修正 6
出発の日は、あっけなかった。
荷物は少ない。
必要なものは、すでに決められていた。
何を持っていくか、ではない。
何を持たされるか、だ。
村の外れに、馬車が来ていた。
学園へ向かうためのものだと、誰もが分かっている。
説明はない。
質問も受け付けられない。
「名前を呼ばれた者から、乗れ」
それだけだった。
呼ばれ、返事をして、前に出る。
その繰り返しで、人は並び替えられていく。
俺の番も来た。
名前を呼ばれた。
返事をして、馬車に乗った。
それ以上でも、それ以下でもない。
揺れ始めた馬車の中で、村が遠ざかる。
見慣れた景色が、小さくなっていく。
誰かが泣いていた。
誰かが笑っていた。
俺は、どちらでもなかった。
ミレイアは、外を見ていた。
「ねえ」
急に振り向く。
「学園って、すごいところなんでしょ」
答えを期待しているというより、
言葉を外に出しただけの声だった。
「そうらしいな」
「楽しみ?」
少し間があった。
「分からない」
それは本当だった。
馬車は止まらない。
途中で降ろされることもない。
道中、簡単な説明だけがあった。
規則。
区分。
役割。
どれも、覚える前提で語られる。
理解するかどうかは、考慮されていない。
「質問は?」
誰も手を挙げなかった。
挙げる理由が、見つからなかった。
夕方、建物が見えてきた。
高い壁と、整えられた構造。
学園だった。
門の前で、再び名前を呼ばれる。
順に降ろされ、並ばされる。
「ここから先は、学園の管理下に入る」
そう告げられた。
意味は、説明されない。
だが、境界線だけは明確だった。
足を踏み出す。
それで、終わりだ。
戻るという選択肢は、
最初から置かれていない。
夜、与えられた部屋で、ノートを開いた。
白いページに、今日の出来事を書く。
移動。
説明。
到着。
黒いページは、見なかった。
閉じる前に、ふと思う。
ここに来た理由は、
まだ、言葉にならない。
ただ一つ確かなのは、
もう、元の場所には戻らないということだけだ。
灯りを消す。
外は静かだった。
学園での生活が、始まる。




