第19話 目的と恐怖
― ユイ視点 ―
放課後の学園は、昼よりも静かだった。
夕方の光が、通路の床を斜めに切っている。
生徒の数は減り、足音もまばらだ。
私は、人気のない通路を歩いていた。
理由はない。
ただ、今日は誰とも話す気にならなかった。
「九条結衣」
背後から、声。
振り返ると、そこにいたのは――
昼間、中庭にいた男だった。
制服ではない。
教師でもない。
年は、私と大きく変わらない。
それなのに、距離の取り方だけが、妙に慣れている。
「君がそうなんだね」
確認するような口調。
すでに答えを知っている声音だった。
「……何の用?」
私は足を止めた。
距離は、まだ十分ある。
男は、軽く肩をすくめた。
「君を刺した三人組から聞いたよ」
「あと、通路の血痕も」
淡々とした声だった。
感情は混じっていない。
「君、血の色が変わってたってさ」
一瞬、空気が冷えた。
「……あなたの目的は?」
回りくどい話をするつもりはない。
私は、正面から聞いた。
男は、少しだけ考える素振りを見せてから、口を開いた。
「困ってる人がいるんだ」
「君たちが、恐ろしくて仕方ない人たちがね」
言い方は穏やかだった。
まるで、善意の相談でもするみたいに。
「だからさ」
一歩、近づいてくる。
「消さなくちゃいけない」
「みんなのために」
私は動かなかった。
「……それが、あなたの正義?」
男は笑った。
「正義かどうかは、どうでもいいかな」
「助かる人がいるかどうか、それだけ」
その言葉は、軽い。
軽すぎて、背筋が寒くなる。
「本当はね」
男は、視線を細めた。
「君たちを消すために、この学園に来たんだ」
「君が関わってるって分かった以上、放っておけない」
逃げ道を塞ぐような言い方だった。
私は、静かに息を吐いた。
「……あなたは、誰?」
「ナツメ」
初めて名乗った。
「覚えなくていいよ」
「君が消えるなら、もう使わない名前だ」
距離が、詰まる。
その瞬間だった。
足元の石畳が、わずかに軋む。
――来る。
私は、反射的に身体を引いた。
次の瞬間、地面が盛り上がり、土の腕が伸びてくる。
ナツメは、最初から捕まえるつもりだった。
「逃げるんだ」
軽い声。
「でも、無駄だよ」
通路の空気が、完全に張りつめた。
ここから先は、言葉では終わらない。
私は、指先に意識を集中させた。
――次は、戦いになる。




