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Beelze  作者: 芥川りゅうくん
第一章 宿泊研修編
16/16

第十六話 VS快楽殺人鬼②

おくれました

オールバックの長身の影が下水道に伸びる。


「鮫島」


「うぃうぃ!」


初々しい声の眼帯の男が柱の奥からひょっこりと出てきた。


「ソイツの顔よく見いや、右の鼻の穴で呼吸しとるやないか」

「トドメはお前がさしや」


眼帯の男は長ドスを手渡される。


「わわっ?!」

「兄貴〜!危ない方持って渡してくださいよ!」


「要らん口きいとる場合ちゃうで」

「早う殺しや」


「はぁ〜〜〜…」

「1日10人って決めてるのになー」


「…」

「ちょ、ちょっと待っ」


水面に半身を出してやり過ごしていた男は動揺する間もなく容赦なしに喉元にドスが突き立てられた。


「あっ」


「よし、はい!兄貴」


眼帯の男はドスの刃の方を握り秋元陣に手渡した。

強く握っていたためか、刃は男の手に深く食い込み血が流れ出ている。


「ったく」

「お前らみたいなのは嫌いやないで」


「!」

「それって僕もですか?!」


期待したような顔で白いスーツの男が影から飛び出してきた。


「男色には興味あらへん」

『…錦城にできる嫌がらせはなんでもやったる』

「狡猾にいこうや」


「でも兄貴、錦城とかいうやつって昔の友達じゃなかったの?」


「あいつは俺と五部の盃を交わし合った兄弟分や」

「染田にいた頃からの付き合いやった」

「あいつが本家の幹部なってからはずっと小競り合いしとる」


「よくわかんないけど喧嘩してんだ!」


「タメ口俺にはって死なんで済むんはお前らだけやぞ」

「気ぃつけや」


「りょーかいです!」


「行くよ、ネオン」

「コイツ以外の売人も殺しに行かなきゃ」


眼帯の男と白いスーツの男は秋元に挨拶をしてその場を去っていった。


「さてと…ちぃと遊ぶか」



時を同じくして、森閑学園の宿泊研修先である馬場谷(ばばたに)山荘では生徒らと分身体による激しい攻防が繰り広げられていた。


《キャーーーーーーー!!!》


「!」

「すみません、私は向こうに行くので2人で少し耐えていてください!」

(異能所持者とはいえ生徒に現場を任せるとは…不甲斐ない)

(信じていますよ!)


小田は()()()()()悲鳴のする方へ真横に()()()いく。


「どうなってやがる…」

「いくら攻撃を喰らわせても一向に倒せる気配がないぞ」


「緑川!」

「さっきの…ひゃっきうんたらもっかいしてくれ!」


「言わないでくれよ…」


(緑川もMPA所持者…)

(多すぎる…公安やニュースの情報とかけ離れてやがる)

(とりま、『ステルス』発動中はDAを消費しちまう。今の俺はDAが枯渇してっから緑川に任せるしかねえな)


「『百鬼具用・権怒羅(ゴンドラ)』」

「どうすればいい?!」


宗吉が3人の方へ走り出す。

手には煉瓦の塊を持っていた。


「そいつの大きさとかどうにかできねえか?!」


「無理だ!ただのショッピングカートだよ!」

「ちくしょう、俺スゲー炎攻撃とかを期待してたのに…」


「緑川くん」

「君の異能は決して瑣末なものではありません。」

「自分を信じて探りを入れてみてください」


小田の幻影が緑川の肩に手を置いて優しく諭した。


(幻?!よりによって小田先生かよ、担任じゃねえのに…!!)

(待て、潜在意識をうんたらして異能の練度を高めるとか多田さんが言ってたな)

(つまり俺の潜在意識にいる小田先生を受け入れれば…)


「緑川くん。」

「君は…勝つんです」


(俺の異能…なんなんだ?!コイツは本当にただのショッピングカートなのかよ)

(あー!もういい、…なんか入れてみるか)


思いつきで緑川はそこら辺に落ちていた椅子の足と思われるものをカートにぶち込んでみた。

みるみる椅子の足から椅子本体が発光しながら形成されていく。


「うおっ?!」


完全に木製の椅子の姿を成したその瞬間、椅子が音も残さずに消滅した。


「どういうことだ…?!」


迫る宗吉との距離が目と鼻の先になったその瞬間、椅子が2人の間に形成される。


「うおっ!」

(カートに入れたものを自由に出し入れできるってわけか!)


「…」


(おかしい)

(さっきから宗吉が喋ってねえ…何か異常でもあんのか)



少し時を遡り、東廊下の方では雅が別の宗吉に襲われていた。

作業着を刃物で切り裂かれ、少量の血を流している。


「夢に出た男か!」

「何者だ」


「俺は宗吉の見た目をしてるが福江輝(ふくえあきら)だ。以後よろしく」

「君はー宗吉とは中学が違うのかな?」


(コイツの言うソウキチとコイツは別人なのか…?)


「茜らと同じ中学出身の宗吉ってやつだ」


雅の後ろにいたのは眼鏡をかけた他クラスの正井賢人(まさいけんと)


「君は…3組の」

「いや、公安の」


「地元、近いけど飯田原じゃないんだろ」

「でもコイツは確実に宗吉ではないぜ」


「どういうことだ…?」


昨日のこと。

俺はいつも通り優希とモールに出掛けていた。釘井も誘おうと思ったが、あいつは家でゲームするから無理だと。

俺らは俗にいうオタクグループ的な集団だ。特に劣等感を感じる必要もないが、高校に進学してから最近はよくウルサイ連中に絡まれることが多い。

優希は基本おっとりしていて何かと自分に負い目を感じることが多く、卑屈な性格だ。中学時代、茜や宗吉とよく遊んでいたが宗吉が別の高校に進学したのもあって最近はこの3人ではメッキリ話さない。

中2の時に知ったことだが、優希は肺に悪性腫瘍があるらしい。俺と茜らにしか話してくれなかった。

優希とは長い付き合いだが、とにかく私服がダサすぎる。横のボーダーのシャツにピチピチなスキニーは流石に駄目だろう。

そういうことで宿泊研修も間近なので服を探すということになった。

惜しくも俺たちは同部屋になることはできなかったが、哉太さんからよく話を聞く公安協力者の沢嶋雅がいるのなら大丈夫だろう。

俺は茜の兄である哉太さんとはおそらく中学から仕事してた同業者の雅よりも関わりが深い。この前の大野先生の件も耳が腐るほど聞いてきた。

そして、服選びを優希としている時にあの触手野郎と対面した。

血塗れな時点で異能犯罪者確定だ。俺は分身をデコイに使って俺を殺したと勘違いした所を紳士便所にて奇襲した。

その後もなんやかんやあって絶体絶命のピンチ。すると突然、逃げさせたはずの優希が戻ってきていた。

んで色々あって優希の様子が突然おかしくなった。

触手野郎を駐車場から蹴り飛ばしてそのまま殺しちまった。

別案件を完了した哉太さんが駆けつけて命辛々優希を制圧したが、致命傷を負ってしまったらしい。

包帯グルグル巻きの状態で優希の秘密を教えてくれたんだ。

優希の腫瘍には強力なMPAが宿っており、それがスーダンの14歳の少年のものと酷似しているということだ。

更に、その異能同士が共鳴してる…何言ってるかわかんねぇが、そんな感じで優希は超重要人物になってしまった。



生徒を襲っていた他の宗吉達が続々と集まってくる。


「やぁ」


「やぁ!」


「俺は宗吉」


「俺も宗吉!」


(分身体を出す以外にも複数能力を持ってやがんのか?)

(そしたら俺の上位互換になっちまうかもしんねえ…)

(『サインオーダー』を極力活かす)


「『サインオーダー』」


青白い光と共に道路標識柱が顕現する。


「正井君…だよな」

「俺が"刀"を取りに行くまでの間…頼む」


「…任せとけ」


億劫そうに返事をして、宗吉達と相対する。

雅は外の公安車のトランクにある刀を取りに、颯爽とその場から動き出した。


(俺が『サイドスクワッド』で生み出せる分身体はせいぜい6体までだ)

(7体目からは分身体の分身を作ることで顕現が可能だが、その分どんどん劣化しちまう)

(だから作るなら最低12体までだ…分身体から出した分身体に、もう一度分身体を出すことはDAの浪費になる)


「ひいいいいい!!」

「他校か?!何でこんなとこに!」


生徒に襲いかかる宗吉の目の前に、小柄な男が立ち塞がる。

生物の瓜谷業(うりたにごう)だ。


「僕の愛する生徒達になにをするつもりですか?」

「『バードサンクチュアリ』」


MPA所持者である業と生徒達の周囲にバリアが貼られていく。

一方、小田は館内周囲の宗吉達を各個撃破し、生徒の安全を確保しようと貢献していた。


(この騒動が鎮圧したら生徒達の記憶を…)

(…?)


小田は移動中頭を抱え、何かがおかしいことに気付く。


(もしかして私は先程から今まで…宗吉君の存在そのものを忘れていたのか?)

(公安に伝えられなかったのではなく…別要因で記憶操作されているということですか)



「俺の『迷える子羊(ストレイシープ)』による記憶干渉は強力なDAを持つ相手ほど効果が薄くなるんだ」


「知るかよ!」


標識が変化する間もなく別個体の宗吉から鋭い蹴りが飛んでくる。


「ぐあっ…」

(いくら何でも多すぎる…)


背中に直撃し、たじろぎながらも身構えるも、すぐに宗吉達に包囲されて暴行を受ける。


「ふぐっ!」


地面にうずくまり、完全にリンチ状態になるが突如現れた6体の正井が宗吉達に襲いかかった。

宗吉が勝る。


(ミスって無詠唱で発現させちまったか…)

「『サイドスクワッド』」

「質と量の両立だ!」


オリジナルの正井がそう叫ぶと、突如として正井に集っていた5体の宗吉達の首が飛んだ。

鮮血があたりを埋め尽くし、返り血として正井に降り注ぐ。


「『牙突•零式』」


残像すら残さない閃光の一突きが最後の1人の宗吉の首筋を貫いた。


「生者でないのなら容赦は必要ないな」


「刀、持って来れたのか」

「『サインオーダー』」


宗吉の体が少しずつ再生されていき、再び正井に襲いかかる。

標識が「徐行」へと切り替わり、標識柱を頭上で両手を使い回転させる。

再生を終えた宗吉が次々に襲いかかるが、正井は後退しながらも相手を牽制していく。


「棒の扱いに長けているな」


「下ネタか?」

「軽口叩いてる場合じゃねえだろ」


襲いかかる宗吉達の攻撃を刀と標識柱で捌きながら2人は会話を始めた。


「すまん」

「にしても、この襲撃の元火は少なくともその宗吉という男じゃないんだろ?」


「あぁ、おそらく裏に誰かいる」

「何かしらの異能犯罪者が雲原のMPAを利用しているのは確実だ」

(優希から聞く限り、宗吉が他校の宿泊研修を襲撃するような動機もなさそうだしよ)


正井の標識柱のコンクリート部分が宗吉の頭部にクリーンヒットした。


「にしてもいいフォームだな」

「…お前、野球とかやってたのか?」


まんざらでもなさそうに犬歯を剥き出しにしてニヤリと笑う。


「馬鹿野郎」

「生粋のインドアだよ」

「お前は?」


「クラブで野球をやってた」


「はーん、やっぱモテるのか?」

「雅君の方が()の扱いに長けてるんじゃねえの??」


「馬鹿な」


突然ぶち込まれた下ネタに困惑の表情を見せる。

その周囲では炎の中分身体同士の肉弾戦が繰り広げられており、混沌とした雰囲気が立ち込めていた。


「そういや雅君は部活どこだっけか」


「俺は入っていない。」


「よく動くインドア派なんだな」

「動きの秘訣とかはあるのか?」


お互いが公安協力者という似た境遇だからか、会話が自然に弾む。

今までは孤独に任務を引き受けていたので、同業者と話すのは雅と正井にとっても刺激的であった。


「任務以外にも家でたまにヨガはする」


「…哉太さんの安否についてわかるか?昨日の任務の時から連絡をしていない」


(あぁ、出張に行ったな)

「悪いけど具体的なことは雅君にも言えない」

「ただ、まぁ全身包帯グルグル巻きだぜ」


「?!」

(あの時の爆心地で何があった…?!)


「よそ見すんな!!」


正井がそう叫ぶと、雅は脇腹に違和感を感じる。

おそるおそる脇腹に目を向けると、そこにはガラス片が深く突き刺さっていた。


「君、油断しすぎだよ!」

「そこの陰キャくんとしょうもない無駄話してるからそうなるんだ」


『宗吉は多分そんなこと言わねえ…』

「このニセ野郎!」


正井の分身が飛びかかるも、他の宗吉達によって取り押さえられる。


(再発動で俺の近くに出現させる…!)

「!?」


DAを調節している間にオリジナルの正井の背中に錆びた金属が突き立てられた。


「よし!」

「これで生徒の異能所持者は2人排除した」

「あとはたっぷり他の生徒達を…」


「…るかよ」


「?」


「させるかよ!」


雅が刀を地面に突き立てて震える足で立ち上がる。

正井もそれに次いで歯軋りをしながら起き上がった。


「いいよ、もう一度刺すだけだから…


「『牙突•零式』」


動き出したと思った一瞬のうちに首に刃が通る。


「あっ!」


再生を完全に終えた他の宗吉達も数秒経ってから雅の動きに気付き、襲いかかった。


「『牙突• 狼奔』」


流れるような剣捌きで首、左胸、こめかみと急所を的確に貫いては横に引き裂き次々と獲物の命を刈り取っていく。


(すげえな…)

(しかし、倒してもすぐ再生するからキリがねえ。このままじゃ雅君と俺もジリ貧どころか致命傷の俺らが押されるのは明白だ)


「うむ…」

(傷が痛む)


「…ふふふふ」

「遅い、遅すぎるよ」

「そこのパーカー陰キャ君…破傷風でどうせ助からないよ?諦め

「ゔっ!!!」


目を潰され血の海に倒れ込んでいた宗吉が笑いながら遺恨の念とも取れる言葉を口にして、突如として絶命する。


「…死んだ?」


再生が止まって一件落着かと思われたその時、宗吉の死体らが集まって1人の宗吉が生成される。

見た目こそ今までの宗吉達と同じだが、DAの量が2人に比べても遜色がないほど強力だ。


「「『夢遊病者(ショッキングドール)』」」

「「何かあったのかな?本体との接続が切れちゃった」」

「「福江輝を今後ともよろしくねええええ」」


油をささずに放置された機械のようなぎこちない動きで2人との距離を詰める。


「次から次へと」


2人は再度獲物を構える。




一方、遠く離れた児童養護施設の中では2人の影がひしめき合っていた。


「終わりだ、福江輝ァァ!!!」

「俺の恩師に…大野先生に死んで詫びろ!!」


七瀬の怒りが籠った包丁が腹部に突き立てられる。


「ゔっ!!」


洋風のカーテンの隙間から光が差し込み、男の顔を照らす。


「!!」


それは公安の情報にあったような中年の風貌の男ではなかった。

若々しい高校生の顔。

少なくとも、本体の福江輝もとい雲原純平のものではなかった。


(どういうことだ?本体も顔を変えれるのか?)


「フフフフフフフフ…」

「俺はダミー」


「何?!どういうことだ?!」


「今更気付いてももう遅いよ!」

「声帯だけ低く変えてたの…気付かなかった?」


「ふざけるな!!本体を出すんだ!」


「分身体の操作権限は俺に与えられているんだけどね」

「今頃1年生の楽しい楽しい宿泊研修は台無しになっているはずだ」


「なぜ!!なぜそんなことをする!!」

「お前の異常な性癖が全てをもたらしたんだ!!」


「もっと言いなよ、僕は本体…オリジナルじゃないけど」

「言うのは無料だぜ?」


「なんでだぁ!!!!…っ」


両腕が宗吉の顔をした模倣品の顔の両側に叩きつけられた。


「なんでかって?」

「あるテロリスト集団に頼まれたんだ」


「…?」


男の体が徐々に消えていく。


「お前はよくやったよ」

「おかげで俺の計画は完全に破綻した、生徒を連れ去って…」


「待て!!!ふざけるな!!!!!!!!」

「どこにいようが必ず見つけ出す!!そして息の根を…」

「ぐっ、ぐうっ………大野先生…!!!」




「…?」

「消えた?」


雅達の目の前にいた宗吉の体が消えていく。




「行くぜカウチポテト!!」

「『ゴーストメリーゴーランド』!!」

「…あれ?」


ホールの方でも、天童らが相対していた宗吉が跡形もなく消え去っていた。

児童養護施設にいた分身体を操る個体の消滅に連動しているのだ。


「き、きえたな」


緑川は拍子抜けしたように呟く。


「あぁ…ピンピンしてたのに」



一方、外の暗闇に包まれた駐車場では優希の暴走を懸念していた公安の大人達が優希を取り囲んでいた。


「くっそー、俺も今すぐにでも加勢しに行きたいのにな」


「多田っち、わかってるよな」


「わかってるけどさーー」


歯がゆいような言い方で異形の男、多田は燃え盛る山荘を見つめながら話している。


「生徒どもは安全に移動できたのか…?」


カーディガンの中にネクタイをしまいこみ、七三分けを整えながら足を組んで優希の目の前に居座る。


「…うぅ」


瞼が微かに開き、瞳孔が震え出す。


「起きたか坊主」


「少年、お前のせいで今…」


「やめとけ萩田」

「メンタルケアが必要だ」


多田は無機質な声で萩田を咎める。


「そ、そうだ…」


【友達の死に報いるんだ】

【お前の友達は死んだ】

【お前の担任や多くの人間は彼の死を知らない】


「お、おい優希くん動いちゃあ…」


【お前が悪い】

【殺す必要がある】





「ねぇ、お前の親って生活保護貰ってるんだって?」


「え、あ、いや…」


「なんか言えよ」


休み時間の喧騒の中で不良生徒達はよってたかって優希を取り囲み始めた。


「やめとけ?お前マジやめとけ?笑」


「それ以上やったらマジで首吊るよコイツ」

臆病者(チキン)だから」


【お前の友達の死後残留していた僅かなDAが消滅した】

【あいつはいろんな人間の夢の中に出てきていたらしい】

【雲原一族の異能は記憶改ざんよりも何かを忘れさせる方がDAを使わなくて済むらしい】


なんでお前がそんなことを知ってるんだ


【これは友達の、宗吉の父のMPAで見せられた偽の記憶か?】

【これはあいつが死んだことで思い出された()()()()()()()()か?】


「なぁ、お前最近茜んこと見とるやろ」

「なんか言えや殺すぞコラ」


痛い。


「俺の女やねんな茜はなおい」


「セフレの間違いだろ笑」


「肩パンすっぞオラ」

「オラ返事しろや」


「耳聞こえてますかーー?」


「ホラどつくぞおら」


【俺と一緒に胎児に戻ろう】

【こんなやつら2人で皆殺しにしよう】


窓側に緑川リョウや天童飛鳥(てんどうあすか)山岡響(やまおかひびき)が屯している。

冷たい視線が俺を貫いた。


「なぁ、何これ?」

「あそびきんぐ!!あちょびきんぐ!」

「おもちろいでちゅねえ!紙で遊んでおもちろいでちゅねえ!」


やめろ

僕のものを返せ


「やめろよ、おい抵抗すんな」


「げっ、コイツ腕に傷あんじゃん」

「リスカとか女かよ…」


ふーっ、ふーっ


【その調子だ】

【いいよ、優希】


『やめろやめろやめろやめろやめろやめろ…』


やめろ。

やめろやめろやめろやめろ


…あれ?

宗吉くん?




「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「うっうわ、あっあっあぁーーあーーぁあぁーーー」


「優希少年?!」


「また暴走か!」


優希は抑え込まれる。

先程まで被っていた蠅を模した仮面が跡形もなく消えていた。


「ぃヤダァやだ思い出したくないのにぃ僕…僕」


「「落ち着くんだ!!!」」

「意識が混濁してる…」




「宗吉くん」


「ここ汚いけど、キッチンで待ってて」

「すぐ戻ってくるよ」


そう言って宗吉くんはその場を後にしていった。


「…」


網戸の外側には羽虫が大量に張り付き、潰れた空き缶が部屋中に散乱している。

なんだろう、これ。得体が知らないものがキッチンに詰まってる。

ちょっと周りをもう少し見てみようかな。


宗吉くんは日常的に父から暴力を受けているらしく、母親もDVの末離婚していて顔すら覚えてないという。

壮絶な家庭環境だ。でも彼は、クラスメートの前ではミステリアスな雰囲気を醸し出しながらも普通に振る舞っている。

僕とは違うんだ。


「お待たせ」


オレンジ色の箱…?


「ミルタザピンっていうんだ」

「よし…」


え、何をしてるの…?

宗吉くんはあぐらをかきながら丸机の卓上に大量の薬物?をばら撒き出した。

おもむろに手を伸ばし、掴んだ限りの薬物を頬張る。


「え、えっ、それって…」


「こうでもしないとやってられなくてさ」


眉を外側に傾かせながら笑ってみせた。


「だ、ダメだよ…」

『そんなの…』


「?」

「あ、折角家来たんだしお茶とか出さないと」

「ごめんね遅れて」


「え、あいやいいよ!気なんて使わなくて」


【偽モノかな?】


「「お前は黙っとけ!!!」」


「!?」


「…あっ、」

「ごっごめん、それよりそれってオーバードーズってやつだよね」


「うん」

「別の話しない?」


涙袋が心なしかいつもより膨れている気がする。


「あっ、う、うん」


「この時間帯は親父いつもパチンコ打ってんだ」

「調子いい時は全然帰ってこない」


「…」


「茜とは、最近話してる?」


「っ」


どうしよう、突然そんな話降ってくるなんて…


「あっいや、一応…たまに、ね」

「ほら、茜さんって宗吉くんみたいに優しいじゃん…」


「僕は優しくなんてないよ」


「えっ?」


「僕は最近距離置いてるかな」


「え…ごめん、ど、どうして?」


「コミニュティを破壊するのはいつも女だろ」


突然異質な雰囲気があたりに立ち込める。

まるで夢の中に現実の人間が入り込んできたような。


「…」

「君…、宗吉くんじゃないよな」


「ふへへへへ」

「勘違いするなよ、お前が見た夢は全部本物の記憶だ」

「あと俺の息子がお世話になったな?」


声色が段々と邪悪なモノへと変容していくのがわかる。

優希には直感的にそれが宗吉の父親、純平のものだと感じた。


「お前はどうでもいい」

「俺は()()()()に用がある」


(なんの話を…しているんだ)


「いるんだろ!!!!!!!!出てこいよ!!」

「ふへへへへへへ」


【耳を貸すなユウキ】

【大丈夫だから…】


「ベルゼブブ!!約束が違うぞ!!!!!」

『畜生、もうDAが…』


──

───


「まだうなされているのか…」


「ちゃんと見ておけよ」

「俺っちは一旦館内に行く」


萩田はその場を多田とけたたましい音を発するパトカーから降りてきた数名の警察官に現場を任せて去っていった。

山奥に潜む山荘は真っ赤に染まり姿を変えて静寂を照らし続けていた。




「死者、行方不明者はゼロ人です」


「あ、あの」

「出席番号24番の生徒が建物の倒壊によって腹部に甚大な傷を負ったものの突然傷が完治して…」


「その現象はウチにもあった」


小柄な男が小さく手を挙げた。


「業先生の所でも…」


野崎が右頬に手を当てて怪訝な顔でテーブルを見つめる。

真っ白でどこか不気味な照明の光が降り注ぐ中、突然ドアノブが回転しスタッフルームの扉が開かれた。


「オホン」

「改めまして公安2課の萩田悠人と申します」

「さて、課長クラスの中で現在アグレッシブなのは私だけですので今回は私が取り仕切らせていただきます」

「質問等は全て承りますのでよろしくお願いします」


名札を首にかけてスーツでビシッと決めた萩田が現れた。


「僕からいいでしょうか」


ジャージ姿の体育科の山本(けん)が挙手をする。

首を締められた痣がくっきりと残っていた。


「どうぞ、山本さん」


「僕は一度…死んだのですが」


「?!」


「!!」


衝撃の言葉を口にする。教職員一同はざわつき始めた。

だがその中でも萩田は表情一つ変えず、その質問が来ることを見据えていたような目付きで山本を見る。


「死亡した直後に意識がまたハッキリし始めて…」


「なぜ死んだとわかったのです?」


「なんでしょう、こういうのもなんですがすごい気持ちが良かったんです」

「おそらく死亡時に大量の快楽物質が分泌されたのかと」


「MPA、先天的かつ後天的な自己願望及び強いトラウマをベースとした個人に基づく超常現象」

「に、ついてはもう説明を受けていると存じています」

「個人情報や異能の具体的な効果範囲は開示できませんが我々公安の協力者に、この山荘周辺を指定した領域内での死を自身の臓器等を代償に引き受けるといういわば制約や縛りとも言えるMPAの応用技術を自らに施した人間がいます」

「今回の山本さんや生徒の蘇生に関しましてはそれが原因であると見られます」


「あの、2度にわたる襲撃の意味はなんですか?そもそも彼らは…」


「襲撃者はおそらく雲原純平、偽名を福江輝」

「現在我々公安、特に一課が対応中のテロリスト集団通称『睡蓮』に子供達の身柄を引き渡すことが目的であると見られます」


「現在は故人となってしまっていますが、父である純平のMPAである記憶操作や分身体の出現等を色濃く受け継いだ桜ヶ丘高校の雲原宗吉くんが我々の協力者となり、異能同士の情報戦となりました」


「故人…??」


小田が反応する。


「申し訳ありません、情報伝達不足です」

「それに関しては私から詳しい情報をお伝えできませんのでご了承ください」


「あの、もう1人の方は…?」


野崎が口を挟む。


「…」

「そちらも雲原純平のMPAによるものだと思われます」


萩田は咄嗟に嘘をつく。


(優希少年は一応ボケ哉太の妹の友達だ…)

(あいつも暴走の件は黙ってて欲しいだろう)

(全く、俺ってば気さく)


「雲原純平の異能の情報等は明らかにはなっていましたが、居処を特定するのが困難でした」

「遠隔からの記憶操作が祟ったという見解です」

「現在我々は宗吉くんの異能を使えない劣勢の状況下にありますが、突如分身体が消えたことから雲原純平…ここからは輝としますが、輝本体にも何かが起きたのでしょう」

「もしくは自身の命を提供した公安協力者のように何らかの縛りを設けているかもしれません」


「あの」


瓜谷業が手を挙げる。


「はい」

「その協力者って誰なんですか?」

「あと立て続けになりますが大野天助(おおのてんすけ)先生の…





「ふぐっ…」

(既に数名の教員か生徒が命を落としている…)

(柱が私だけで足りるかどうか)


鵺子(ぬえこ)さん??》


《鵺子さんいいから早く縛りを俺に付与…》


「い、いいんだ」

「私なりの贖罪なんだ…」


《それ以上は死ぬぞ》


「子供をコマのように…いいように利用して、挙句死なせてしまってはどの面下げて生きていけばいいのかわからないわ」


《あんたは茜達のことを思ってやったんだろう》

《すまない、俺が現地にいれば…》


「…」

「ここの港は景色がいいね、哉太くん」


《鵺子》

《…》


程なくして、運転席にて鵺子は物言わぬ骸と化した。




「なんなんだ…!!また俺は何か…忘れてる!!」


翔駒(しょうま)は頭を引っ掻き回し、火が鎮火しつつあるホールの隅で暴れ回っていた。


「俺は何もできない…」

「ゔっ」

「何か…大事なことを思い出せない」


「榊少年」


スタッフルームから出てきた萩田が翔駒に近付く。


「本当に申し訳なかった」

「我々の思惑にきみらを巻き込んでしまって」


そう言って深々と頭を下げる。

先日の印象とはまるで違う、誠実な雰囲気だ。


「…」

「MPA自体は遥か昔から存在していた」

「それが明るみに出た今、異能犯罪は急増し全国にて暴力団組織や様々な犯罪者達が台頭している」

「もはや我々じゃ捌ききれない」


「何が…言いたいんですか」


アーマーをを下半身にのみ纏った状態で、やつれたようなゲッソリした顔で翔駒がぶっきらぼうに聞く。


「国は資格さえあれば民間人にもそういった連中を取り締まる権利を与える方針を示している」

「私…俺から直々に君に資格を与えるよ」

「力を貸してくれ」

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