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 喫茶店を出たとき、すでに日は傾いていた。

 夕暮れから暗くなるまで時間はかからなかった。待ち合わせをした駅の近くまで戻ってきたときには夜になっていた。考えることは皆同じなようで、夜中まで飲食店で時間をつぶすつもりだったが、どこも混んでいて長時間居続けるのは気が引ける。何軒か店の中を確認したあと、

「それなら、(うち)に来ませんか?」

 という天水の提案に鷹見は遠慮したが、他に行くところもないので、

「おじゃまさせてもらいます」

 と言って折れた。

 鷹見が家に来ることを電話で母に伝えると、ついでにと言って買い物を頼まれたので、少し遠回りをしてスーパーに寄ってから家に帰った。天水家では天水の母は台所にいて、父と姉と猫はこたつでくつろいでいた。こたつの上には笊に入ったみかんがある。

 鷹見は挨拶をして、天水の父と姉に促されるままにこたつに入ると、別の部屋に行っていた天水がボードゲームを持ってきた。

 ボードゲームをするためにこたつの四方に四人が座ると、居心地が悪くなったのか黒猫が移動して、横座りをしている鷹見の足の間で丸まってしまった。限界まで動かないようにしようと彼女は決めた。

 普段から家族で無電源ゲームをしているらしく、天水家は強かった。年越しそばができて中断するまで鷹見は一度も一位になれなかった。彼女だけ初めてというハンデがあるが、悔しかった。

「勝負事では手を抜くな、というのが家訓でして」

 天水が言い訳をするように言った。夕食後、天水の母も加わって別のカードゲームで遊んだ。

 十時頃に天水家を出て神社に向かった。細い道を進むと、駅から神社に伸びる参詣道の途中に出た。いつもならこの時間は街灯と一部の飲食店が開いているだけだが、今日は人通りが多く、明るい。

 神社の方に目を向けると、境内の外、砂利が敷かれている広場で大きな火が焚かれていた。火は二人の身長よりも高く、周囲の人々は少し遠巻きに火を囲んで暖をとっている。そこだけではなく、広場の何カ所かで同じように火が燃えていた。昨年も見た光景だった。

 近付きすぎないように気をつけて、冷たい手を火にかざした。手だけを温めようとしたが、火が大きいので前進が暖まった。

「近付きすぎたね」

「はい」

「離れたらすごく寒そう」

「ですね」

「ジャケットの保温性能を信じよう」

 意を決して火から離れた。覚悟したほどの寒さには見舞われなかった。

 夜に境内に入れるのは一年の内で何度もない。火があった場所と比べると、森の中にある境内は暗い。それに、人が少ないわけではないのに、どこか静かだった。

 社務所で神酒が飲めるようだが、お気持ちでと言われて鷹見はいくら入れたらいいかわからなかった。一円玉はないようだが、五円から千円札までの硬貨と紙幣が混ざって箱に入れられている。咄嗟に百円玉を入れたが、おいしかったのでまあいいか、と思った。

「飲まないの?」

「はい。弱いので」

 そういえば天水は酒にとても弱いと聞いてはいたが、一緒に飲みに行ったことはなかった。どのくらい弱いのか気になったが、無理に勧めることはない。

 日付が変わる前に本殿に向かった。すでに行列ができていて、一番後ろに並んだ。待っているときに年が変わった。なぜか拍手が起こったので、二人も手をたたいた。

「あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう」

 うやうやしくお辞儀を交わした。同時に同じことをしたので、顔をあげたときに二人とも笑ってしまった。参拝をして、神社を出た。

「ここで初日の出を待とうか」

 と鷹見が提案した。去年は、そうした。


「それよりも、行きたい場所があるのですが」

「いいよ。どこに行くの?」

「それは着いてからのお楽しみということで」

 そう言って、天水は教えてくれなかった。

 天水家まで戻り、天水の母の車をかりた。天水は運転席に座り、鷹見は助手席に座った。

「年明け早々、こんなに不安になるとは」

 天水の運転する車に乗ったことはあるが、夜道を走るのは初めてだった。それに、さっき神酒を飲んでしまったので途中で交代することもできない。

「おまかせあれー」

「こわいなあ」

 走り出しは順調だったが、県道を進んでいくと渋滞につかまった。混雑期のバス路線が整備されて以前よりましになったとはいえ、渋滞がなくなるわけではないようだ。車の中で新年を迎えた人も多いのだろう、と少しずつ動く車の列を見て鷹見は思った。

 他の多くの車とは違う道に進んだ。県道から横道に曲がった。林道のような細く暗い道だったが、その辺りで鷹見には目的地の見当がついた。対向車が来ないように祈っていると、車が五台ほどしか止まれないような駐車場が見えた。停めるスペースは十分にあった。

 後部座席から荷物を取りだし、山頂まで舗装路を歩いた。見上げると、空が星で覆われていた。

「長時間露光したみたいだ」

 鷹見は写真部らしい感想をもらした。

「星座とか、わかります?」

「オリオン座くらいなら」

「私もです。これだけ星が見えると逆にわかりづらいですね」

「そうだね」

 頂上に着いた。二人とも何度か訪れたことのある場所だった。昼間とは景色がまるで違っていて、市街地が暗い中に浮かび上がって見えた。

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