表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Beelze  作者: 芥川りゅうくん
第一章 宿泊研修編
14/16

第十四話 ARACHNE

遅れました

9回裏、2アウト満塁、スコアは3-3。

飯田原ジャガースの対戦相手チームは、山吹レインボーソックス。

稀代の強豪リトルシニアチームだ。


土埃が舞うグラウンドに照明の光が鋭く降り注いでいる。


「頼むぞ、日野」


6番、ショートストップの沢嶋雅(さわしまみやび)は静かに呟いた。


額にかいた汗を拭い、マウンド上のエースである赤髪の男、日野理人(ひのまさと)であった。

対して、打席に立つのは4番の、最強スラッガーと謳われる巨大の熊谷(くまがい)


(一打で終わらせてやンよ)


「…」


まじまじと熊谷の背中を見つめていた。


初球、リリースを早めて日野が放った内角高めのストレートが熊谷を襲う。


(インコース!!)

(いい、振っちまえ!)

《カキーン!》


打球はレフト方向に飛んだと思われた。

しかし、監督はそれが左中間深くに直進するライナーであることに気付いた。


「ショート!」


ベンチから監督が声を張り上げて大声を出した。


「ッ!」


雅の体は既に動き出していた。体の軸を横に倒し、左手で咄嗟に体を支えながら、グローブを突き出す。

綺麗にグローブの中に打球が入り込む。


「一塁」


吐き捨てるように呟いて、片膝をつき思いっきり右手を振りかぶった。

低空を切り裂いて送球が一塁の速水のグローブに吸い込まれていった。


「アウト!」


「いよっし…」


ふと、雅はマウンドの方に視線を向けた。

意味深な笑みを浮かべた地雷系の男が、拍手をこちらに送っているのがわかる。


(は?)




「…は?」


目を覚ますと、雅は燃え盛る炎の中で横たわっていた。




「誰も近付くな!!!」

「『ソリすべり』」


急加速した萩田(はぎた)の体が蠅男に直撃する。

そのまま壁に押し付けて、身動きが取れないようにばっちりホールドした。


「うぁっ、あああああ!!!」


「活きがいいなぁあ」


突如、脊椎がパキポキと音を鳴らして変形する。

低身長だった蠅男の体がみるみるうちに変貌を遂げていく。


「化け物め…!」

萩田はついに胸ポケットからマチェットナイフを取り出した。


「おい!殺すのかい?」


多田鶴瓶(ただつるべ)は無機質だが焦りの混じった声色で萩田に声をかける。


「殺す気でやらないとダメだ!」

「あの…なんだっけ?ゔっ」

「アラクネはまだ届かないのか?!」


「ユウキはもういないよ」

「お前らが虐めようとするから俺がこうやって守ってあげてるんだよ?」

「ケヒャヒャヒャヒャ」


蠅男は掠れた笑い声で壁に押さえつけられながらも見下すように嘲笑する。


「黙れ!」


「口を聞くなよ萩田!耳を貸すな!拘束に集中しろ!」


「ちょいちょいキツなってきた…」

「もう無理ぽッ…」


その時。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「??」


「榊少年か!!」


謎の水色の機械に身を包んだ翔駒(しょうま)が荒ぶりながら壁にぶつかり、ホールに姿を現した。


「いってえええ!!」


部屋中をジェットで駆動し、壁や天井に勢いよくぶつかりまくる。


「つ、遂に来たか…!」

「少年!使い心地はどうだー?!」


「ごべんなさいいまはばせません!」


「萩田、無駄口叩かずに拘束に集中しろよん」


「わかってますとも…」


「『完全変態☆パーフェクトカーラー』」

緑のカーリングが生成される。


「ウッシャア!摩擦は消したぞ多田!!」


「了解」

(DAを上乗せする!)


異形の男、多田がカーリングに何かを纏わせて、乱暴に投げた。

カーリングは部屋を縦横無尽に移動したあと、示し合わせたように萩田がホールドし壁に押さえつけていた蠅男をカーリングの向かってくる方に向けた。


《ガシャッ》


だがその時、壁紙が破れ萩田の体がわずかに壁に埋まる。


「うわぁあ!」

(いかん、学生の前で情けない声を晒してしまった!)



「小田先生!いらっしゃいますか?!」


燃え盛る廊下を早歩きで歩くのは現代国語を担当する野崎夏帆(のざきかほ)


「キャッ!!」


倒壊した柱が野崎を襲ったその瞬間


「『絶対秩序(ユニ・グラヴィティ)』」


柱がどういうわけか壁に向かって()()()いく。

今まで隠されていた小田のMPAである。


「…っと」

「悪いですが、生徒と他の教職員の皆さんには少ししゃがんでてもらいますよ」


紳士トイレから屈んでいた体を起こして小田が出てきた。

右に偏っていた眼鏡を人差し指で直し、尻をついて床に倒れ込む野崎に目線を移した。


「…さて、」

「どうやら何者かが徒党を組んで計画的にこの屋敷を襲撃しているようですね」


小田が右手に掴んでいたのは、気絶している赤と黒の服を纏った男の髪の毛であった。


(それに、先程から脳内に直接DAが送り込まれるような妙な感覚があります)

(生徒達にはなるべく私のMPAの事は気付かれないように事を収めたいのですが…)


「小田先生、生徒が!」


倒れ込んでいた野崎が叫んだ。


「あ、あわわ…どういうこと」


部屋から出てきたパジャマ姿の女子生徒達が小田の姿を目撃した。


(そうは問屋が卸さないみたいですね)

(野崎さんは私と同じく公安の協力者…)

(生徒の記憶は後からどうにでもなるとして、七瀬くんを止められる人が公安に居るといいのですが)


「七瀬〜」

「お前今日どこ行ってたんだよ」


褐色肌で中性的外見の3年生、陽炎累(かげろうるい)がグラウンドから駆け寄ってくる。


「部長しっかりしてください!」


2年生の新渡戸海斗(にとべかいと)は、累の後ろに着いてきて2人の会話に入り込んだ。


「すまん!面目ないな…」


少し憂いた顔で応答する。


「それで、新入生はどうでしたか?」


「うむ…噂通りジャンキーな連中だ!」


「今頃馬場谷(ばばたに)山荘で青春してると考えると…」

「ちょっと羨ましいですね」


「何を〜」

「オメエも一年坊のクセに俯瞰したこと抜かしてんじゃねえぞ!」

海斗は累にこめかみをぐりぐりされる。


「いって!!ちょ、せんぱい…」


「ハッハッハ!精進あるのみだ!」

「おっと、自分は一旦部室に忘れ物をしたので戻らせてもらう」



《がチャリ》


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す。」

「福江輝福江輝福江輝福江輝ァ…」


瞳孔をこれでもかと広げて一枚の写真を睨みつける。


(探偵から貰ったこの写真…ここに写ってる男が…)

(大野先生をォ…)





「うおおおお!!!」

《『ウイング展開、スラスター活動開始』》


《『哉太さんがあの時言ってた…』》

《『意識の流れを統括するんだ…』》


《『ヘリウム添加、プラズマ安定80%』》

《『安全圏に到達しました》』


「うおおおっ!!!!」


《『ボロン安定化実施中』》

《『主砲発射準備完了』》


右腕の腕に巻き付いた円柱型の機械が展開され、回転しながら光を蓄え始める。


「なんかヤバい!振動が…ゔゔゔゔ」

「うええええええええ?!?!」


《バゴオオオオオオン!!!!》




「優希くん、君の腫瘍…本当に治らないのかな」


土手に座り込み、川にキラキラと反射する太陽の光を2人で眺めている。


「そんな悲観することじゃないよ」

「…心配しないで」


「でも、僕は心配だな」

「まだ中学生だってのにね、僕たち」


「宗吉くん優しいよね…僕なんかに構ってくれて」


「別に」


膝を足に乗せて顎を手の上に置き、はしゃぐ同級生達を横目に笑みを浮かべた。


『緑川ー!!』


『ヒビキ待てよ!パス!』


「どこに行っても、不思議ちゃん扱いだよ」

「家にも帰りたくない。あんな場所…」


作り笑いのような宗吉の顔に、徐々に嫌悪と憎悪が顕れる。


「ごめん…」


「いや、なんでもない。今の忘れて欲しい」


「…茜さんもその点優しいと思う」

「僕…僕の体に何かあったら、真っ先に茜さんの記憶を消してくれ」


「?」

「あぁ…」


「なんというかさ、」

「今にも宗吉、お前を殺してしまいそうだ。」




「ハッ!!!!!!!!」

「ソウちゃん!!ソウちゃん!!!」


「目覚めたか??」


大理石の瓦礫の中で、蠅男はなお萩田に床に押し付けられていた。

押し付ける力が弱まったその時。


「拘束を続けろ!!萩田!」


多田が釘を打つように叫んだ。


「視えない…みえないっ」

「何コレ…」


蠅男の様子が一変した。突如普通の人間のように振る舞い始める。


(今の榊少年の一撃で目が覚めたか…??)


《『全システム稼働停止』》


「ふ、ふぅ…」


翔駒は機械から脱出し、腰を下ろした。


「嫌な夢だった…」

「ここは…?」


蠅男は静かに呟く。


(この声…?)


翔駒は蠅男の声色に聴き覚えがあった。


「天童…そうだ、天童!!」


「俺ならここだ」


「うおっ!!お、お前何してたんだ?!」


「地下がある」


「え?」


「能力発動時に床に抜けたんだ」

「そしたら、地下室を発見しちまった」


「地下室…?」


「あぁ、とんでもねえ量の…コレがあった」


天童はコードが絡まった見るからにヤバそうな四角柱の束を取り出した。


「なんだよそれ」


「…?」

「おい、少年達。手に持っているものを差し出しなさい」


「あ、うす…」


言われるがまま手に持っていたものを萩田に見せる。


「…」

「これ、どっからどう見ても爆弾だな」


「…やっぱ爆弾すか?」


「やっぱ爆弾すかじゃねえよ!!これどこにあったクソガキども」


「地下です地下!」


「地下ぁ??」

(まさかとは思うが…いやありえないな)

(例の()()()が日本のこんな場所にわざわざ…)


萩田が何か考え事を始めたようだ。


「他の教職員の皆さんは消化活動にあたってください」

「責任者には私から後程話をします」

小田が野崎を連れてホールにやってくる。

(突如敷地内を彷徨いていた襲撃者達が灰になって消滅した…)

(あの仮面の男の気絶に連動したのでしょうか…つまりこれはMPAの一種)


「あっ?!小田先生!」

「あの男何者なんですか?!これって…」


(さかき)くん、落ち着きなさい」


「あー小田先生ですか?」

「先程は落盤の件でお呼び出ししてすみません」


(二課の方々か…優希君の暴走が終わった今、更なる危機に備えて一度即時帰校しなくては)

「いえいえ…点呼をしましたが、生徒が無事で良かったです」


小田が微笑んだ。


「はい。それじゃ…おい、多田」

「生徒をこれより西館に移らせる」


「??!」

「今すぐ帰宅に決まっている!」


小田が血相を変えて萩田に詰め寄る。


「あなた方に学校の方針を委ねるとは一度も言っていませんよ!」


「みんな助かったんだろ?」

「結果オーライだしいいんじゃない?」


多田は両腕を首の後ろで組んで適当に吐き捨てた。


「フッ!アブドミナルアンドサイ!!」


「おーいい筋肉だな多田」


小田は冷静さを欠いていた事を自戒し、眼鏡の位置を直して再度喋り出した。


「生徒が死んだかもしれないんですよ、記憶はどうとでもなるが、死ねば取り返しはつきません」

「しかも、あなた方は当事者じゃないですか…」

「「ふざけて…


「まぁまぁ、僕の決定じゃないんで」


萩田がシガレットを口に咥えながらドアの方へ向かい始める。


「シスコン兄バカに言ってくださいね」

「…よし、多田はこの男もとい"間宮優希"を外に運べ」

「俺は外にいる鹿島達が無事かを見てくるべ。頼んだ」


「なっ…」


(優希少年の暴走が終わった時点でも小田教職員の言うとおり即時帰校が普通だが…)

(今はそれに加えて爆弾という別の危機がある。とりあえずこれを哉太の野郎に報告して、指示を仰ぐか)

(もし実際にこの爆弾が何者かによって仕掛けられた者だとして、その仕掛け主があの"ジェイ•タン"だったら最悪だ…)

萩田は右手に持っているC4に視線を移した。



「あっ、先輩!!」


「おう、無事だったか?」


「こっちは大丈夫です…木村ちゃん、歩ける?」


膝から出血している木村優奈を介抱するのは、鹿島瑠奈。


「先ほどまで包囲されてたんですけど、突然みんな消えて…」


「…」


「萩田さん?」




「1組、全員西館に移りました!!」

『って、俺が一番乗りだから他の職員が誰もいないのは当たり前だな』


体育科の山本(けん)が引率して、生徒達を一際大きな館に連れ出した。


「道中暗かったね」


「何があったん??」

「てか、ミカどこいったの?」


「もう何が何だかわかんないよ…!」



《ピーーーーーーッ!!!》

「みなさん!落ち着いてください」


首に巻いた笛を瞬時に吹いて、生徒達を牽制する。


「もう、いいですか?」


山本の隣からヌルッと制服を着た男が出てきた。

その正体は雲原宗吉。ミステリアスに目を細めながら笑みを浮かべている。


『あんな生徒いた…?』


『何組だろ…』


『めちゃくちゃメロくね??』

『こっち見て笑った!!!』


「あぁ、生徒らの記憶抹消の件、頼みます」

「「ぐっ?!?!」」


突如宗吉は山本の首根っこを掴んで、強く握り始める。


「クッ……かぁ」


「俺もびっくりしちゃったなぁ〜」

「まさか異能持ちが教職員の中にもいるなんて」


上目遣いで山本の顔を睨みつける。

腕の血管が浮き出て、山本が激しくもがき始めた。


「お、!お前……!!」


程なくして力なく床に倒れ込んだ。


「「キャーーーーーーーーーー!!!!」」


「おっと」

「『迷える子羊(ストレイシープ)』」


体育座りで整列していた生徒達が次々に眠り始める。


「ふふふ」

「なぁんだ…」

「…どれも、美味しそうに実ってるじゃないか」




「おい!山岡!!」


「んだよ…しつけえぞぉ?」


「本当に燃えてたんだよ!!」

「俺はこの目で見たし、しかもみんなも…」


「あーすごーい何それ!!」

「おみそれしましたー未来視を会得したんですねーすげー」


「馬鹿野郎!!」

「お前もういいわ!俺は天童のとこに…」


そう言い残して後ろを振り返ると、ピアスまみれの見覚えのある色男がいた。


「…?」

「お前…宗吉か?」


「あ、やっとかかった?俺の術…」

「そうだよ、俺が雲原宗吉。久しぶり!」

「優希君元気してた?茜は?」


「…元気してるよ」

「てか、なんでお前がここに」


「いやさぁ、俺もみんなに会いたくなっちゃってさぁ」

「俺結構楽しんでるよ、コッチの学校でも」


「はぁ?」

「お前は高校に行かないって…」


「え、そんなこと言ったっけ?」



「ハッハッハ」

「お前、ソウちゃんじゃねえだろ」


「??」


「宗吉は一人称は俺じゃねえし、白玉のこと呼び捨てにもしねえぞ」

「お前…」


「あー、なるへそ!」

「翔駒君らと同じで、道理であんま効かないわけだ」

「俺はさ、お前らみたいな年頃の連中が…


徐々に声質が野太く、邪悪なものに変化していく。


一番好きなんだよ」」


「誰だ…お前」


緑川から未知数のDAが放出され始めた。


(数日前に変な人から教わった"MPA"の存在…今なら使いこなせそうかも?)


「ん、俺??」

「福江輝。フクちゃんって呼んでね」


「宗吉とどんな関係だ?!」


「えーー」

「父親?」


緑川の顔が青ざめていく。


《僕…言いづらいんだけど、虐待?受けててさ》


「お前が…DV親父かよ」


「ウチの息子がお世話になったね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ