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石城






『すまない。すまないな。負の遺産と忌み嫌われるようになってしまった城をどうしても私は遺したいのだ。棄てたくないのだ。とても大変な事とは承知の上だ。澄明ちょうめい。私の頼みをどうか、聞き届けておくれ。先祖代々守って来たこの城を、私の家をどうか、受け継いでくれる後継者を、私の孫を、捜し出して、一緒に護っておくれ。未来に手渡せるようにしておくれ』




「はい。旦那様。遅くなりましたが、とうとう見つけました。旦那様のお孫様を。義仁よしひと様を」


 オールバックにポニーテールの髪の毛も長く垂れ流す眉毛も口髭も銀色、漆黒のタキシードと革靴で身を引き締める、外見は細身の高齢男性の澄明は、『ひまわり』という看板が立てられているパン屋の前に立っては瞳を潤わせた。


「旦那様の家をわたくしと共に護ってくださる義仁様を見つけました」




紫電一夕しでんいっせき』。


 緑豊かで広大なこの国での今の困り事は、貴族でありながら先祖たちが代々守って来た石城と共に貴族としての役目も放棄しては市民に迷惑をかける一部の貴族たちの存在であり、また、後継者がおらず見るも無残に朽ちていく立派な石城に棲まう魔物たちの存在であったそうな。




「え? やだよ。貴族の血が流れているとか知らねえし。俺はもう立派な庶民だし。このパン屋を受け継ぐって決めてんだから。他の貴族を探せよ。じいさん。じゃあな」


 立派な眉毛、曇りなき信念のある深青の瞳、深青の短髪、ガタイはよく小柄な体格の十八歳の男性にして、澄明がこの一年間、捜し回っていた義仁にけんもほろろに袖にされては、パン屋から追い出された澄明。ふむ、と、目を隠す銀色の長い眉毛を軽く撫でたのち、周りから攻めますかと呟いては、不敵に笑ったのであった。




 


「そもそも俺は両親の記憶すらないんだ。けど別になくていい。まったく困らん。パン屋を営んでいる今の義母さんと義父さんに拾われて、可愛い義妹と義弟と五人で平和に暮らしているんだ。俺たちの家族団欒を邪魔するな。俺はじいさんの岩城なんて知らん。さっきも言ったが、他の貴族を探してくれ」

「はい。ですが、義仁様のご家族から後押しされたのですよね。お義父様から。『義仁。俺たちも『向日葵の石城』は残っていてほしい』。お義母様から。『義仁。貴族に戻っても私たちの家族の絆は永遠不滅よ』。義妹様から。『お兄ちゃん。私、一度でいいからお城に住んでみたいなあ』。義弟様から。『兄貴。他のみっともない貴族たちみたいになるなよ』。以上のお言葉を受けて、義仁様はわたくしと共にこちらの『向日葵の石城』に足を運んでくださったのですよね」




 『向日葵の石城』。

 貴族が建設した石城には必ず庭が併設されており、各々自分たちに関係のある、もしくは好きな花を植えており、その花の名前が城の名前として付けられていた。

 城に植えられた花は季節によって色は違えど、不思議と一年中咲いていた。

 義仁の祖父であるみのるの一族は向日葵を植えていたので、この名称が付いており、今、向日葵の花は黄色に色付いていた。




 義仁の自宅兼勤務先であるパン屋『ひまわり』のある町から馬車に乗る事、三十分。

 周囲には『向日葵の石城』以外の建設物や人工物がなく、林や植物や泉しかない『向日葵の石城』に到着してからも、文句を言っていた義仁は後頭部を乱暴に掻き回した。


「そりゃあ、義家族にああ言われちゃあなあ。けど。俺がどんだけここに来たくなかったか。あそこに残りたかったか。あんたは知る必要があると思ったんだよ。俺がどれだけ嫌々ここに来たのかをな」

「ええ。重々胸に刻み付けておきます。ささ。ご案内しますので、どうぞ」

「………はあ」


 義仁は先行する澄明の背から身体ごと視線を外し、遠ざかっていく馬車へと、そして、遠方に見える町へと目を見据えては、澄明の後を追ったのであった。


(慌ただしくここまで来ちまったおかげで聞きそびれた。義母さんと義父さんは知っていたのか。俺が貴族の出だって事を。もしかしていつかは厄介払いしようって思ってたのか。だからこんなにあっさり見送ったのか。涙一つ浮かべないでよ。なんて。あ~~~。いかんいかん。へこんでろくでもない事を考えるな)







(2026.2.3)




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