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薔薇




 『向日葵の石城』の居住区となる城の前にて。


 耳のような羽角がある水色の小さな梟へと変化したかと思えば、眠りに就いてしまった翠巒すいらんと、翠巒によって閉じ込められていた水牢から解き放たれ、ぐったりと気絶をして地面に横たわっていた澄明ちょうめいを前に困惑したのは刹那の事。医者を呼びに行こうと振り返った義仁よしひとはしかし駆け走る事は叶わなかった。


「悪いけど俺、医者を呼びに行かないといけないから。あんたがどこの誰でどんな用があるのか知らないが、ちょっと待っていてくれないか?」


 三つ編みにする紅の長髪、紅で時々黄色に変化する瞳、垂れ目、筋肉がついていながらも骨が細く痩せ型で小柄な義仁よりも拳が二つほど高い中背、背中をやわく丸める男性を見上げながら口早に言った義仁。じゃあなと手を振って、駆け走ろうとしたがまたもや叶わなかった。男性に手を掴まれたのである。


「あの俺本当に急いでいるんだ。手を放してくれ」

「助けてくださいっ! みのる様っ! またボクの城に魔物がやって来たんですっ! また魔物を説得して穏便に立ち退かせてくださいっ!」

「えっ? いやいやいやいや。俺はじいさんじゃなくて、じいさんの孫の「ほらほらほらお願いしますよっ!」「いやだから話を聞けっ!!! って。おいおいおいおいっ!!!」


 男性は義仁をお姫様抱っこしたかと思えば、背中から羽毛のない紅の翼を勢いよく出してのち、勢いよく飛翔したのである。

 前触れが一切合切なく、その加減のない速度と重圧に耐えきれず、義仁は気絶してしまったのであった。






 『薔薇の石城』。

 居館でもあり使用人居住館でもある、パイプオルガンに似た外見で平地に直接石を積まれて造られたこの城の周りには、城を防護するための城壁も堀も側防塔もなく、ただただ、多種多様な薔薇が咲き誇り、五基の噴水が設置してある美しい庭園だけが広がっていた。


「いやもう何が何だか分かんねえ」


 義仁は現状に頭を抱えた。抱えざるを得なかった。

 義仁をお姫様抱っこして急飛翔した男性、火畋かがりは今、大泣きしていたのである。

 ほぼ全壊しているパイプオルガンに似た外見の城の前で。

 多種多様な薔薇と五基の噴水に囲われる中で。

 庭園は無傷で城だけが被害に遭っている事に対して疑問を抱きながらも、意識を取り戻した義仁は魔物が来たという火畋の言葉を思い出しては、間に合わなかったのかと火畋に尋ねると、火畋は大泣きしながら違いますと言った。


「違うってどういう事だ?」

「ボ、ボクが、壊しちゃった、んです。実様。起きてくれ。ないし。魔物は。暴れ。回るし。ボク。ボク。せいいっぱい。止めてくださいって。お願いしたん。ですけど。魔物。魔物は全然。ぜんっぜん。聞いてくれなくて。実様の言葉なら。聞いて。くれるのに。ボクの言葉は全然。オマエは最強の竜の。血を。受け継ぐ。人竜だろうって。最強なら。オレたちと闘えって。オマエに勝って。オレたちが最強だって。世に知らしめるんだって。名を上げるんだって。言うんです。ボク。闘いは嫌いですって。言ったんです。訴えたんです。何度も何度も何度も。なのに。聞いてくれなくて。闘わないなら。城を壊すって。薔薇を壊すって。噴水を壊すって。ボク。ボクの魔法力で結界を張って。庭園。は。常時、護っていたんです。けど。城までは魔法力が足りなくて。護れなくて。止めてくださいって言ってるのに。聞いてくれなくてだから。ボク。悲しくて。悲しくて。悲しくて。気が。ついたらまた。魔物ごと城を。壊してて。全壊させちゃって。ううう。せっかく。修復した。ばっかりだったのに。また。修復。しないと。また。頼まないと。お金。お金。お金ももうないのにっ!!!」


 わんわんわんわん。

 泣き散らかす火畋を前に同情心を抱いてしまった義仁は、俺にできる事は力になるぞと言った。


「俺も金はないから金問題は力になれないが、他の事でなら力になるぞ。とりあえず、パンを食べるか?」


 パンの詰め合わせを入れていた紙袋を持ったままだった義仁は、地面に座り込んでいた火畋を前に差し出した。

 火畋は顔を上げて充血した目を向けては、じっと義仁を見て、首を傾げた。


「キミは誰ですか? 実様はどこに行ったんですか?」

「ああ。俺は義仁。実の孫だ。実は死んだんだ」

「え? えっ? えええっ!? 実様、死んじゃったんですかっ!?」


 折角引っ込みそうだった涙がさらに勢いを増して流れ落ちてしまった。

 義仁はギャン泣きする火畋を見て、面識のない祖父へと想いを馳せたのであった。


(じいさん。慕われてたんだな………俺、会ってみたかったな)







(2026.2.4)



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