桜と月とあいつ
今宵は、満月。
夜桜を楽しむにはもってこいの月だ。
桜も咲きに咲いて満開だ。
車のヘッドライトを止めて車から降り、一本だけ植わっている桜の大樹に腰掛け、見上げる。
涼しい風が辺りをなでると、桜も、周りの木々も風に合わせて揺れる。
時折り、枝と枝の間から黄金色の満月が見える。
落ちている桜の花びらは、風に遊ばれるように宙を舞い、踊る。
綺麗。まさにこの言葉がピッタリ当てはまると思う。
「あいつ」が居るなら綺麗だと、美しいと、はしゃぐだろう。
右手に持っている日本酒の栓を開け、左手のコップに注ぐ。
注ぎ終わったコップを隣に置いて、もう一つコップを車から取り出し、注ぐ。
「乾杯」
と、置いてあるコップにコップを軽くぶつけ、少し飲む。
「あいつ」が居るなら、一気飲みするだろう。
もう一度桜を見上げる。
「乾杯」
桜と、満月と、花びらに向かって言う。
「あいつ」が居るなら、何カッコつけているんだと、馬鹿にするだろう。
だけど、あいつはもう居ない。
いつかまた会おうと約束したまま、その約束は破られた。
お互いの約束を破ったのも、破られたのも、この約束が最初で最後だ。
一気に日本酒を飲み干すと、「あいつ」の分の日本酒も飲み干す。
持ってきたものを車に戻して、運転席に座る。
今日はここで寝よう。
ゆっくりと、目を閉じる。
朝日が差し込んで、目が覚める。
空にはもう満月ではなく、太陽が顔を出している。
ゆっくりと伸びをして、車のエンジンをかける。
朝日に輝くいつまでも綺麗な桜と、もう見えない満月と、もう会えない「あいつ」に向かって。
「じゃあな」
別れの言葉を告げる。
帰路につくため、車をゆっくりと動かす。
周りの木々は揺れてないのに
桜だけが、揺れた気がした。
処女作になります。
詩みたいなものが書きたかったので、書き上げました。
心に何か響くものがあれば、嬉しいです。