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パンの詰め合わせ




 『向日葵の石城』の居住区となる城の前にて。


 翠巒すいらんが去って以降、微動だにせず黙りこくってしまった澄明ちょうめいを前に、義仁よしひとはショルダーバッグから紙袋を取り出した。

 ここへ連れて来られる前に、自分で作り店に出していた何種類かのパンを詰め合わせして持って来ていたのである。


「あ~。そうだ。俺。腹減っちまったわ。俺んちからパンを何個か持って来たから食わねえか? あ。そうだ。城の台所には当然パン窯もあるよな。今度出来立てを食わせてやっから楽しみにしてろよ。お。そうだ。『向日葵の石城』にちなんだ向日葵パンを作らねえか? この城で作られた食材を使って。そうだそうだそうしよう。な。澄明。うわあ。忙しくなるぞこれは」

「自らなさるべき事を増やしてどうするのですか? 義仁様。城の管理補修と貴族の勉学だけでも山ほどなさるべき事があるのですよ」

「え? ああ。そうだよな。うん。パンを作ってる時間はないよな」

「………なさるべき事をなさってくださったら、パンはいくらでも作って頂いて構いませんが。もらってもよろしいですか?」

「おう」


 義仁は満面の笑みを浮かべて、パンが入った紙袋を澄明に手渡した。


「へへ。澄明の好きなパンが入っているといいな。メロンパン。チョココロネ。クロワッサン。白パン。ソーセージロールパン。レモンクリームパン。夏野菜カレーパン。耐熱、耐油、耐水、防水、保湿、通気バッチシのパン紙で一個一個包んで、出来立てほやほや、は言い過ぎかもしれねえけど、負けず劣らずの味も触感も色合いも香りも保ててるからよ」


 嬉々として話す義仁を前に本当にパンが好きで堪らないのだという事がこれでもかと伝わって来ては微笑を浮かべた澄明。どれも美味しそうですと言っては、三重に折り畳んでいた紙袋の開け口を開き、メロンパンと印字されているパン紙に包まれたメロンパンを手に取って、メロンパンを頂きますと言い紙袋を義仁に手渡し、パン紙を開きメロンパンを目にした時だった。

 ドクン、と。

 身体が弓なりに反れては、心臓が大きく跳ね上がったかと思うと、沸騰する程に身体が熱くなり、そして。


「ん。ああ大丈夫だ。三秒ルールで地面に落ちてもこうして土埃を掃えば食べれる」


 紙袋の中を覗いてどのパンを食べようか思案していた時だった。

 地面に落ちたメロンパンを素早く拾っては丁寧に掃って、メロンパンは俺が食べるから澄明は別のパンにするかと言いながら澄明を見た義仁は目を見開いた。


「澄明。あんた。人狼。だったのか」


 何が原因なのかさっぱり分からなかった。

 今は昼間で、しかも月も見えていない。

 にもかかわらず、人型の姿を保ったまま、先程まではなかった銀色の尖った両耳と、ふさふさの銀色のしっぽを出すという半狼化してしまった澄明は、グルグルと重低音の唸り声を出していたのである。




「え? これ。ヤバいやつなのか?」







(2026.2.4)



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