中二病な先輩と私
どっかで見た表現と絵文字注意!!?
月夜の晩の仕事の帰り道で、先輩が空を見上げている。
月が綺麗だから眺めているのかと思いきや、
「ばかな…早すぎる」
なんて呟いている。
「言ってみたいのは分かりますけど~、私は付き合いませんよ~」
「・・・・・・」
先輩がすごいガッカリした目でこちらを見てくる。
「誰も見ていない時くらい付き合ってよ。『フッ、せっかちな奴らだ』とか言ってさ」
「嫌ですよ~、そんな始まりも終わりもしない不毛な会話なんて~」
「え~、面白いじゃん。胸熱くならない?」
先輩は珍しく熱弁を振るいたそうだ。
大変ウザッたい。
「先輩は~、中二病拗らせ過ぎだと思いま~す」
「私達吸血鬼なのよ!!吸血鬼なんて現代じゃ存在自体が中二病的じゃない!!」
確かに…昔はそれなりに人間たちの驚異たり得た吸血鬼も、現代社会では肩身が狭い。
人目を避けてこそこそしすぎて、今じゃすっかり架空の存在だ。
「存在が中二病的だからと言って~精神まで中二病になることはないと思いま~す」
「存在が中二病だからこそ、何か凄いチートな能力に目覚めてもイイはず(`・ω・´)キリッ」
語尾に音にならないはずの絵文字の幻聴が聞こえる。
先輩は掲示板とかROM専なんだから無理して絵文字とか使わなくてもいいと思う。
「そんなに~チートな能力欲しいんですか~」
「うん、欲しい!」
「仮にそんな能力に目覚めたとして~、何するんですか~」
「…いや(;^ω^)、なんか『俺tueeーーーー!!』的な何か?」
先輩のことは好きだけど、この人は基本バカだと思う。
それに無理して絵文字とか使わなくてもいいと思う。
そんな私の生温い視線を感じたのか、先輩が見ないでくれよと言う感じの顔をした。
それから暫く私達は無言で夜の街を歩く。
「…( ゜д゜)ハッ!?今気がついた。メアリはもう既にチート持ってるじゃない!?」
何か変なポーズを決めた先輩が、いきなり訳の分からない事を言い出した。しかも絵文字の幻聴付きで。
だから先輩は無理して絵文字を使わなくてもいいと(略)…。
「何がですか~」
半ば投げやりに返事をしてやると、
「金髪碧眼の美少女っていうチート(´;ω;`)ブワッ」
こっちを指さして絵文字の幻聴付きで、言ってくるのが凄くうっとおしい感じだ。
だから無理して絵文字を…(以下略)
確かに吸血鬼になる前から、自他共に認める美少女ではあったが。
「別に~容姿は吸血鬼になる前からのもので~、「ズル」とか「騙す」とかはしてないから~、チートとは言わないのでは?」
「“美少女で吸血鬼”“吸血鬼で美少女”どちらにしろ、キャラ的に最強だよ!!最強すぎるよ!!強すぎるのも十分チートって言うよ!!」
キャラが立っているという言い分は分かったけど、地面に膝ついて拳で地面叩いて項垂れる程の事ではないと思う。
って言うか私は早く帰って寝たい気分になってきた。
「おい、女と金置いていくならガキは見逃してやってもいいぜ」
早く帰りたい時に限って、柄の悪い男たちに絡まれるのはお約束なのだろうか?
この国は法律とか身元確認とか甘いので、私たちの様な存在が隠れ住むには打って付けなのだが、それに比例して治安も悪い。
真夜中に女2人だけで道を歩いていたら、こういう輩にも絡まれるというもの。
幸い男たちの数は多くない、前に2人、後ろに1人。
にやにやと舐めまわすように見られて、大変不愉快だ。
「先輩~、前2人殺りますんで、後ろのおねがいしま~す」
「OK」
「おい!なにいってやが・・・ッ」
前方に立つ2人の何か言いかけた手前の方の男の、腕を掴んで無造作にもう1人の方に投げる。
腕を掴んだ時に何か変な音がしたが気にしない。
軽く投げただけだが、投げられた男はもう1人の男にぶつかって諸共10メートルくらい吹っ飛んだ。
もう少し力入れればよかったかな。
「スーパーシャイニングなんちゃら~」
先輩の叫び声と共に後ろにいた男が、先輩の張り手で30メートルくらい飛んでいった。
「フフフっ、よくも私をガキ扱いしてくれたな。これでも私は最強のノスフェラトウで千の時空を…(以下略)…」
露骨にガキ呼ばわりされたのが頭にきていたらしい先輩が、倒した男たちを積み上げて何かイタイ事を言い出したので、
「先輩~、技名が咄嗟に思いつかないなら叫ばない方がいいと思いま~す」
気絶している相手に言っても黒い歴史が積み上がるだけなので、先程の先輩の叫び声についてツッコミを入れて中断させる。
先輩が吸血鬼になったのは15才の時だったという。ちなみに私は18才の時。
当然、今の見た目も15才の筈なのに身長の低さも相まってか、先輩は多く見積もっても12~3才に見えるのだ。
人間だった頃には既に大人扱いされていたためか、先輩は子供扱いされるのが嫌いだ。
「咄嗟に思い付けると自分を過信してました!!」
自棄になったように言い捨てた先輩を見ると、先輩は子供扱いされるのが嫌な割に精神年齢が年々下がっていると思うのだ。
とりあえず男達はその場に放置して帰ることにした。
「先輩~、チンピラ程度なら敵じゃない怪力も十分チートじゃないですか~?」
「映画とか漫画の吸血鬼はもっと凄いじゃん」
「どれだけのことが出来れば~チートなんですか~?」
「一国の軍隊を殲滅させる的な…」
「夢見すぎですよ~、第一そんな力あっても使いようないですよ~」
「…それだけの力があれば怯えなくてすむ」
「何にですか?」
「吸血鬼狩り」
「吸血鬼狩りなんて、それこそ物語なんじゃないですか」
「ここ200年ばかりは見てない。でもそれ以前は…」
居たということか?
先輩の顔を見ると、表情が消えている。
洒落では無いらしい。
私と会う以前に先輩が下水道で暮らしていたのも、もしかして「吸血鬼狩り」から逃げる為だったとか。
思わぬところで、なんか物凄く空気が重くなってしまった。
その空気を払拭するために思いついた事を言ってみる。
これを言ったらおしまいな気もするが…
「先輩も~ある意味最強のキャラが立ちますよ~」
「なになに?どんなキャラ( ^ω^)ワクワク」
「見た目15才以下で~、実年齢カウント拒否のロリババア~♪」
「・・・・・・」
先輩と私の30年ぶりくらいの大乱闘が発生するまで、あと5秒。
「中二病なう」だから客観的に見た中二病なんて解らないんだ…と言い訳してみる。
そして、詰め込む予定じゃ無かった所まで詰めてしまいました。