第30話 戻れない場所
第30話(改稿版)
すぐには答えられなかった。
怖かった。
学園の外。
守られない場所。
説明されない世界。
これまで、ここでは
分からないことがあっても、
考えなくて済んでいた。
「……俺は」
声に出してみて、続きが詰まる。
ユイは、急かさなかった。
視線を外し、淡々と口を開く。
「私はね」
「真実を調べて、旅をしてた」
血族。
世界。
侵攻。
言葉は少ない。
けれど、それで十分だった。
学園で起きた出来事が、
静かに、一本の線につながっていく。
誰も説明しなかった。
誰も守らなかった。
ただ、処理しただけだった。
「……難しい顔してるね」
横から、ミレイアの声。
気づかないほど、考え込んでいたらしい。
俺は、一度だけ視線を落とす。
前世の記憶がよぎる。
分かろうとしなかった。
踏み込まなかった。
だから、何も変えられなかった。
俺は、軽く頬を叩いた。
逃げるためじゃない。
立ち止まらないために。
顔を上げる。
「……行く」
声は、思ったより落ち着いていた。
「怖いけど」
「逃げたくない」
ユイは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
「……そう」
ミレイアが、いつもの調子で笑う。
「じゃあ決まりね!」
ユイは本を片付け始める。
何事もなかったように、淡々と。
俺は、ふと外を見る。
いつの間にか、外は薄暗くなっていた。
学園の景色は、変わっていない。
それでも――
もう、戻れる場所には見えなかった。
この世界は、
どこか歪んでいるのかもしれない。
でも──
変われない俺の方が、
おかしいのかもしれない。
人も、正しさも、
まだ輪郭を持たない時間。
黄昏時のように、
重く、深く、俺を包んでいた。




