に三本電車来るから」
「負けた」
水上はうなだれた。
改札の正面に駅構内と周辺の案内図があった。情報量が多かったが、夏川と古泉はその中古カメラ屋に行ったことがあるので、すぐに場所がわかった。
出口の階段のすぐ近くにカメラ屋はあった。構内の混雑が嘘のように、その出口付近は人が少なかった。水上は店に入ってすぐに階段を上った。
「上は中古だけですよ」
「ああ、新品はいいや」
夏川と古泉は一階に残ったが、それぞれ別々に見て回った。
買うつもりはないが、新製品のカメラを使ってみたり、カタログを見たりした。天水や古泉を見ているとレンズ交換式のカメラが魅力的に思えるが、使いこなす自信がないので思うだけにした。
店の奥にカメラ関連の本が並んでいた。そこで古泉が雑誌くらいの大きさの本を開いていた。表紙がちらっと見え、猫の写真集だということがわかった。心なしか古泉の表情がやわらかいような気がする。
彼も本を手に取った。写真集よりも、エッセイのような文章が入っている本の方が好きだ。以前は本を読むことなんてほとんどなかったが、天水との会話のきっかけにしようと読み始めて、本を読むことに抵抗がなくなったようだ。
夏川は文庫本を一冊買って、二階に上がった。階段を上がったところには三脚が並んでいて、奥では中古カメラやレンズがガラスケースの中に陳列されている。デジタルカメラのメーカーは馴染みがあるが、フィルムカメラだと聞いたことのないメーカーがたくさんあった。
写真部に入って何ヶ月か経つが、まだまだ知らないことが多いと思った。しかし、色々なカメラを見ているだけでも結構面白かった。
一通り見終わったとき、水上がレジで商品を受けとっていた。一緒に下りて古泉と合流した。
「何買ったんですか?」
店を出てから夏川が水上に聞いた。
「カメラとレンズとフィルム。ちょっと安くしてくれた」
水上は嬉しそうに言った。
「一通りじゃないですか。見せてください」
「昼飯のときでいいだろ」