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Beelze  作者: 芥川りゅうくん
第一章 宿泊研修編
17/17

第十七話 大江戸先公

401号室と表記された立札と、その扉の向こう。

明るい部屋のキングサイズベッドの上である男が2人の女を抱いていた。


「けっへへへへ…」


錦城(キンジョウ) プルルルル♪ 錦城(キンジョウ) プルルルル♪》


「なんやなんやお楽しみ中に」

「空気読めへんなぁ〜〜…俗に言うKYっちゅうやつや」


「あぁん…待ってぇ」


男は立ち上がり、求めるように手を伸ばしてくる女を振り払って小棚の上に置いてある照明をつけてスマホを手に取る。


「お楽しみ中やぞ、兄弟」

「どないした?」


《あのなぁ…》

《秋元、お前今どこだ?》


「ホテルやホテル、なんで教えなあかんねん」


《福江輝がやられた》


「はぁ?」


《やられたというか、本体じゃなくて例の施設跡地にいた分身体を統括していた分身体だ》

《そのおかげであいつ本体はしばらく分身体を出すことができない》


「律儀に教えてくれるんやね、お前も可愛いとこあるやないか」

「お前もくるか?丁度人数が足りなかったところや」


《男色は嫌いじゃなかったか》

《…まぁいい、明後日の歌舞伎公演絶対に来るなよ》


「行かんて、はたしてホンマに俺がお前の仕事取るようなマネすると思た?」

「アホらしい」


《違う、お前は弾いても当たんないだろ》


「言われなくてもそないな鉄砲玉みたいなマネするわけないやろ」

「…そうか、まぁ俺は福江が死のうがどうってこともないがな」


《2代目だしな》


「俺はそもそもあの施設クソほど嫌いやねん」

「2度と見たくもないわ、あの景色…」

「あの気狂いショタコンの顔も然り」


《初代の死からもうこんなに経つのか》

《感慨深いな》

《俺らが2代目と初めて会ったのは盃交わす少し前くらいだったけな》


「あのカスゥ…」


《どうしてそこまで憎むんだ?》


「お前ならわかるやろが」

「葵」




飯田原(いいだはら)に位置するとある邸宅


「神一さま」


「ん?あぁ…ありがとう」


召使と思われる女性が豪華な50帖のリビングでソファに座り込む初老で金髪の男に茶を渡す。


「…」


「どういたしましたか?」


「いや…」


「あぁ、それでは…」


女は丁寧に男から茶を取り上げると、一口啜ってみせた。


「毒味をしてくれたのか」

『…錦城が私を殺すとは思えない』


「失礼ですが、錦城さまとは?」


「私の息子…飛鳥の出自は知っているな」

「あいつは幼い頃にマイアミで親を目の前で殺されて…なんらかのつてで不動産の仕事仲間だった福江輝が経営する児童養護施設に送られた」

「私が福江との昔のよしみでやつに会いに行った時に、飛鳥から未熟だが膨大なDAを感じたんだ」


「はい」


(この女本当に私の話を聞いてるのか…?)

「そして私は飛鳥を養子にした…」

「…烏丸、秋元、そして錦城もその施設出身の孤児でな」

「私はちょくちょく顔を出しては彼らの世話をしていたから、彼らは反社…白蓮に入った後も私と結託している」


「秋元陣さまについては存じております」


「私が昔の資金を糧に政治の世界に足を踏み入れた時、彼らが"広報"をしてくれたのだ」

「その分、今は彼らに資金を提供している」


「広報…ですか」


「…まぁ、ほとんどが恐喝などで入れさせた票だろう」

「今日本は未曾有の危機の中にある」

「一部の人間しか知らなかったシークレット、MPAの存在が明るみになったことで何が起きたと思う?」

「UKシンジケートという組織は孤児を調教して強制的に後天的なMPAを発現させ、発音一つでさまざまな異能を使える人間兵器を作り出している」

「飛鳥がまた暴れたらしい…私は極力関わらないようにしているが、やはりあいつには…貧困層ならではの根性?そういうものがDNAに染み付いているのだろうか…」


「はい」


(絶対に聞いてないだろ…)

(私はまだボケてないというのに…ボケてないよな?)


「反社と協力した以上、私は畳の上で死のうとは思わないよ」




山荘501号室


「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「先輩?!?!この歯ブラシ…」


「ん?あぁ、俺のだけど」


萩田(はぎた)は風呂上がりの上裸状態で鹿島瑠奈(かしまるな)の目の前にとぼけた顔で現れる。


「使用!!使用済み!!???」


「当たり前…あ、あぁそういうこと!?」


「キャァァァァァァァァ!!!」


絶叫が部屋に響く。


「す、すまん言い忘れてて、その、まぁ、どんまい!Don't mind!」

「そういう日もあるよ!」


「歯ブラシ一個なんて死活問題ですよおおお!!!」


「落ち着け!落ち着け!ごめん!マジで!」


突然瑠奈が落ち着く。


「まぁ、いいですよ…私は男と歯ブラシを共有したという肩書きができましたので…」


「お前本当に大丈夫か…??」


多田が騒ぎを聞きつけ洗面所へやってくる。

萩田との身長差は歴然で、異形の頭に次いでかなりの高身長が目立っていた。


「なんていうか、青春を取り戻したみたいな雰囲気だな」


相変わらずの無機質な声だった。

先の大騒ぎがまるで"なかった"かのように。


「お、俺っちはじゃあ少年たちの所に行くべや


ばつが悪そうに萩田は言い出してドアを無作法に開いて廊下を歩き出した。

当然のようにドアは開けっぱなしだった。



「君たちにこれから現状況の説明を開始する」


伊達メガネを着用した萩田が薄暗いコンクリートの部屋に入ってくる。

そこで椅子に座っていた、というよりも縛り付けられていたのは榊翔駒と天童飛鳥、そして緑川リョウであった。


「くそッ!離しやがれ!」


「な、なぁ、2人ともこれどうなってんだよ」


緑川が困惑しながら翔駒らの方を見やる。すると、新たに多田鶴瓶がスーツをビシッと決めて部屋に入って来た。


「あ!おい!多田サン!なんのつもりだよ!」


緑川が吠える。


「ゴメンネゴメンネ〜今は君たち、貴重な戦力だから」


続いて赤コートを背中に羽織った包帯グルグル巻きの男が入室する。


「俺は…公安一課の者だ…」


「あっ!お前…!!!」


天童と翔駒は心当たりがあるようだった。

それもそのはず、その包帯男はパーキングエリアで2人に襲いかかった男その人なのだ。


「この男は公安1課のアイビー……っwアイビーw」


「馬鹿にするな!コードネームも使わない危機管理能力皆無のリスクヘッジのリの字も知らない馬鹿集団め!」


包帯の男は激昂した。


「「おいこの野郎こっち向け!おい!」」


対する天童は包帯の男に対して椅子ごと身を乗り出して牽制する。


「えーと…くっそあの野郎重要な情報サラッと言うからめんどくせえんだよ…」


資料をペラペラとめくりながら独り言をこぼす。


「おい!貴様哉太さ…部長への暴言は看過できないぞ!」


「は?!俺別に一言も哉太とか言ってねえんだけど?え?ソレお前が哉太のことそう思ってるってことですよね???10秒以内にアンサー返さなかったらお前の負け」


萩田を見据える包帯男の顔面がみるみる紅潮する。


「うるさい!この仲良し集団め!」


「は?!仲良し集団じゃねえよ!節度守っとるわ!」


「フン、毎回お仲間が死ぬ度に毎晩お通夜状態のくせにな」


鼻を高くしてそう言い放つ。


「は?あ、じゃあ俺も言わせてもらうわ」

「お前ら1課は実力がピンキリだから入れ替わりが激しいよな?」

「コードネームのネタ切れがこれから楽しみ…


「いい加減にしてくださいよ!」


今まで黙っていた翔駒が口を開く。


「大人でしょ?早く本題に移ってください!ソレに2人とも不謹慎ですよ?!」


「…っ」

「ま、まぁ少年の言うことは正しい」


(まさかあの時の子供に諭されるとは…情けない)


包帯の男は申し訳なさそうな顔で翔駒たちを見つめる。


「俺は命令されたままに動いただけだ…」


「言い訳すんなダッセー!」

「大人の?公安とかいう職に就いてる奴が?言い訳??」


天童の言葉が男の怒りに再度火をつける。


「このクソガ…


「まぁまぁまぁ!今から解説を始めるよーん」


多田が間に入って話を本筋へと切り替えた。

無機質なコンクリートの壁に簡易な白いスクリーンがかけられ、プロジェクターの光が壁に反射して翔駒達の影を作り出していた。


「まず3人ともご存じの通り、MPAは限られた人間にのみ与えられる能力だ」

「ソレは先天的なものと後天的なものに分別され、有機物である人間が保持する場合その物の欲望などに呼応してソレにまつわる能力が顕現される」

「例えばスケベえっちなやつだったら手をいっぱい出すとか、四肢や臓器を出現させるとか洗脳するとか触手出すとか…あとはまぁ透明化するとかな」


突然の飛び火に包帯の男と天童が口を紡ぐ。


「お前俺がえっちだって言いてえのか!」


暴れる包帯の男を萩田が必死に静止する。


「そして、異能はアジア系、黄色人種に発現しやすいとされている。その次に北欧系の白人、黒人の順番だ。」

「しかし、異能の強力さは黒人が最も強力だと言われている。この情報は人種間の差別意識、ヘイトスピーチをより一層増させるものとされ極秘となっている」


ここで多田は咳払いをする。


「特に、ハーフやクォーターは異能の練度が増す。」

「現在FBIと公安4課が追っている爆弾魔"ジェイタン"もこの類だ」


(じぇいたんって誰だよ!)


(ジェイたんって誰だ…)


(ジェイタンって何??)


『おいリョウ知ってるか…?』


『流石の俺でも知らない…誰…?』


「そしてその中でも『DA』という異能数値が翔駒くんはずば抜けてるんだ」


「翔駒すげえじゃん!」


「異能数値????」


天童と緑川の2人は子供のようにはしゃぐ。


「体に纏うことで外傷を軽減することもできる」


「ブソーショクだ!」


「実に、今回DAを持たない一般の生徒の記憶が全て消された。犯人の意図は不明だ」


「パンピー乙!」


「森閑学園の生徒の協力もあり、犯人の居場所が割れた」

「個人異能事務所が次々と闇組織に襲撃されている中」

「君たちのような貴重な戦力はこれからも重宝される」

「高校生を利用するのはなんだが…協力してくれないかな?」


「チッ、しょうがねえからしてやr…


「するわけねぇだろ!」

「俺らのことラチっといて…俺の能力ショッピングカートだし」



「…まぁ、今はまだ考えておいてほしい。この研修が終わる頃にはもう一度聞き直すよ」


『いつ聞いても同じだっつーの』



「翔駒、あんまおセンチになんなよ」

「俺も意味わかんねーから」


『ったく協力して欲しいんだったらもっと詳しくプレゼンしろよな!』


(森閑学園の生徒の協力…?)

(誰だ…ソレ)

(それに何かまだ大事なものを忘れてる気がする)

(てかこいつらはそれも気にならなかったのか?)

(そうだ、それに優希も帰ってこない)

(俺よりもDAが少ないから少なからず洗脳の影響を受けてるってことか…?)


「萩田さん」


去り行く萩田に翔駒は声をかける。


「優希クン結局見つからなかったんですか…?」


「間宮優希…あー…」

(どうはぐらかそうかなぁ〜…)

「もっかいきく、どこで逸れた?」


「下り坂をそのまま降りた先のコンビニです」


「おけ、今ディグりにいく」


(使い方間違えてる…?)

(とはいえ心配だな…まだ)



「就寝時間をとうにすぎています!それではみなさん消灯しますよ」


小田が廊下を歩きながら大声で張り上げる。


「早めに睡眠してください!」



「ショートーーー!!」


他の部屋からは大声が聞こえる。

先程まで、燃え盛る本館で逃げ惑っていた生徒たちが記憶をなくしていつも通りの顔で振る舞っていた。


「優希クンは…」


「まだ帰ってこないな」


雅が重い腰を座布団の上に下ろしながら俯いた。


「やっぱり戦いに巻き込まれたんだ」


天童がやるせ無い表情でそう呟いた。


「今はただ、明日に備えて眠るしかねえよ」

「また今日みたいなことがあるかもしれないし」


「…そうだな、おい、天童!電気消してくれ」

「てかシーツ被せるの手伝えよ!」


「〜…」


「…




辛い。

一体いつまでここにいるのだろう。時計の長針がわずかに傾いた間に一体どれくらいの体感時間があった?

僕はもう何度も自問自答を繰り返している。お前は誰だ?お前は誰だ?お前は誰だ?

自分じゃない何かが明確な悪意と計画性を持って何かを遂行しようとしているのがわかるんだ。

暗い無機質な部屋に閉じ込められて、窓の外には次々と移り変わる風景と共に所々挟み込まれるんだ。

肉壁の赤みがかった部屋の中で佇む異形の男が僕を見ている。

僕を責める。辛いと口に出そうとしたら、すぐに擁護する。何度もそれを繰り返す

この部屋とその感覚が混同して何も考えられなくなる。あぁ、あぁ、僕は人を殺したのかな?

僕じゃない。やったとしても、僕じゃないんだ…

誰か助けて欲しい。眠い。眠ろう。マサイくん、クギイくん、宗吉くん、助けて。




「お目覚めかな、2人とも」

「といってもまだ寝てるんだけどね」


2人が目を覚ます。

暗闇の色彩が渦巻く場所。


「…?誰だお前」

「宗吉、お前は死んだはずだろ自分であの時」

「言ってたじゃないか」


「…?」


ここはどこ…?


「ところで」

「翔駒くん、優希くん。好きな異性は最近いるかな?」


「おい、ここはまた夢の中なのか?」


「俺が質問してるんだから答えてよ」


真顔で翔駒を睨みつけた。


「あ、あのさ、宗吉くん」

「なんでそんなこと聞くの…?」


「あの羽のついた女が好きなんだろ」


「!」


声色が徐々に別のものに変貌していく。


「ォれの正体ガ知りたいんだロ」


優希にとってそれは宗吉でも、彼の父でもない、邪悪の権化のようなものに感じられた。


「俺ハお前の中にィる」

【そしてもう1人】

「世界中ノどこかにィお前みたいなヤツがいる」


背景の黒が徐々に歪みを増し、3人を包み始めた。


「僕は今のところ優希くんに付き合って欲しいな」

「茜のこと昔から思ってた優希くんには報われて欲しいから」


「え?」




──

───


「起きてください」


「ハァッ!!!!!!」


目を覚ますと、目の前には小田がいた。

隣では天童が豪快ないびきをしながら布団をはいで寝ていた。

雅はソファに座ったまま寝ているようだ。時計の短針は1と2の狭間を指している。


「こんな夜中にすみません。」

「私についていてください。重要な話があります」

「天童くんもで…爆睡してるじゃないですか」


「あ、僕が起こすんで大丈夫です」

(悪い夢…なはずがない)


天童を揺さぶる。


『ん…夜這いか…?』

「ショーマ?」



コツコツと革靴の音が廊下に響く。


「公安部は森閑学園に異能所持者の生徒が複数人いると私たち教員に明かしました」

「そしてそれが君たちだということも確認済みです」

「今日は一つ君たちに興味深い話を持って来ました」


「おれねむすぎてなんもきこえないあ…」

(てかリョウは呼ばないんだな…まぁ他クラスだし)


あくびをしながら千鳥足で翔駒と共に小田へ着いていく。


「アインシュタインの一般相対性理論を知っていますか?」

「重力が強い場所ほど、時間の流れが遅くなるという…」

「これは体感の話ではなく、例えば実際に山頂にいる人間と谷底にいる人間がその地で一年を過ごしたら山頂にいる人間より谷底にいた人間の方が歳をとるということです」

「つまり、重力には時間すら歪ませる力があります」


「はーそうなんすねー」

(クソどうでもいい)


「…君たちはDAの詳しい説明は受けましたか」


「はい、受けました」


翔駒は律儀に答える。


「上向きの強力な重力を自身に加えて、DAで常に自身の体の形を保つ」


「…?」


2人は歩きながらも話の異変に気付き始めた。


「先生、それって…?」


「若造の秘訣ですよ」

「私は幕末の日本に産まれた人間です」


(はいはい…)

「…え?」


「えええええええええええええ!!????」


その衝撃的なカミングアウトは2人の度肝を抜き、就寝中の生徒たちの鼓膜を貫いた。


(嘘だろ…もう何にも驚くつもりはなかったのによぉ)

(担任が江戸時代出身はテンション上がるだろおおおおお!!!!!)

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