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西果て鉄道運行中  作者: 斉藤さん
第二部 今日死ぬにはもってこいの日だ
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二十章 厄祭領域


 男は悲鳴を上げそうになった。

 彼女の穴を突き、状況をくみ上げ、確実に殺せると思ったとたんにこれだ。肌で感じる事が出来る程にジムクロウは質が変わってしまった。

 しかし全てが赤と言うしかない世界、空も結晶が舞い雲の向こうにも飛び立てない狭い世界、だと言うのにそれは羽ばたいて見せたのだ。錯覚であろうとも見えてしまった翼は、彼には届かない象徴としてしか存在しない。


 届かない、一瞬だが確実に思ってしまった感情が引き千切れるような悲鳴と共に吐き出される。


「足りないのか、あれは所詮人間だろう。厄災であっても、届かないような存在じゃない筈だろうが、何で届かない。俺が、この俺が何で」


 敗北宣言とも取れる言葉だが、彼にとっては本音でしかないだろう。

 天才などと言う言葉では足りないのだ。天才と言うのなら自分だってそうだと自覚しているし、努力と言うのなら足りない筈がない自負がある。

 だが足りないほどの災害が目の前にあるのだ。


 勝てると思ったのは間違いない。

 あの状況にまで追い込まれたなら自分なら撃墜される確証があるが、こちらの認識の上を彼女は行くのだ。機体が破壊されたかと思えば、意図を超える路線転換を行い強引過ぎるとは言え状況を容易く変えて見せた。

 彼らが感じる微細な結晶変化の予兆、これ自体は第五を超える辺りに来ると勝手に鍛えられる認識だが、その変化すらも彼らは感じ取る事が出来なかった。


 これはラディアンスが相手の予測を超える為に行った行為だが、厄災を超えるたびに人間としては逸脱していく彼らの感覚器すらも鼻で笑うような行為であったのだ。

 まして状況は確殺と言ってもいい土台を作っていた。その精神的な負荷は想像を絶するだろう。


「あんな子供に抜かれるんだよ。なんで俺の夢があんな狂った糞餓鬼に潰されなくちゃならんないんだ」


 勝てないと言う認識が彼を蝕みつづける。

 劣っていると確信させられる状況に無意識で機体を動かしながらなんでだと声を上げる。実力が足りない訳じゃない、覚悟が足りない訳でもない。ただ絶望的に何かが劣っているからこそのこの状況だ。


 彼と彼女は技術だけならそこまでと言う訳でもない。何か一点がズレて居るのだ。それを死の恐怖に対するものだと思ったが、それは極端な差ではないのだろう。だが彼女は一つ何かを成し遂げたからこそ生きているのだ。

 それを成し遂げる事が出来るかどうかが彼らを分けるが、その一つを見出す事が出来る人間は極僅かだ。

 だからその一点が足りないからこそ、劣等感を認めながら叫び続けて必死に足掻く男は、彼女の背中を負い続ける。


 届かないと言いながら、喉を引き裂くような悲鳴を吐き続ける。

 目標を定めながら必死に機体を動かす。その過程で彼の動きが変わっていくが、その間にまた一機撃墜される。

 彼女の動きを必死に追いかけて、その軌跡必死に目に焼き付けて、常識の埒外に進むその軌跡を見ながら、止まるなと機体を操り続ける。


 目汁、鼻汁、挙句に涎に下からも液体を溢れさせ、操縦以外の機能次々と体から消していく。

 彼に見えているのは自分を追い詰める厄災だけだ。

 必死に、何も見えないと恐怖すらも忘れながら機体を操り続ける。もっと動けと、指一つでは足りないとか右手でいくつもの軌跡を作りながら、視線操作で最低限の軌跡を確保し、最善手を図る様に球体操作にて指標操作と視線操作の境を埋めていく。


 その中で第三速度の中での増減を自在に操る。

 彼の操縦法を見ているだけなら、どういう器用な光景だと思うだろう。右手と左手を交互に操り球体と指標を操りながら、視線は常にラディアンスに向けている。


 速度でここまで制限を掛けられながら、彼女の動きは先ほどまでの歪さを軽く超えて来る。

 彼女は容易くフィルターの展開を切る。それを行う理由は対戦闘機関における人間を想定した代物だ。機体内の結晶を操り、変化を悟らせずに次を行う術だ。

 これをやられたら変化に敏感な開拓者達はそれ自体が強烈な誤差となってしまう。


 起こらない変化が起きるのだ。それ自体が錯覚になる。

 だから男は選んだ。全ての選択肢がありえると、変化すらも容認する方向に思考を作り上げるが、それでもなおまだ足りない。

 彼女は自分のできるリソースを次々に増やしていく。


 彼が十増やす間に二十、三十と、可能性の幅が広がり続ける。

 見ているだけで離される距離に男は胸のムカつきを抑える事もなく吐き出した。機体の中が異臭塗れになる中で、それに気づく事すらもなく彼は操縦とラディアンスにだけ焦点を定め続けている。

 劣等感を吐き出しながら、届かないと叫びながら、ほかの名前も忘れた開拓者がまた一人地面に叩きつけられる光景すら見る事もなく標準を定めたままに動き続ける。


 こうなるとまるでミサイルの様な愚直さだ。

 狙ったそれだけに動き続け、推力が消えれば勝手に地面に墜ちて行くそんな代物だ。


 だがここまで彼は自分を機能化させていく。

 足りないのだと、次は何が足りないのだと、技術だけではない何かとまるで機械の様な選択で自分に出来る範囲の可能性を作り上げていく。

 それは彼女がヒサシゲに思っている感覚と変わりはない。届かないから届かせると言うシンプルで無茶苦茶な方法で、容量が足りないなら体の機能を選択していくしかないのだ。


 男のしている行為が最適化であり、同時に多様化でもある。

 体の機能にスイッチを作っていき必要な処理を割り振るための代物だ。今更ながらに過去の欠陥品が沸いて出て来るとは笑える話だが、人間は結局こちらに行ったと言うだけの事なのかもしれない。

 だが彼はそうやって自分に変化を求めていった。だが結論は次に行くしかないだけの事なのだ。


 第四音速域、人が操る場所としては未踏破に近い領域で、ここを十全に操れた存在など過去含めて六人しかいない。まして生存している人間だけなら一人だけである。その一人がある意味では速度を否定して暴れまわっているのだから世の中狂っているが、それこそがチャンスでもあるのだ。

 流石のラディアンスでも第三を超えたら今の様な動きだけではどうにもならなくなる。

 彼女のが動く間にどれだけ期待が動けるか、レシブロ機とジェット機がドッグファイトをしたところで圧倒的な運動能力の前に全く間に穴だらけになるだけだ。


 レアベアが刻んだ世界記録ですら自足八百五十キロ程度、音速で駆ける機体に叶うはずもない。

 現状でラディアンスと彼らの差はそれ以上には開いているのだが、それでもどうにかしてしまう怪物だからこそ、彼は先に進むしかないのである。

 それは機体の制御だけではなく速度に対する認識を変貌させる行為だ。


 操作不能領域と言うのは冗談じゃない。この世界は大地と空までの間が絶望的に狭い。だからこそ不用意に速度を出して暴れまわれば、それだけでどちらかに機体は飲まれて結晶変化の中で機体は食い殺される。

 わずか一秒で地面に機体が突き刺さる事だって容易にあり得る。それを制御できる人間が怪物と言われる理由も分かるだろう。


 第二宇宙速度を十全に操れる人間などこの世に存在などしないのだ。

 まして世界が狭まった今の状況で容易く操るラディアンスの方が人間としては狂っているが、そこまでしなければ彼が彼女に追いつく機会などありはしない。

 だからこそ頭のリソースをそちらに切り替えていく。速度を制御するために自身の体の機能をそれに特化させていく行為は、本来ならゆっくりと適合させていく行為だが、そんな時間がない以上は体の変革は苛烈だ。


 血涙が流れ始める。水の様だった鼻水は真っ赤に染まっていき、体に対する負荷が完全に人間としては外れていく行為だ。それは書き換えと言うしかない代物で、人間の機能がとしてそんな事が出来るのかは疑問だが、それがどうしたとばかりに彼は体を変えていく。

 届かないなら届かせると人間を止める方向に舵を切ったのだ。

 当然だ西に届かなくなるなら人でなくなった方がマシに決まっている。あそこを目指せなくなるなら人である事の理由すらも彼等にはない。


 ここにいる開拓者たちが西を諦める理由はどこにもなく、その為に人である事が必要でないなら人を止めたところで何ら支障はない。

 たとえ一秒後に全てが尽きて朽ち果てる事があったとしても、目指す事を諦める道理は彼らにある筈もない。だがそこでそこまで突き詰められた存在はその男しかいなかった。


 所詮は西の為に命を賭ける馬鹿共だ。

 追い詰められればこうもなる。世界の認識を一つ上げ第四を掌握するべく、彼もまた人類における未踏とも言って良い領域に踏み出す。

 最もだ力技で星から抜け出す速度を操れるような人間が人として認められるかは別問題ではある。


 男は段階を上げるように速度を上げる。本来なら零からいきなりの最高速を出せるようになって初めて期待を操れる様になって初めて重機関乗りと言えるが馴らしは必要だろう。

 そしてラディアンスは敵が強くなる事を止める人間ではなく、その予兆ともいえる動きに関しては静観するのは今までの言動からも妥当な行動として受け止められるだろう。男もそれを読めているからこそ、わざとあからさまに何かしますよとアピールしているのだ。


 彼女が彼を見逃さない訳が無い。ただその代償として、たどり着けなかった者たちは彼女の養分へと変貌する。

 だがその間に準備はゆっくりと行われていく。 

 その速度を走馬灯のように男は思い返しながら、認識の領域を広げて手を伸ばす。


 第一、初めて機体を走らせた時にあまりの速さにすぐに停止させてしまった場所だ。

 第二、機体になれて次を必死に目指して長い間停滞した場所で、最も希望に満ちていた場所だ。

 第三、エースとして名が売れても忘れられなかった西を目指す転機となった場所だ。


 第四、厄災地点を踏破するために辿り着くしかなかった領域で、自分が人間であるかも分からなくなるよう域だ。


 そこに広がる景色はまるで川の様だった。

 流れるだけの景色は色を赤に染めるだけじゃなく、距離が消えてまるで機体は潜水艦の様だと思う程に操縦室は赤く、まるで液体の様に世界に溶けていく。

 流れる景色は境を失って一つの塊となって流れている。


 その中で彼がはっきりと分かるのは遠い景色で、世界は全て赤に溶けて全て前から後ろに消えていく。


 男はその境を必死に手繰りながら、狙うべき機体を厄災に向けて焦点を合わせる。

 それが彼にとっての世界の基準点に代わる。絶対軸となった世界の中心に向かって声も認識できない男は機体を向けた。

 まるで暴れ馬の様に機体を制御できていないが、自滅と言う点に関してだけは上にも下にも巻き込まれる事は無い。体が速度についていかないのだろうが、死への見極めだけは優秀だ。紙一重とは言え死を避け続けている。


「だったら」


 ラディアンスは呟く。

 その速度域を掌握するならそれが最低限だと彼を待つ。自分を殺しに来る機体の観測を開始した。

 男はもう言葉も喋れない。機体の制御に対するリソースを増やす為に、生きるのに最低限の機能しか喉は有しなくなった。

 それに伴い言葉を彼は脳から消した。言葉を喋る必要はもう無くなったのだから当然だ。

 増えた要領に彼は速度の観測域を増やす。記憶を一つ消す。容量を増やす。機能を拡張する。そのサイクルを何度も繰り返していく。


 そうすることによって彼は自分を西に向かう為だけの機能を持つ機械へと変えていく。


「そこまでは君は行けるだろう。君は星の軛をようやく離れた訳だ」


 機体は掌握されていく。当然だそれは戦闘機における無人機だ。機体の制御に関してはそちらの方があらゆる意味で優れているだろう。

 それを称賛するように一度だけ彼女は手を叩き、見下すように吐き捨てる。


「だがそれじゃあ人間である意味は無いだろうに」


 第四に到った機体は制御を確かなものにして理外の軌道を始めた。

 男が操る機体は彼女の操縦技術すらも手に入れている。ただ彼女と言う厄災を踏破するために、人を止める様に作り上げた機体の論理をもって第四を踏破した。

 その速度はまさに一段階引き上げられる。彼女の動く倍以上を一瞬にして動くのだ。そんな機体を制御しながら動くと言うのは其れだけで暴力的だ。


 一瞬で背後をとられて後ろから貫かれる。

 それをギリギリで回避するが、その次の瞬間には側面を貫こうとする。速度と言う絶対的な優位が、第三ですら蹂躙した彼女の機体が削られていく。

 そりゃそうだ。

 ここまでくるともはや速度の質が違う。あちらのフィルターの強度はシュベーレと同格程度にはなっているだろう。

 その程度には結晶変化は苛烈になっているし、彼女は側面のフィルターを切っている状況では削られるだけでも致命傷になり得てしまう。なにせ機体の一部を音速の機体が吹き飛ばしていくのだ。いくら機体が運動エネルギーの操作が出来るとは言え、そうなってしまえば機体はズタズタになる。

 かすっただけでシュベーレ程の機体も線路から引きはがされてしまう。

 本来発生するはずの衝撃波が来ないだけでも慈悲があると言うものだ。


「とは言え、第四相手に第二は流石にしんどい。私もと考えもするけれどそれは妥協か」

「堕落ですよ堕落」

「だよね。言ったことを曲げる訳にもいかないけど、ありゃ凄いとしか言いようがない。追い込み過ぎたんだろうね」


 そう言って居る間にまた殺しに来る。

 囲まれているときより厄介だとラディアンスは呆れる。速度だけじゃなく、あちらも明確に成長と言うか機械的に冷たくなっている。

 感情さえ感じない程に深く沈んだ冷たさは、第四の速度と同じく気付いても一瞬で消えていくものだ。


「けど機能だけじゃあ、そりゃ無理だ。そうやって特化したらお終いだよ人間は、私たちは確かに西の果て狂った機械みたいな存在かもしれないけどさ、情が無ければこうはならないし、夢が無ければこうはならない。

 なのに大切な部分を無くしちゃあ駄目だ。それじゃあ人間じゃあないよ」


 炸裂音が響く。正面切ってフィルター同士がぶつかった音だ。

 機体を僅かに動かして加速する機体とのヘッドオンと言うよりも衝突は、衝角の強度としても五分と言ったところであったが、ラディアンスはやっぱりと納得する。


「余分が無いなんてそれこそ機械じゃない。そういう操作は厄災地点を抜けていたら分かるでしょうに、私たちにとって余分こそが人生だって、蛇足こそ人生の美学だよ」


 いくつもの破砕音が機体同士の正面衝突の繰り返しである。

 それはラディアンスが読まれた点に似ていだろう。死と言うものに怯えないと言う生物的欠如が穴として見極められて殺されかけたところだ。

 彼は機能を拡張していく過程でラディアンスを参考にした。

 それはある意味では彼にとっては最適解かもしれないが、それは致命的な悪手である。


「世界で遊べ、人で笑えだ。この世一切合切は面白い。そうやって生きていくから私たちは開拓者なんだろう」


 彼女は自分を見切っているのだ。

 そこから成長を見出すからこそ彼女は取り入れる事を辞めないが、その彼女をの操縦を参考にすればこうなるに決まっている。

 自分がする事なんて、誰よりも自分が理解している。遊びが無いから彼女に読まれてしまう。


 ラディアンスは自分に最も冷たい女である。

 

 だからこそ機体は正面衝突を繰り返し、動きは読まれてカウンターを喰らう羽目になる。

 だがそれでも機体の速度は暴力であるからこそ、彼女は機体を撃墜出来ずにいるし、あちらも彼女を撃墜出来ないでいる。

 消耗戦の様相を呈してきたが、機体を修復できるラディアンスと出来ない男では、時間の経過を見れば彼女が機体を削り殺す方が早いだろう。一瞬の優劣ではあったが、あまりにも遊びが無い動きは逆に行動を読まれたと言うだけだ。


 自分のコピーに負けるなんて言う事が起きる程、ラディアンスと言う女が己に妥協している訳がない。

 だが男だって諦めようとはしない。

 足りないと分かっているからこそ必死になって動き続ける。足りないならと自分を引き出し、それでもラディアンスが彼の上をいく過程に残っていた感情が絶叫を響かせる。

 彼は声も出せないのに必死になって声を上げるが、空洞から流れる声は所詮息の残滓でしかない。


 しかしそれでも彼は機体を操る。ここまで届いたのだと言う感情があるからこそ、次を引き出す為にまだ可能性を模索し続けるしかないのだ。

 それこそ彼女の言った余分を作り上げる様に、男は必死に声を上げて機体を操りつくす。

 そこにこそ突破点がある筈だと思っているからだ。


 第四を掌握し、彼女の技術を操り、足りないからと自分を引き出す。その段階こそがラディアンスを困惑させることになるが、それでも男の動きはあと一歩が足りない。

 彼女に届きうる牙が無い。自分の人間性を削って、身体機能を貶めて、それでも厄災地点を踏破できない。開拓者としてこれほど不愉快な事があるだろうか、怒りを声に出しても響かず、悲鳴を出してもやはり届く事は無い。


 だが開拓者は諦める事などない。

 その機体は速度を上げて相手が正面から受け止める状況を作り上げて正面から打ち砕こうとする。しかしラディアンスの機体は要塞列車を破壊する事を旨に作られた機体だ。

 重機関であろうとも正面からの勝利などありえない。圧倒的な速度による強化があったとしても互角が限界であったところからもその強靭性が分かるだろう。


 だが彼とて算段が無い訳ではない。

 衝角同士の衝突の際に機体を少し持ち上げてフィルター同士を滑らせる。


 相手のフィルター強靭性を利用して無理矢理機体を直角に曲げたのだ。しかしそれは自殺行為に近い代物だ。曲がり切れなかった自身機体の居住区部分破壊しながらの強引な旋回は壊れた機体による彼女の視界の封殺が目的だ。

 物理的にその機体が彼女の視界を七割近く阻む。

 しかしその程度でラディアンスの目から逃げられる訳がない。男はここまでの戦いでその程度の事は理解している。ならばそれにこそ意味があると言うしかない。


 事前に展開させておいた僅か十メートルの路線それに無理矢理車輪をかみ合わせる。しかしフィルターすら一時的に停止するような無茶苦茶を行った結果、彼の機体を無理やりにターンさせることには成功するが車輪は鈴の音と主に弾ける。

 同時にそれが彼女の側面を突く為の布石であった。

 だがこのままでは彼女には届かない。ここまでは確実に読まれていると男の本能が叫んでいるが、これでいいと彼は機能を彼女を見る事だけに絞った。


 もう昨日はそれだけでいいと残った機能を使って笑顔を作る。


 その瞬間機体は第五に到達した。


 そして響く音が機体の悲鳴であったのは言うまでもなく、響く音は大地に降り注ぐ。

 全精力を掛けた布石をもって放たれる矢じりは、鴉の羽音によって消される事になる。


「そこまでの成長は分かり切ってたことなんだよ。私の知る開拓者はそこまでは間違いなく届いてる。それじゃあ確証の範囲でしかない。

 まして衝角すら削って第五に到達して何の意味があると思ってるんだい」


 それでも男の意地も何も意味はない。

 彼女が追いかける背中はその程度の領域には辿り着いている。だからこそただ第五を超えた戦闘機関がフィルターに激突して潰れると言う結末しか残っていなかった。

 彼女をジムクロウと命名したラニと言う男の結末は何一つ成し遂げられない代物であった。


 だがこれにより新たな厄災地点が作り上げられる。

 彼女のエゴの為に積み上げられる夢の残骸が作る彼女を阻む代物が周囲を巻き込みながら変貌を開始する。


「夢を持てるのは人だけなんだから、人を捨てるなんてはき違え方するから私に落とされるんだよ三流」


 努力だけは認めたつもりだが、それでも呆れるしかない。

 ラディアンスは男の行った全ての事を否定する。

 踏破するために必死になった結末すらも、彼女にとっては全く意味のない事だという。


 それを最後に彼女は世界に発生する新たな厄災を楽しみ笑うのだ。

 何故なら人の夢は、いや人だからこそ描ける夢の末路は、彼女の視界に別の形として存在し続ける。

 だがそこには男の悲鳴がある。もっと言うなら彼女の殺した者たちの悲鳴がる。そんな彼らによって作り上げられる別の地獄の形でしかない。


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