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西果て鉄道運行中  作者: 斉藤さん
第一部 かつての要塞列車
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六章 運命連結点


 ポーオレとの結婚に、軽機関乗りへの転向、彼からすれば寝耳に水の話であるが、既に戦闘機関乗り界隈では有名な話で、狭い世界のさらに狭い世界の話なので、気付けば全員に広まってしまっている。

 開拓者仲間にしろ、戦闘機関乗りにしろ、もはや周知の事実張りに響いているのだろうと考えると、少しばかり困った事になるかもしれないと、肩にズンとした重みを感じてしまう。感じたくもない疲労感を肩に載せて、首を横に振って否定する。


「初耳だよ。大体転向なんかするわけないだろう、それとポーオレとは現在冷戦中だ」


 彼の言葉を聞いて、一人は安堵、もう一人は舌打ち、どちらがどちらとは言わないが、その二人の態度にヒサシゲはあまりいい感想は抱けない。

 譲るべくもない二つを、自分が捨てたなどと言われるのは、少しばかり不愉快になっても仕方の無いことだ。それで話は終わりならと、二人の間をすり抜けるようにして、また歩きだそうとするが、クルワカミネの暴力装置であるヒタギは、掴んでそれを許そうとしない。


「逃がすと思ってる、アンタには色々言いたい事があるんだけど」

「俺には特にないんだが、お前の父親を殺しかけた事か、次の機会があるなら、ちゃんと息の根止めるさ」

「私がいつ、十年も前の話をしていると思っているの。開拓者のあんたはどちらにしろ終わったでしょう。このあとどうするの、教導隊にでも来る」

「冗談だろう、俺は死ぬまで開拓者だ。戦闘機関なんて名前一世紀前に出来た戯れた言葉だ。正しい名前も知らない奴が、戦闘なんて言って欲しくはないね」


 振り払おうとするが、もう一人の男も彼を逃がす気はないらしく道を塞いでいる。

 いっそ吹き飛ばしてやろうかと、単一結晶を握るが、流石に壁内での騒動は面倒事が多すぎる。

 彼の異名を知っているエース達は一瞬だが体が強ばる。だが舌打ちするように、結晶から手を離すヒサシゲの態度に、アンドの息を吐くのは仕方のない事だが、それでも逃がそうとしない辺りは、流石に肝が座っていると言うべきなのだろう。


「ペナダレンを奪われたのは知ってるのよ」

「だから取り返しに来てる」

「クルワカミネに逆らえば、食料供給すらままならないんだぞ」

「何のための戦闘機関だ、あれは食料生成能力があるだろう」

「拷問クラスのまずさでしょ」


 次々に返される反論、実際その通りではあるが、ヒサシゲはあまり気にしていない。

 確かに戦闘機関に内蔵されている、万能結晶の操作による食料生成能力は有難いものだが、基本的にあれを食べるぐらいなら、流動食の方がましだという意見が過半数だ。

 主に使用方法としては、犯罪者や拷問として使うのが、最上の使用方法だと断言するものも多い。実際に犯罪を犯した者たちの食事は、戦闘機関から作り出されたものであるから、ほぼ間違いない正しい使用法はそれなのだろう。


「ペナダレンの食料生成能力を甘く見てるだろう。アレがなければ俺は今頃欠食児童だったぞ、ちなみにあれの飯は美味いからな。踏破機関の名前はちゃんと意味がある」


 しかし味音痴なのか、と言いたいところであるが、実際問題ペナダレンの食事は拷問には不向きな程度には、食べられる代物である。

 これはジオドレが、西域踏破の際に食料に関して相当苦労した為の処置だが、生憎とこのペナダレンは合計で十台しか作られていない代物であり、そのスペックに関しては、戦争が始まった事もあり、踏破に対して必要な機能に優れているが、戦争には不向きという理由で、廃棄されてしまったのだ。


 戦争に使用できる装備が僅かであったのだから仕方ない事だが、ジオドレはペナダレンが西を目指すこともなく消えていった事実に、絶望を感じたのは間違いないだろう。

 しかしながら、そんな事もあって現存しているのはヒサシゲの相棒ぐらいだ。残りの九機は、西を目指し帰ってこなかったり、鋳潰されたり、戦争で破壊されたりと、ロクな運命を辿っていない。


 所詮はワンオフ品だ。こだわりがあって作られたのは間違いないが、性能が記されたカタログスペックなど存在しない。一応の仕様などはあるのだろうが、既に二世紀を超えている。

 残されている方が奇跡というものだ。そもそもペナダレンが未だに現存している事が、不思議な話であり、それがまだ最前線で活躍できる事実は最早奇跡と言って差し支えはない。


「それは流石に冗談では、二世紀も前の機体ですよ」


 だからこそ、技術的にも劣るはずの機体では、有り得ないと言い切れるような言動が出てくる。

 それは馬鹿にしているわけではなく、戦闘機関乗りとしては、当たり前の発言だ。それをヒサシゲは知っているからこそ、困ったよう笑って訂正する。これが意味のない罵倒だったら、それこそ発言と同時に拳が飛んでいる。


「本当だって、あの味にうるさいポーオレが、食べれない事はないと言うぐらいには、マシなんだよ」

「あの完璧女の言葉と言うだけで、納得の説得力だけど、本気であのお天道様に喧嘩を売るつもりらしいわね」

「そりゃね、跳ね馬にも言ったけれど俺は、あいつを奪われて平静でいられる自信はない。結晶撒いて、壁内を火の海にしないだけマシと思って欲しい」


 コイツならやりかねないと平然と思われるような発言を、当たり前のように行う馬鹿は、一体今まで壁外でどれだけの悪行を重ねたのだろうか。

 出来ないと思わせない、そういう思考を作ることが可能である人物。潜在的にはテロリストも良いところだ、名前が隠されているのは、エースという存在に対しての風聞を避けるための意味合いがあるのかもしれない。


「恐ろしいことを言わないでよ。あんたの自殺願望は知ってるけど、殺戮願望までは受け入れられないわよ誰も」

「自殺願望も他殺願望もありません。ペナダレンと一緒に西域を目指せりゃそれでいいです」

「いつも思うが気持ち悪いぐらい真っ直ぐだよね君は、開拓者の象徴みたいな人間だ」


 良い意味でも悪い意味でも、本当にヒサシゲはまっすぐだ。

 シルカルストは呆れながらも、自分の諦めた開拓者の道を堂々と進むヒサシゲに尊敬の念を隠せない。ここまで当然の事の様に、西へ向かう事に躊躇いのない人間は、世間知らず以外で多分彼も彼女も見た事がないだろう。

 これが、あの悪童であったヒサシゲだと思うと、少しばかり笑いがこみ上げてくるが、闘技場における最初の九人抜きを始めて見た時から変わらない開拓馬鹿ぶりは変わっていない。ここまで行けば賞賛しかシルカルストには浮かばなかった。


 ただしヒタギは別だ。彼女の本質は飽くまでも戦闘狂、技術としてなら上であるシルカルストではあるが、戦闘に関しては出来ない事はないが、ギリギリの読み合いなどにおいては、どうしても彼女に劣る。

 それを上回るであろう骨董品で、彼女の記録すらねじ伏せてエースをもぎ取ったヒサシゲには、一方的なライバル心があるのだ。これは父親である列車王が、常々お前ではヒサシゲには勝てぬという言葉のせいでもあるが、納得行くものではないだろう。

 私と戦って負けろ、それが彼女の本音だ。


「なんで睨むかね三下は、俺が開拓者だぞ。そればかりは生涯変わらんよ」

「分かっているわよ。ただなんで私と戦おうとしないの」

「そりゃ、ペナダレンが傷つくから。それにお前みたいな三下と戦ってもな。俺の敵はあっちだ、お前じゃない」


 指を差すのは西の大地。

 あれが俺の敵だと自慢気に語る男は、彼女の敵愾心を押し込めてしまう。あれと自分を比べられたら、二の句が浮かばない。

 ただ一人の男以外は、勝つ事すら許されない最強の敵は、いつも楽しそうに変化を重ね、フィルターによって阻まれ消えている。あれを敵と言われれば、戦うこともなく人との戦いを第一に考えるヒタギでは、どうあっても勝負にならない。


 それを否定できない彼女は、口を開けなかった。


「ま、これ以上の立ち話もなんだ。お前らの奢りで食事にでもしよう、そろそろ視線も鬱陶しいしな」

「平然とこちらに金を出させる神経は疑いたくなるよ」

「こっちは色々とあって、一文無しなんだよ。だいたい腐る程儲けている奴が、おごりぐらいでがたがた言うな、どうせまだ聞きたいことがあるんだろう」

「分かったよ。相変わらず図々しいけど、聞きたいことはあるね、クルワカミネに喧嘩を売るとかその辺や、冷戦中の内容とかね」


 あいよと、雑に頷く。隠すものは何一つないしリスクもない。

 大体一人のバカがクルワカミネに喧嘩を売ると言って、はいそうですか処分して置きますとはいかない。ほっておけと言われるのがオチだ、お天道様に喧嘩を売るとは普通はそういう事なのだ。

 だから冗談にしか聞いてもらえず、言うだけ無駄、たとえ本人にその気があっても、そう言う代物にいちいち彼らも口を出すことはない。無駄なことに時間を使うほど暇でもない。

 

「店は任せる。一応壁外からこっちに来たのは二度目で、いまいち勝手がわからん」

「西域開拓部門にいたんだろう。何度か来る予定もあっただろうに」

「俺の悪行を知っている奴が、許可を与えなかったからな。今回は跳ね馬に直接頼んだからこっちに来れてるわけだしな」


 ヒサシゲの発言に、悔しさを感じて立ち尽くすヒタギを無視して、男二人は楽しげに会話をしながら歩き出した。

 彼女としては悔しさもあり、納得できる所もありと、複雑な感情なのだが、ヒサシゲの言った言葉はお前は所詮人だけの乗り手だと罵倒している様な物だ。それに対して反論できない彼女は、悔しさのあまり口すら開けない。


 己が劣ると分かってしまうから。


「私は」


 それでも必死になって小さな体と喉を震わせて声を上げるが、野郎二人はなんか笑いながら彼女を無視して先に歩いていた。

 ぽつんと立つ自分の姿が、ひどく惨めに感じながら、ようやく吐き出せる怒りの方向性に彼女は身を任せて、体を動かした。

 女は時として、勝てぬ相手に拳を向ける必要があるのだと、ヒサシゲに向けて飛びかかる。その技を人はこういうだろう、トペ・スイシーダ。


 ただの体当たりである。


「なにやってんだお前」

 

 だが感情に明かした彼女の攻撃も、ヒサシゲの冷めた声を聞けば、わかるだろう。

 はっきり言って無駄だ。

 背の丈からして、子供と見まごう彼女の全力の体当たりだとしても、質量的にダメージが与えられるわけがなかった。


「愛情表現とかどう」

「間に合ってます。かなりきっついのが、知り合いにいるので」


 そう言って思い出すのは、あの淫乱娘ポーオレさんの痴態だが、あれは色々と衝撃的なのでヒサシゲも首を振って意識的に散らす。


「本当に何をやってるんだ君たちは、イチャつくならそれ相応の場所があるだろう。案内してあげようか」

「冗談だろう、俺はポーオレ一筋だ。生憎とあらゆる意味で間に合ってるよ」

「あの完璧女って一方的なものなんじゃないの」


 ヒサシゲからポーオレへの恋慕が、有名どころではあるが、実際はその逆の方が濃いのは、多分だがラディアンスお嬢様とコルグートぐらいしか知りえないことだろう。


「ま、その辺は複雑なんだよ。俺とあの娘さんの関係を知らない奴には、ちょっとわからない所だろうな」

「ほぼ毎日プロポーズしてフラレた男が言う台詞」

「そうに決まってるだろう。それも含めて色々あるんだよ。そこにポーオレにフラレた男がいるが、理由を聞いたら訳が分からなくなるさ」


 シルカルストを指差す、藪蛇だったかとこわばる表情に、流石のヒタギも何かあると納得するしかない。

 心底喋りたくないのか、犬の様に輝いた彼女から視線をそらす。


「バラさないでくれよ。あれは結構ダメージが大きかった、二日ほど寝込んだからね」

「あの完璧女に一目惚れは、悔しいけどありえる話だから。別に思わないけど、どう言うふうに振られたの」

「黙秘させてくれ、それかせめて酒の席の冗談で済まして欲しい」


 じゃないと喋る力もわかないよと、弱々しくシルカルストは呟いた。

 相当にトラウマになっているのだろう、酒を油にして挿さなければ、口を開く事も出来ない内容のようだ。

 繊細なのか、若干だが思い出しただけで顔を青く染めているのだ。流石に空気を読んだ被たぎはそれ以上確認することはなく、お茶を濁すようにどもりながら頷いた。


 しかし一人ばかり空気を読まない男が、ここに居るのを二人は忘れていた。


「貴方如きが、私を支えられる訳がないでしょう。ヒース以外はいりませんだっけ」


 一字一句間違えないヒサシゲの言葉。彼からすれば一応は惚気なのだが、与える損害は悲惨の一言だ。歩いていた筈のシルカルストは、萎れる花のようにくたりと地面に突っ伏す。

 その衝撃的な内容にヒタギは、目を丸くしてヒサシゲをじっと見ていた。


「折れる、それは確かに心が折れるけど、え、どういう事、あんた、たしか」

「ああ、プロポーズをしても断られっぱなしだぞ。だから訳が分からなくなるといっただろう」

「分からな過ぎだ。もういいこの辺りの事は、店に入ったら聞くけど、本っ当になんなのあんた達、それよりシルカルストはそろそろ立ち上がって、大丈夫だから飲めば忘れられるって」


 完全に心が折れたシルカルストを介護しながら、立ち上がらせると、お袋さんと言わんばかりに、心の立て直しにかかる。


「ほら、ちゃんと立って、もう終わったことを男がいちいち愚痴らずに真っ直ぐ立つ。一応あんたいい男の部類なんだから、しゃきっとしない、しゃきっと」

「あ、ああ、分かった」


 それをぼんやりヒサシゲは見物しながらポツリと呟いた。


「コイツ結婚した方が、ポーオレよりいい奥さんしそうだな」


 目をつぶって思い出すポーオレの姿、なぜ子供に嫉妬してヒサシゲの首を絞めいている未来予想図があった。

 それを否定するように首を横に振りながら、ようやく三人は目的地についた。

 色々とダメージの大きい状態だが、開き直るように酒を頼んで涙を流す。場所は門から少しばかり離れた所にある、あまり人気の多くない小道の並びにある小さな店だ。

 壁外ではまず見ない暖簾が掛かっている、照明に睡蓮と筆で書かれている。壁打ちではよくある小料理屋であるが、ヒサシゲは初めて見るために目を丸くして、子供の様に好奇心を抑える事もなく、暖簾をくぐり引き戸を開ける。

 そこは十五人も入れば一杯という、普段ヒサシゲが通うまとめて三十人四十人が入って騒ぐような場末の酒場とは違った風情がある。


 飾り花の睡蓮は店の名前と同じく用意したものだろう。

 活けた花などは、はっきり言って現代の金と考えて貰っていいだろう。流石に小さな店では用意できる代物ではないが、店主のせめてもの心遣いと思えば心もほぐれる。

 そこにいらっしゃいと、妙齢の女性の声が鈴の音を鳴らし響く。その言葉に楽しみになる言葉がいろいろと浮かぶ、どこか静かな空気に三人は飲まれてしまう。

 だが一つだけ三人には問題があった。


「あのさ、ここって自棄酒に来る場所じゃないだろう」

「ああ、僕もそう思っているところだ」

「大丈夫でしょう、それだけましになったなら、自棄酒じゃなくて会話と料理とお酒を楽しみなさい」

「分かったよエースおかん」


 誰がだとヒサシゲの脛を蹴ると、流石に悶絶するような悲鳴を上げそうになる。

 減らず口を叩くのが、呼吸と同じヒサシゲは、怨念のこもった目でヒタギを見るが、お前が悪いとさらに威圧するように、睨む彼女の視線に猫の様に静かになる。

 場が不思議な沈黙を保つ中、客と店主は困ったように視線を泳がせた。客が来たと思ったら、漫談を始めるのだ動揺もするだろう。


 だが空気を読まない男は一味違う。沈黙も混乱もどこ吹く風と笑いながら、痛みで歪む表情を整えながら、軽く手を挙げて発言権を求める。


「よく分からんのでオススメを適当に、予算は馬鹿達が払うんで気にせずに」


 分かりましたと鈴が鳴る。

 響く声にひとまず安心するが、この程度で終わるものなら、何の問題もないのだ。場面はこれから十分ほど前に遡る。

 ポーオレは顔をまだ赤く染めていた。ヒサシゲがコルグートから逃げ切れた事実は、自分のした行動がバレている証左である為、動揺が隠せずダブルスタックカーの強度はどこかに行ってしまっている。

 ほぼ本能的にヒサシゲが逃げた事を判断し駆け出してみるが、追いつける訳がない。

 仕方ないので、逃げ切った弟子の状況判断能力に呆れながら、納期をどうしようと考えるが、絶望の二文字しかないことを理解して、軽くウツになっている爺さんを捕まえて門まで連れて行って貰う事にした。


 ポーオレは一応は壁内でお天道様の教育係をしている女だ。

 これは権限の上では、クルワカミネでもかなり上位のもので、彼女ぐらいの能力の人間になると、門などいつでも通り抜けられる代物であったりする。

 そうして締まりかけていた門を無視して、別口の移動区画から移動すると、彼女はようやくそこで冷静になれた。


「どうやってヒースに顔を合わせたらいいんですか」


 自分の行為を反復しても、どう考えても顔を合わせるには辛い物がある。

 頭を抱えてみるが、結局は動かないと変わらない。だが彼女の知っているヒサシゲは、もう止まらないことを確信していた。

 状況はどうあれ、あの男が動くのなら、止められる余裕は一切ない。追いついて捕まえて縛り上げる、それぐらいしか止める方法はない。


 それでも食い破っていくような奴だ。

 羞恥心を一生懸命に飲み込み、慌てず騒がずと息を吐く。思考がゆっくりと静かに冷たくなっていくなかで、自分も意外と感情の起伏が多いのだと今更ながらに実感した。

 独占欲も恋慕の形の一つだ。


 ただ、ヒサシゲが動くのなら彼女もまた考えなくてはいけない。

 これから先はポーオレとヒサシゲは敵になる。どちらもが融通のきかない頑固者達だ、譲らないのなら戦いしかない。

 この戦いばかりはポーオレもヒサシゲも譲らないだろう。

 だからこそ力を入れた。歩む為には、一歩一歩を確実に三段跳びで何処かに行くヒサシゲと彼女は違うのだ。

 出来る事を全てこなす。だが考えても見れば、彼女のこの性格が災いしたというしかないのかもしれない。ヒサシゲの情報を仕入れようと、少しばかり話を聞いてみたら、エースがであって話をしていた等と、ポーオレからすれば驚きの話が聞ける。


 何しろあの二人とヒサシゲは面識はある物の出会い方と、彼の性格が災いして、あまりいい関係とは言い難い。なのに親しげに話しながらどこかに消えたという、途中ヒサシゲに向かって抱きつくヒタギが居たなどの情報が浮かぶ。


 しんと静まり凍える彼女の感情、人知れず緩む口は獣のそれだった。

 何度も言うが、ポーオレは情が深すぎるのだ。あの殺意にも似た独占欲も、今湧き上がるそれもきっと変わらない。

 どこか体の一部が無くなった様な喪失感に、震える体を抱くようにして瞳からは、一筋の涙を地面に染み込ませる。


「ヒースは死にたいのでしょうか」


 そして物騒な言葉を一言、さらなる聞き込みを開始したポーオレは一時間と経たずにヒサシゲのいる場所を突き止める。既にエース連中は酒を飲みながら、料理に舌鼓を打ちながら、くだらないお喋りをしている所であろうか。

 ヒサシゲたちが入店してから既に三十分ほどが経過していた。


 呼吸を整えても抑えきれない自分の感情がそのまま体を動かす。


「ヒース」


 声と扉が開かれるのは、同時であったがそのあとの言葉た響かない。

 なぜなら、ポーオレの言葉を潰すだけの奇々怪々な光景がそこには広がっていた。

 血まみれになった謎の男、悲鳴を上げる鈴の音の女将、やめてくれと懇願する店主。それでも執拗に男を殴り続けるヒタギに、必死になって止めようとするシルカルスト。

 何が起きているのだと、目を丸くして状況に凍るポーオレ。


 だがそれだけならまだ理解は出来ただろう。

 ポーオレは何でこんな事にと思いながら、疑問を頭に回し続ける。どういうことが起きてこうなったのだと、阿鼻叫喚の地獄絵図は酔っ払いの騒動というには少しばかり派手すぎる。

 彼女が驚いたのは、それ以上の光景があったからだ。


 片眼鏡のお嬢様に、後ろ回し蹴りを頭決めて、蹴り飛ばしていたヒサシゲの存在は、強烈だったというしかないだろう。

 疑問を押さえ込めなくなった彼女は、吐き出すように声を上げる。


「何が起きてるのここで」


 分かるのは、間違いなくどうでもいい事と、ロクでもない事が、同時に起きている事だけだった。

執筆BGM

ペット・ショップ・ボーイズ Go West

SUPER P-kies LET'S GO!いいことあるさ

Superfly 愛をこめて花束を

スピッツ 空も飛べるはず


これでようやくメインを貼る二人の主人公が出会いました。

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