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 暗い景色を眺めながら、天水は過ぎていったこの一年のことを思い返した。真っ先に頭に浮かんだのは、二ヶ月前四人でこの場所に来たことだった。そのあとに、なぜか天水は自分が入部したときのことを思い出した。一昨年のことだった。ついさっき一昨年のことになった。

 二人は頂上広場の端、フェンスの所に並んで立って夜景を見ている。

 天水が写真部に入部したのは入学した年の五月のことだった。入部した理由や、時期が少し遅かった理由は誰にも話したことがなかった。鷹見も古泉も強いて聞こうとはしなかった。天水から話すのを待っていてくれた。

「実は、大学に入る前は写真部に入るつもりはなかったんです」

 天水は暗くて様子のわからない海の方に目を向けて言った。

「それは、どうして?」

 そう聞いた鷹見の声は優しかった。

 理由を説明するのは苦手だった。何か決定的な原因が一つあるならわかりやすいが、いつもいろいろな理由が絡み合って一つの行動に結びついていた。自分の中でさえまとめられていないそれらを表現できなかった。曖昧な言葉でごまかしたこともあった。

 時間が経った今なら言える気がした。

「私は、高校でも写真部だったんですが、他の部員が来なくなって、顧問の先生が時々来るだけで、それでも部はなくならなかったんですけど……」

 天水は苦笑した。

「まあ、部活に対してあまり良いイメージを持てなくなっていたんですよね。それでも続けたのは顧問のおかげでした。それで、受験勉強を始めてからはカメラを持ち出すこともなくなりました」

 そこで言葉を切った。鷹見は何も言わずに待った。天水は首からさげたカメラを手に取って見た。

「たぶん写真を撮るのが楽しくなくなったんだと思います。ふさいでいるときは暗い写真ばかりが目に付くから。でも、合格してからは気が楽になってまた撮り始めましたが、もう一人でもいいかなって思ったんです。仲間がいなくても、それでいいかなって」

 天水は淋しそうに笑ってカメラから手を放した。

「そう思ってたんですが、入学式の日に古泉に会って。一ヶ月位して写真部に誘われました。そのときに、古泉になら期待してもいいかもしれないと思ったんです。卑怯ですよね、自分からは何もいわないのに」

 鷹見は天水の顔を横から見た。天水はうつむいていた。

「その期待には、応えてくれた?」

 天水は驚いたように顔をあげ、鷹見に向けた。鷹見は微笑んでいた。

「はい。一方的に期待しておいてなんですけど。写真部に入って良かったと思ってますよ。古泉にも感謝してます」

「も?」

「もちろん部長にも感謝してます」

 鷹見は顔をそらして景色に目を向けた。

「なら天水も、夏川君と水上君、それに古泉にもそう思ってもらえるようにしなきゃね。そしてこのむずがゆさを味わうがいい」

「努力します」


 景色が薄い青を帯びて、星が見えなくなっていった。

 初日の出が登るのは東側の山の向こう側だ。天水が持ってきた三脚を設置し、赤みを帯びた山を背にして日の出を待った。

 構図は意見を出しあって二人で決めた。先輩後輩でありながらも一方的ではない関係を築けたことが鷹見には嬉しかった。

 日が見え始めた。二人は写真を撮ることを忘れて、見入ってしまった。

「あ、写真」

 昇りきってから天水が気付いて言った。

「やっと気付いた」

「言ってくださいよ。日の出の瞬間逃しちゃったじゃないですか」

「それもいいかなって」

「もう、撮りますよ。罰として変顔してください」

「それはやだなあ」

 天水はシャッターを押して鷹見の横に並んだ。セルフタイマーの待ち時間にそちらを見ると、変顔を期待しているらしい天水と目が合った。

「しないよ」

 鷹見は自然と笑みがこぼれた。写真に残さなくても今日のことは忘れないだろうな、とカメラに向き直って思った。

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