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第28話 帳面と断片
図書室の扉を開けると、奥に人の気配があった。
入口から、机の配置はすべて見渡せる。
そのいちばん奥、本棚の手前に、ユイが座っている。
机の上には何冊もの本が広げられていた。
伏せられた頁、開いたままの背表紙。
雑然としているようで、どれも無作為には見えない。
「……こんにちは」
声をかけると、
ユイは少し遅れて顔を上げた。
「うん」
それだけだった。
紙の擦れる音だけが残る。
重苦しいわけじゃない。
けれど、軽くもない。
ユイは、視線を逸らさない。
「私ね」
一度、言葉を切る。
「まだ、やることがあるの」
事件のこと。
中庭。
教師たちの態度。
説明されなくても、
いくつかの断片が頭をよぎる。
俺は、一歩前に出ようとして──
止まった。
「エリオ」
ユイが俺の名を呼ぶ。
「あなたに、聞かないといけないことがあるの」
視線が、俺の鞄に向いた。
「帳面」
胸の奥が、わずかに詰まる。
俺は、すぐには動かなかった。




