養子縁組届
彫りの深いお顔立ち。
オリジナルスタッシュの銀色の口髭。
ぴょんぴょんと、整髪料で整えられているにもかかわらず、飛び跳ねている髪の毛が二本あり、顔の周りの髪は短く刈り込まれ、耳は露出している銀色の髪の毛。
短く爪が切り揃えられた、短く太く厚いお手におみ足。
常に背筋を伸ばしている中肉中背のお身体。
元々口数が少ないのか、お喋りが苦手なのか。
旦那様は、先代の『向日葵の石城』の城主である実様は、ご自身の事は話さなかったけれど、ハスキーな声音でよく本を読んでくださった。
文学、ノンフィクション、実用書、専門書、歴史書、児童書、絵本、雑誌など、城に置いてあったあらゆるジャンルの本を、文字をわたくしに教えながら読んでくださった。
感情を露わにする事はほとんどなく、ゆっくりと、たおやかに、おだやかに、言動を行う方だった。
いつから。
などと、考える事などなかった。
拾われた時から、出逢った瞬間からわたくしは旦那様に、実様に、
『向日葵の石城』の居住区となる城の前にて。
「これに署名しろ」
人型の姿を保ったまま、先程まではなかった銀色の尖った両耳と、ふさふさの銀色のしっぽを出すという半狼化してしまい、グルグルと重低音の唸り声を出していた澄明は、素早くどこからか一枚の書類を取り出すと、義仁の顔面に叩きつける勢いで差し出したのである。
「養子縁組届? え? 俺に澄明の養子になれって言うのか?」
「違う。俺がおまえの養子になるんだよ。おまえの、『向日葵の石城』の現城主の養子になって、おまえを殺して、俺が『向日葵の石城』の最期の城主になって、俺が『向日葵の石城』を護るんだよ俺が死ぬ時に一緒に『向日葵の石城』を殺すんだよ!!!」
口調も声音も一人称も纏う空気すら殺伐で凶暴なものへと一変させた澄明から伝わってくるのは、苦しく狂おしいほどの、恋情だった。
先程感じた、ひどく淡くまろやかな恋情ではなかった。
けれど、と、義仁は思った。
けれどどちらも兼ね備えた恋だったのだろう、と。
(2026.2.4)




