自動ドア(お題小説ジャンル不明)
沢木先生のドSなお題に基づくお話です。お題は「自動ドア」です。
自動ドア。
最近のものは、重さで開くタイプではなく、センサーが感知して開くものである。
これは、ある会社の受付嬢が体験したお話である。
律子はある大手企業のOLである。
念願の受付嬢に抜擢され、有頂天になっていた。
しかし、律子は知らなかったのだ。その受付席には、恐るべき因縁があった事を。
律子は誰よりも早く出社して、着替えをすませ、受付席の掃除をし、出勤途中で買って来た花を花瓶に生けて飾った。
(今日、私の新しい人生の扉が開くのよ)
受付席に座る事を夢見て、律子はその会社に入社したと言っても過言ではないのだ。
会社の顔。そう言われるのを楽しみにして、日々努力して来た。
ところが、その日に一緒に受付をするはずだった先輩が急病で来られなくなり、その日の受付は律子一人でこなす事になった。
気のせいか、受付のあるロビーを歩く人達は、皆足早に通り過ぎて行く。
律子は始めのうちは緊張していた事もあって気にならなかったのであるが、あまりにも皆が皆逃げるようにロビーを歩くので、不審に思った。
「あの、何かあったんですか?」
顔見知りの男性社員に声をかけたが、
「いえ、別に。お仕事、頑張ってください」
と言われ、逃げられた。
(何だろう?)
周囲の社員の様子がおかしいので、律子は不安になって来た。
(何? 何があるの?)
彼女は一人になるのが怖くなり、受付席をトイレに行くフリをして離れようとした。
その時だった。
玄関の自動ドアが、誰もいないのにスーッと開いた。
「ひ!」
律子は顔を引きつらせて、固まった。
次にどこからともなく、女性の啜り泣く声が聞こえて来た。
「……」
律子は気を失いそうだったが、何とか震える足で受付席を出て、這うようにして奥の警備室に向かった。
「どうしたのかな、律子君?」
後ろからいきなり声をかけられ、律子は飛び上がって悲鳴を上げた。
「大丈夫かね、律子君?」
ギュウッと抱きついて来たのは、先代の社長の急死を受けて新社長に就任したドラ息子の平井拓三だった。
「しゃ、社長、やめてください、放してください!」
律子はもがくが、拓三は放さない。
「ダメだよん、今日の受付嬢は、僕ちゃんのデートの相手って決まってるんだからさ」
拓三はニヤリとして唇を突き出して来た。
「いやああ!」
律子は拓三の顔を往復ビンタして、ロビーを飛び出した。
「気が強い女だなあ」
拓三は叩かれて赤くなった頬を撫でながら呟く。
「もうちょっと細工をした方が、落ちやすかったかも」
拓三はニンマリとして言った。とんだ二代目である。
お粗末様でした。