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scene-2.【奇襲】


 ──時間は少し遡って、宿屋の一室にて。


「奇襲をかける!?」


『その通りだ』


「奇襲って、魔王にか!?」


『そうだ』


「どうやってだよ! そんなの、不可能だよ!」


『可能だ』


「無理だって! 相手は何百って手下がひしめいている魔王城の一番奥の部屋にいて、そこでガッチガチに守りを固めてるんだぞ!?」


『そうだな』


「しかも、こっちは二人……実質一人だぞ!?」


『分かってる』


「そんなの絶対、無理だって!」


『普通ならな。だが、それでも可能だ』


「どうやって!?」


『ちゃんと方法がある』


「ほうほう?」


『手段といってもいい』


「手段……。ほんとに、そんなものがあるのか?」


『ある。そして、それ以外にお前が魔王に勝つ方法は存在しない』


「どうして……?」


『普通に1対1でやりあえば、おそらくはお前は魔王に勝てるだろう』


「そうなのか……?」


『ああ。お前は私の助言をよく聞いてくれたし、私の助言を信じてこれまで良くついてきてくれた。私の指示どおりに自らを鍛えてくれたし、理想的な装備だって整えてくれた。……ここまで一人で旅を続けてこれたのも、お前が私の言語を素直に信じてついて来てくれたからだ。だからこそ……お前は魔王に勝てる唯一の人間となれた』


「俺が……勝てる……」


『無論、楽には勝てないだろう。戦いを左右する要素の中には時の運だってあるからな。だが、お前は際どいが、なんとか勝てるというレベルに既に達している。少なくとも……私は、そう判断している。それくらいお前は強くなったのだ』


「本当に、勝てる……? 魔王に……?」


『本当のことだ。今のお前なら勝てる目がある。10回やりあえば3回は確実に勝てるはずだし、相打ち同然の辛勝まで入れて良いなら勝率は5割程度まで伸ばせるだろう。……ただし、前提となる条件が少々難しい』


「条件って?」


『肉体も精神も疲労していないベストなコンディションで、装備品も道具もほぼ完全な手入れ直後の状態で、真正面から、一対一でやりあう事が出来たなら……だ』


「やっぱりな。そんなこったろうと思ったよ」


『勝ち目は勝ち目だ』


「そんなの無理に決まってるだろ……。相手は魔王軍の総大将なんだぞ!」


『ああ、普通の方法では無理だ。魔王城につめている無数の手下や護衛、親衛隊や番兵……。どれ一つとっても厄介で手ごわい相手だし、倒すのが大変な強さの魔物ばかりがひしめいてる。そんな状態で、これらを残らず退けながら魔王のもとにたどり着いて、その上で魔王と雌雄を決して勝たなければならないとなると、まっとうな方法で勝てる人間はおそらくはいないだろう。それくらい魔王城の守りはかたく、攻略は厳しいと言わざるおえない』


「だからこそ奇襲しかないってか?」


『まっとうにやっても勝てるかどうか怪しい相手なんだ。裏技なしに勝てるような甘い相手じゃないぞ?』


「さすが魔王自慢の城ってか?」


『自分の身を守ることにかけては悪魔じみた悪知恵が働くヤツだからな』


「確かに狡賢そうなヤツだけど……」


『まさに用意周到ってヤツさ。だが、それだけにつけこむ隙がある』


「……ホントかよ……」


『実は、今代の魔王はずる賢い小心者なだけに、いざという時の逃走経路までしっかり用意しているんだ』


「逃走、経路?」


『いわゆる隠し通路ってヤツだ。勝てそうにない強さの敵が襲来したときに備えてあってな。……王座の裏から裏山の樹海……迷いの森と呼ばれているんだが、逃走経路にうってつけな深い森に逃げられるようになってるんだ』


「総大将が……敵前逃走?」


『普通ならありえない。だが、それだけにとっておきの奇策といえる。魔王軍の総大将である自分さえ生きていれば、どれだけ軍が疲弊したとしてもいつか再起の目が残せる。そういう風に幹部連中には説明して通路の必要性を説いて誤魔化していたらしいが……』


「本音は違うってことか」


『ああ。アイツは、単に死ぬのが怖いだけの、ただの腑抜け、腰抜けだ』


「今の魔王って、そんなヤツなのかよ……」


『おっと、勘違いするなよ』


「え?」


『たしかに、アイツは腑抜けで、腰抜けで、小心者で、臆病者だ。だからといって、決して弱い訳ではないぞ。むしろ蛮勇にあふれた豪傑タイプの魔王よりもよほど手ごわいはずだ。……何しろ、最強の魔族であるのに何があっても死にたくないってのを最優先してしまうようなヤツなんだ。これまで戦ってきた中で、一番厄介で恐ろしい相手になると思え』


「……そっか。いわれてみれば、そういうことなのか」


『力の大きさと性格は必ずしも釣り合わない。用心深い臆病者ほど敵にまわすと厄介ということだ。だが、今回ばかりはヤツの用心深さが裏目に出た。せっかく、これまで完璧だった守りの硬さを自らの手でわざわざ崩したんだからな』


「ガチガチに守られた最下層ってことは、そこから逃げる方法もないってことだしな……」


『そういうことだ。もっとも、そういう形にしておくことが守りの力を最大化する方法そのものだったはずなんだがな。……だが、あの腰抜け魔王は自分の中の弱気に負けたのさ』


「……死ぬのが怖いって?」


『ああ。だが、そんなものを作ってしまっては完璧だった守りの形を崩す事になる。その事を、あの小心者は死への恐怖に負けて見なかった事にしてしまった。これまで通りの形にしておけば自分は万全で疲労した敵とだけ戦えていたはずなのに……。そんな最大の利点を捨ててまで、それこそ敵に侵入されるリスクをとってまで、いざというときの逃げ道をわざわざ用意してしまったんだ』


「それが、隙……か」


『最後の手段として用意した秘密の逃走経路だ。そこから敵が侵入してきた時への備えは殆ど用意されていない。せいぜい一方通行化するための特殊で、やたらと強力な結界くらいのものだな』


「一方通行化の強力な結界って……駄目じゃないか!」


『おいおい。何のために私がいると思ってるんだ?』


「まさか……」


『ああ。まかせておけ。私がなんとかしてやる』


「そんなこと出来るのか!?」


『一応だが、出来る。念入りに組まれた複雑な代物だけに結界そのものを消すことは流石に不可能だ。だが……一時的に方向性を変えるくらいなら私にも可能なはずだ』


「方向性を変えるって?」


『一方にしか進めないようにしてある結界なら、その力の向きを反転させてしまえばいい。そうすれば、そこから侵入できるようになる。逆に出ていくことは出来なくなるから、そうなったら、もう逃走経路としては使えなくなるが……。侵入経路としては使えるようになる。これなら敵の逃走経路を塞ぐ形にもなるし一石二鳥ってヤツだな』


「つまり……」


『一方通行の侵入経路から乗り込んでいくだけじゃない。相手の逃げ道も同時に塞ぐんだ。そんな真似をすれば、もうどちらかが死ぬまでは決着がつく事はないと思え』


「……そんな真似して、魔王倒した後で逃げるときどーすんだよ」


『結界への干渉は長持ちはしない。ある程度時間が経過すれば元に戻るさ』


「つまり……」


『半日もすれば逃げ道が復活するだろう』


「それでも半日……か」


『だからこそ奇襲なんだ。敵の軍勢の大半が休んでいるだろう時間帯を狙って襲いかかって、そこで朝まで息をひそめておいて……』


「朝になって逃げ道が復活したら逃げ出す、と」


『それ以外にヤツを倒す方法があるというのなら是非教えて欲しいものだな』


「正々堂々って訳にはいかないのか?」


『それをやりたいなら非戦闘員の人間を全滅させる覚悟が必要だ。それこそ各地で魔物と戦っている人間の軍を全て集結させて魔王城に突入させるしかないだろう。そうやって真正面から人間の軍勢が魔王城の近衛軍と剣を交える混乱した状況を作っておいて……。お前がその隙に魔王の間に斬り込んで、魔王と一対一で決着をつける。それくらいしか勝つための方法が思いつかないな』


「どっちにせよどさくさ紛れってことか」


『混乱のどさくさに紛れて乗り込むか、夜陰に紛れて乗り込むか。所詮は、その程度の違いしかない話だ。無論、巻き込まれる人間の数を無視した上での話だが……。どっちみち今の人類には、お前くらいしか勝ち目がある人間がいないんだ。最後にはどのみち一対一になるのなら、どういった経緯でなるかの差でしかない。ただし、この場合には逃走経路が生きたままになってるから、最悪魔王に逃げられる可能性は否定できないな』


「……流石にそれは無理があるし、そこまでやって逃げられる可能性があるってのは流石に嫌すぎる」


『あの腰抜け魔王なら人間の本気攻めに対して何をしでかしても驚かんぞ。……まあ、どっちでも私は構わん。名誉ある愚行による混迷か、不名誉極まりない暗殺による勝利か。……まだ時間はあるんだ。お前が、自分で好きな方を選べばいいさ』


「……」



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