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魔法




 『向日葵の石城』の居住区となる城の前にて。


「俺と澄明ちょうめいが養子縁組しないと、澄明は『向日葵の石城』を手にする事ができないんだな?」

「ああそうだよっ!!! だから今すぐにこの養子縁組届にサインしやがれっ!!!」

「嫌だ」

「ああっ!?」


 ビリビリビリビリ。

 澄明の殺気によって何撃もの小さな雷を浴びせられたかのような鋭く深い痛みが生じた義仁よしひとはしかし、怯む事なく背筋を伸ばして澄明と向かい合っていた。

 うだうだうだうだと、嫌々ここに来たのだと文句を言っていたが、ここでなさなければならない事があるのだ。

 ここでしかなせない事があるのだ。


「俺は『向日葵の石城』にまったく思い入れがない。家族に背中を強く叩かれていなかったら、ここに来ていないくらいだ。だから澄明が『向日葵の石城』の主になるべきだ。養子縁組届にサインをして澄明に引き渡したい気持ちはある。だけどな。今すぐには無理だ。理由は二つ。俺がサインをしたら澄明はすぐに俺を殺しそうだから嫌だ。もう一つは。義妹のかわいいかわいい願いを叶えたいからだ。『お兄ちゃん。私、一度でいいからお城に住んでみたいなあ』。満面の笑顔と上目遣いで言った義妹のために! 俺は一度は『向日葵の石城』の主になるんだっ!」

「くだらない理由で『向日葵の石城』を手に入れようとするんじゃねえっ!」

「くだらない理由なんかじゃねえっ!!!」


 人狼に敵うはずがない。

 刹那に過った考えは、刹那に彼方へと飛翔。

 硬く拳を作った義仁だったが、眼前に迫って来る澄明の拳を前になすすべもなく走馬灯が駆け走った。


(え? やば。おれ死、)


「え? あ………え?」

「私にもあとでパンを分けてくれるかな?」

「え。ああ。いいが」

「ありがとう」


 立ち去ったはずの翠巒すいらんに片腕で抱えられていた義仁は、すぐさま地に下ろされた。

 義仁は翠巒の隣に立つと、少し離れた場所へと視線を向けた。


「あれ。あんたがやったのか?」

「ああ。ただならぬ状況だったからね」


 翠巒は私の後ろから出ないように言ってのち、宙に浮く水の塊に閉じ込めた澄明へと近づいた。

 どうやら翠巒は義仁を片腕で抱えては澄明と距離を取ってのち、素早く魔法を発動させたらしい。


「あんた。魔法使いだったのか?」

「ああ。私は王家お抱えの写真家にして、魔法が使える人魚なのだよ。『向日葵の石城』の城主様」


 翠巒は気だるげながらも美しい微笑を義仁に向けたのち、力を使い過ぎたと言っては。


「え?」


 耳のような羽角がある水色の小さな梟へと変化したかと思えば、眠りに就いてしまったと同時に、澄明を閉じ込める水牢が破裂。ぐったりと気絶をした澄明が地面に横たわっていた。


「えええええ?」







(2026.2.4)



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