第24話 日常と視線
あれから数日が経った。
学園は、落ち着いている。
噂は消え、昼休みの中庭には、いつもの喧騒が戻っていた。
笑い声。
食堂から持ち出されたパン。
昼の光の下で、時間は穏やかに流れている。
一見すれば、何事もなかったようだ。
ただ――
視線を、感じる。
誰かに見られている、というほどはっきりしたものではない。
気配、と呼ぶには弱い。
それでも、背中に残る感覚だけが消えない。
中庭を歩く生徒たちの中に、ひときわ浮いた存在があった。
生徒に混じっていても、おかしくはない。
けれど、同じ場所に立っているだけで、どこか違う。
制服ではない。
かといって、教師のものとも違う。
学園にいるはずの人間なのに、
どの立場にも収まっていない。
生徒たちの会話が、耳に入る。
「……あの人、誰?」
「生徒じゃないよね」
「先生?」
視線が集まり、すぐに逸らされる。
興味と警戒が、同時に混じっている。
記録補助の仕事柄、
学園にいる生徒の顔は、だいたい把握している。
――見覚えがない。
その人物は、騒がず、目立つ行動もしない。
ただ、学園の中を歩き、立ち止まり、周囲を見ている。
観察している。
そう感じた。
一瞬だけ、視線が合った。
相手は、すぐに目を逸らす。
こちらに関心を向けた様子はない。
それでも、
見られていた、という感覚だけが残った。
中庭の喧騒に戻る。
誰も気にしていないようで、
実際には、少しずつ視線が集まっている。
……一応、書いておこう。
人の少ない場所でノートを開く。
短く、事実だけを記す。
見覚えのない人物。
学園内を観察している様子。
閉じると、
昼休みのざわめきが、また耳に戻ってきた。
日常は、確かに戻っている。
それでも、その中に――
新しい違和感が、入り込んでいた。




