第37話 選ぶということ
ユイの言葉が、静かに残っていた。
「世界の真実を、知りに行かない?」
すぐには返せなかった。
俺の中で、反射的に答えが逃げ場を探す。
「……僕は」
声に出してみて、続きが出てこない。
理由も、言葉も、まだ形にならなかった。
ユイは急かさなかった。
少しだけ視線を落とし、淡々と続ける。
「私はね、真実を調べて旅をしていたのよ。
血族のこと、世界のことを……ね」
それだけ。
説明も、正当化もなかった。
なのに、胸の奥で何かが動いた。
学園の廊下。
中庭のざわめき。
誰も説明してくれなかった出来事。
断片が、勝手につながろうとする。
まだ答えにはならないまま。
「……」
そのとき、横から声が落ちてきた。
「難しい顔してるね」
はっとして振り向く。
ミレイアが、いつの間にか近くに立っていた。
気づかなかった。
それだけ、考え込んでいたらしい。
俺は一度、視線を落とす。
前世でのことが、よぎった。
踏み込めなかった。
分かろうとしなかった。
——だから、あのままだった。
考えがまとまり切る前に、
俺は軽く、頬を叩いた。
一度だけ。
音も立たないくらいの強さで。
顔を上げる。
「……うん。行くよ」
言葉は短かった。
それで、十分だった。
ユイは一瞬だけ目を細め、
小さく息を吐いた。
「……そう言ってくれると、思ってた」
口元が、ほんのわずかに緩む。
「よし!じゃあ準備しなきゃね!」
ミレイアはそう言って、もう踵を返していた。
ユイは本を片付け始める。
何事もなかったように、淡々と。
俺は、ふと外を見る。
いつの間にか、外は薄暗くなっていた。
学園の景色は、変わっていない。
それでも——もう、戻れる場所には見えなかった。
この世界は、どこか狂っている。
でも──
変われない僕の方が、
おかしいのかもしれない。
人も、正しさも、
まだ輪郭を持たない時間──
黄昏時のように、
重く、深く、僕を包んでいた。
第1章 -学園崩壊編 完-




