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scene-3.【王命】


 ──更に時間は遡る。旅の途中で王都に立ち寄った日のこと。


「よくぞ訪れた、勇者よ!」


「は、はぁ……」


『おい。もっとシャキッとしろ。一応は王と呼ばれる男の前だぞ』


「そ、そんなこと言ったってさ……。こんな所来たことないし」


『それなら適当に歯切れよく相槌だけうっておけ』


「相槌だけって……お前」


『大丈夫だ。お前が言語に詰まるようなら助け舟くらいは出してやる』


「……俺は腹話術の人形かよ」


『人形のほうが扱いが楽という意味では、遥かにマシというモノだ』


「あのなぁ……」


「あの……勇者殿?」


「はっ、はい!」


「王とのお話中に横から失礼しますぞ」


「は、はぁ……。貴男は?」


「ああ、失礼しました。私は宰相を務めさせてもらっている者です」


「そうですか」


「はい。……所で、先ほどから何をぼそぼそと言っているのですかな?」


「え?」


「何というか……そう。私の目には、まるで貴方が先程から誰かと喋っているかのように見えているのですが……?」


「一人って……えええ?」


『一応、教えておくが……。彼らには私の姿は見えていないし、私の声も聞こえていない。この場で私のことを認識しているのはお前だけだ』


「……そーなんだ」


『私の姿が見えて声を聞くことが出来るのは【勇者】だけだからな』


「そーだったのか……」


『逆に言えば、私と会話出来ることが【勇者】の証という訳だ』


「……なるほど」


「少しよろしいか。……宰相殿。勇者様の周囲から僅かに魔の気配を感じます」


「宮廷魔導師殿。それは本当ですかな?」


「間違いなく。……恐らくは、彼は何かに憑かれています。その存在は、力そのものはさほど強いものではありません。ですが、質そのものはひどく性質が悪い。……そういった存在のようです。ただし、それが彼にとって悪い方向に作用しているかどうかまでは分かりかねますが……」


「ふむ。……勇者殿。もし、差し支えなければ、貴方の口から、貴方の側に"何"が居るのかを説明して頂けないでしょうかな」


「説明って……? コイツについて、ですか?」


「コイツかソイツか私達には知り得ませんが……。貴方の側に"何か"が居るのなら、それを先に教えておいて頂けると有り難いですな」


「私も教えておいて頂けると助かります。王の周辺を警護する役を預っている身としては、質の悪い気配を漂わせている貴方の存在というものは、安々とは見逃すわけにはいきません」


「ん~……コイツは勇者にしか見えないらしいです。声を聞いたり話したり出来るのも勇者だけみたいなんだけど。……そーだなぁ。俺にとっては、こいつは"友達"兼"相談役"ってヤツかなぁ。子供の頃からずっと側にいたし」


『……助言者だ』


「え?」


『私はお前の助言者。勇者の旅を助ける存在。助言者という存在だ』


「こいつは、自分のことを助言者だって言ってるけど」


「助言者……ですか」


「見た目はただのふわふわ漂ってる光の玉でしかないんだけど……」


「ふむ」


「……勇者よ」


「あ、はい。王様」


「ワシは今までお前は一人で旅をしているのかと思っていた」


「申し訳ないです」


「別に失望したという意味ではないぞ。むしろ安心した」


「……あんしん?」


「未だ歳若いお前に命を下すのは流石にまだ早いかと思っていたのだ……。宰相よ、お前はどう思う?」


「王様。私は彼に助言している存在は十分な判断力と叡智を備えていると考えます」


「根拠は?」


「私が聞き及んでおります勇者殿の残されてきた数々の実績と武勇伝を振り返りますに、それらを成すには極めて高い知能と分析力が必要になります。そして無闇な殺戮を極力避けてきている点を鑑みましても、そこには理性による冷静な判断力があったと考えるべきでしょう。……正直、それらが未だ幼年期の域を超えていないはずの歳若いはずの身で何故可能であったのか。それを長らく疑問に感じていたのですが……」


「ようやく理解できたということか」


「御意。無論、理由はそれだけではありませんぞ。正しい判断力を与えられているだけでなく自らは高い戦闘力をも身につけている。その証が実績の多さでもあるはず。それらを確認出来た以上、この理由をもって命を下すに足りる能力を備えていると判断致しますぞ」


「ふぅむ……。魔術師殿はどう見る?」


「王よ。私は素直に言いますと……少なからず不安が残ります」


「なぜだ?」


「彼は魔に魅入られている可能性があります」


「すでに魔の勢力に取り込まれていると申すか」


「その不安が消えてくれません」


「魔術師殿の懸念も分からないでもないのだが、日々圧力を強めてきている魔王軍を前にして、今の我々には他に頼る相手もいないのではないか?」


「王の仰る通りです。魔術師殿。少なくとも私の目には、勇者殿はちゃんと人間の側に立っているように見えておりますよ」


「……そうですか」


『どうやら結論が出たらしい。……ここから先は、言語に気を付けろよ』


「え?」


『連中は、お前に何か無理難題を課すつもりだ』


「……」


『大丈夫だ。私の助言のとおりに答えるが良い。悪いようにはしない』


「分かった」


「……ふむ。答えは出た様だな。……勇者よ!」


「は。はい!」


「今日、この時、ワシはお前に一つの命を下すことにした。これは、王としての立場からの依頼であるが、その依頼には全ての人間の願いが込められていると心得よ!」


「……」(ごくり)


「すなわち王命でございますよ。勇者殿」


「王の願いを見事に果たして見せれば、報酬はまさに望みのままでしょう」


『王命とはなんでしょうか、と聞け』


「……おうめいとは、なんでしょうか?」


「勇者よ。魔王を討て!」


『微力を尽くします、だ。元気よく答えてやれ』


「は、はい!び、びりょくを、つくします!」


「うむ。良い返事だ!では、任せたぞ!勇者よ!」


『最後は"はい"だ』


「はい!」


『というわけだ。がんばって魔王を討てよ。勇者よ』


「……って、えええええ!?」



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